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家入レオ、ハタチの進化 19歳の「今」と20歳の「未来」が込められた新作について語る
20歳になってみないとわからないことがたくさんあった
家入 実は『20』以外にもいろいろと候補を考えていたんですけど、それも全部20歳を意識したタイトルだったんですね。だから「ここはシンプルに『20』がいちばんいいのかな」と思って。
――やはり20歳になるというのは大きな意味があったんですか。
家入 ありました。デビューするときに「これからはあなたのことは高校生じゃなくて、ひとりの大人として扱うから」って言われたんです。そのときから自分でもけっこう甘えなくやれてると思ってたんですけど、それでもガラス1枚分のフィルターはちゃんと設定してもらってたんですよね。誰かに何かを言われたとしても、ちょっとカドが丸くなった状態で自分のところに届く。そのガラスが抜き去られて、ホントの意味で責任を持てるようになったというか。何よりも自分自身が解放的になれましたね。
――自分で責任を取れるという状態が心地いいのでしょうか。誰に対しても1対1でしっかり向き合えるほうが性に合ってるんじゃないですか?
家入 好きですね(笑)。ケンカもしっかりやり合いたいタイプなんですよ。コミュニケーションが取れないのがいちばん苦痛だし、ちゃんと言い合えるのであれば、それは質のいい人間関係だと思いますね。もちろん人によって違うだろうし、あくまでも“私の場合は”ですけど。
――なるほど。今回のアルバム制作はやはり今まで以上に年齢を意識されたのでしょうか。
家入 アルバムも3枚目なので、デビュー前に作りためていた曲がなくなってきてるんですよ。そのぶんリアルタイムの曲が多くなっています。実際、今回はこの1年以内に出来た曲がほとんどなんですよね。
――つまり19歳のときに書いた曲ですね。
家入 そうですね。20歳をいちばん意識してたのって、19歳の1年だったんですよね。私は17歳でデビューしたんですけど、計算式を解いている途中で答えがバン!と出されることもけっこうあったんです。私が「こうしたい」ということに対して、「こうするべき」とすぐに答えを出されてしまう。そういうときに私は「20歳になれば」という言葉を使ってたんです。それは「いま頑張ったら、いい未来が待っている」というおまじないの役割だったような気がします。20歳になったときは「なんだ、こんなもんか」って思ったけど(笑)、それも20歳になってみないと分からなかったことですし。
「20代の喜び」「20代の悲しみ」を味わいたい
家入 そうですね。生きていれば嬉しいことも悲しいこともあるけど、20代になったら“20代の喜び”“20代の悲しみ”を味わいたいんです。そのためには10代の喜びや悲しみとしっかり向き合わないといけないって思って。そうしないと、10代の壁が形を変えてずっと立ちはだかる気がしたんですよ。「この瞬間を歌に刻みつけたい」というのはずっと言ってきたし、伝えたいメッセージも変わってないんですけどね。ただ、伝え方は変わってきたかもしれない。
――どんなふうに?
家入 誰かが私の家のドアをノックしたとして、前だったら番犬くらいの勢いで予防線を張ってたんですね。いまは「お茶でも飲んでいきませんか?」って優しく言えるようになったし、そのほうが(リスナーも)心の階段を下ってきやすいんじゃないかなって。1stアルバムの頃、「レオちゃんの曲を聴くときは、心の準備をしておかないとズタズタにやられちゃうんだよね」って言われたことがあって。それも自分の持ち味なのかなって思ってたんだけど、傷つく準備をしてもらわないほうが心の浸透率が上がるだろうし、もっと届くと思ったんですよ。そのためにはまず、私から両手を広げて、みんなを受け入れないとなって。そういう意味では、全体的に淡いアルバムになったと思います。
――アルバムの新曲についても聞かせてください。まず「little blue」は『20』というアルバムを象徴する楽曲のひとつじゃないかなと思います。
家入 これまでの20年間を振り返ろうと思って作った曲だし、すごく自分らしい曲になりました。青って自分らしい色だなって思うんです。空の青だとしたら明るいし、涙の色だとしたら悲しいじゃないですか。私は陰と陽がハッキリしているというか、感情の起伏が激しくて、それがすごくイヤなんです。そういうときの被害者って、じつは自分自身。感情のスイッチが入ってしまったとき、まわりの人は退出できるけど、自分は自分から逃げらないから。ただ、最近は「それがあるから、こうして歌を作って、歌っていられるんだろうな」と思えるようになってきたんです。これまでは子供っぽい喜怒哀楽だったと思うから、「little blue」という造語を考えたんですけどね。
――「lost in the dream」は大人っぽい雰囲気のラブソングですね。
家入 これは『カサブランカ』という映画からインスピレーションを受けて書いた曲です。好きな人に思いを伝えないという美学もわかるけど、やっぱり切なくなるというか、「何で伝えないの?」ってもどかしくなって。そのときに感じた気持ちから歌詞を書いてみました。
――「love&hate」のジャジーな雰囲気も、いままでになかった気がします。タバコの煙が似合うような…。
家入 そうですね(笑)。この曲は“バーに赤いワンピースの黒髪の女の子が入っていく”というイメージなんですよ。この歌詞の主人公はすごく「愛されたい」という気持ちがあるんですけど、そのままの自分に自信がないから、ずっと嘘を付いてるんですよね。心の底には「嘘を見抜いて、ここから救い出してほしい」という気持ちがあるんです。でも、支配したいという欲望もあって、誰かが頼ってきたときに、それを受け入れつつも、どこかで優越感を感じている。そういう暗い喜びについても歌ってるんですよね、この曲は。
自然体でライブに臨めるようになってきた
家入 曲を作ることや歌うことが、やっと楽しくなってきたのかもしれないですね。今までは毎日高校と現場を行き来してたから、どこかいっぱいいっぱいだったんですよ。楽しいとか苦しいと思う時間もないくらいの速さで流れていったというか。
――今は制作にも余裕を持って取り組めているんですね。
家入 そうですね。と言っても「TWO HEARTS」なんかはギリギリまで歌詞を直してましたけど(笑)。最初は高校生の恋愛を描いたんですけど、それだと少し浅いかなって。「このままだとステージで歌うときに胸を張れないな」と思ったし、そこは納得いくまでやらせてもらいました。
――「これをクリアしないと人には聴かせられない」というハードルがあるんですか。
家入 うん、あります! ギリギリまでこだわるという姿勢は、西尾芳彦プロデューサーにずっと見せてもらってますからね。逆に「Last Song」は迷いなく、スッと出来上がったんですよ。ずっと支えてくれる人たちのことを思って、シンプルに自分の気持ちを伝えようと思って。
――温かくて前向きな気持ちが感じられる曲ですよね。5月からは『20』を引っ提げたツアーがスタートしますが、ライブに臨む姿勢も変化してますか?
家入 年末の「COUNT DOWN JAPAN」くらいから変わってきたかもしれないですね。これまではずっとスイッチを切り替えてステージに上がってたんですけど、それをやめてみたんです。そしたら、すごくラクにスッと雰囲気に溶け込めて、「こっちのほうが届くのかもしれないな」って思いましたね。何て言うか、普段の自分以上のものを見せようとしないことの大切さに気づいたのかもしれない。自分に「必要以上に頑張って、踏ん張り過ぎてたんじゃない?」って問いかけてみたら、「そうかもね」という答えが返ってきて。そこに気づけただけも良かったんじゃないかなと思います。
――では最後に。20代の「家入レオ」が目指すものとは何でしょうか。
家入 それを見つけていきたいと思っています。10代は勢いでいけたところもあると思うんですけど、これからは自分で責任を持って、いろんなものを探していかないといけないなと思うんです。映画、音楽、本にももっともっと触れたいし、インプット、アウトプットをたくさんしていかないと。『20』は始まりのアルバムだと思ってるんですよ。10代の幕を閉めたアルバムでもあるし、この先はもっともっとステップアップしていかないとダメだなと思います。
(文/森朋之)