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桑田佳祐『ソロ活動の集大成がここに完成!“桑田佳祐フルコース”の2つの味わい方』
桑田佳祐のソロワークス集大成!2つの味わい方
桑田佳祐ソロ活動の足跡を辿るアルバムは、これまでに2枚発表されている。1992年の『フロム イエスタデイ』と2002年の『TOP OF THE POPS』がそれだ。前2作は、桑田を中心に結成されたバンドであるKUWATA BAND、SUPER CHIMPANZEEの作品までが収められているのに対し、『I LOVE YOU〜』はソロ名義による作品のみで構成されたベスト盤という位置づけになる。桑田佳祐が1人で成し遂げてきた足跡がいかなるものかをはっきりと見極めることのできる内容といえるだろう。
2枚組全30曲というフルボリュームにわたる充実した作品群の味わい方は大きく2つ。まずは、初CD化となった作品にクローズアップして聴き込むという“目新しい素材優先”パターン。三井住友銀行CMソング「幸せのラストダンス」、森永乳業『マウントレーニア ダブル』CMソング「CAFÉ BLEU」、フジテレビ系アニメ『ちびまる子ちゃん』エンディングテーマ「100万年の幸せ!!」、お台場合衆国2012テーマソング「MASARU」、ドコモthanksキャンペーンCMソング「愛しい人へ捧ぐ歌」の新曲5曲に、1986年と翌1987年の2年にわたり放送された『Merry X’mas Show』(日本テレビ系)のために書き下ろされた「Kissin’ Christmas(クリスマスだからじゃない)」を加えた全6曲がこれにあたる。
まず、5曲の新曲をアルバムに登場する順に紹介していこう。タイトル通り、ダンスを踊るかのような優雅さを持つサビのメロディーラインが印象的な「幸せのラストダンス」は、まっすぐな愛のフレーズが全編に散りばめられた心温まるラブソング。大好きな人への告白を後押ししてくれる“個人用”としても、友人の結婚式で披露しても喜ばれそうな“贈答用”としても重宝しそうな1曲だ。一方、「CAFÉ BLEU」が照らし出す世界はほろ苦い。すでにCMで半年くらいはオンエアされ、すっかり耳に馴染んだメランコリックなメロディの全貌が明らかになると、切なさが一層引き立ってきて耳を離れなくなる。サザンでも描かれそうな世界観だが、桑田ソロだと男くささがより押し出されていてシブい。
一転、ほんわかムードを奏でてくるのは、さくらももこが作詞した「100万年の幸せ!!」。100万年とはまたずいぶんと大きく出たな(笑)と思ってしまいそうだが、よくよく歌詞に目を通すと地球の行く末を案じてやまない、さくらさんの優しさが滲み出ていてギュッと胸を掴まれる。そんな歌詞を、世界を憂える気持ちは同じはずの桑田が歌う。ハッピーで前向きななかに「頑張ろう」と肩を叩かれるような強さを秘めた、まるちゃんからの“エール”なのである。
表情豊かな珠玉の作品群
そして、アルバム本編を締めくくるラストナンバーが「愛しい人へ捧ぐ歌」。自身の病気や震災などを通して感じた“生かされていることへの思い”から生まれてきたであろうと思しき曲。桑田の死生観が滲み出た、儚くも優しい1曲。と同時に“一歩前へ”というフォワード精神を鼓舞する姿勢もまた美しい。というように、5曲すべてが聴き逃すことのできない仕上がりであり、話題になること間違いなしの楽曲揃いとなっている。
話題沸騰といえば、以前より音源化が切望されながらも今まで実現することのなかった「Kissin’ Christmas〜」の初音源化を忘れてはいけない。ユーミンこと松任谷由実が作詞、桑田が作曲という超豪華な組み合わせが紡ぎ出した名曲は、哀しいシチュエーションが多い日本の代表的なクリスマスソング群とは対照的なハッピーなクリスマスを演出するナンバー。まるで長年にわたり一緒に作品を手がけてきたかのようなコンビネーションの良さを感じさせるとともに、26年の時を超越した馴染みやすさで、今年のクリスマスを彩ってくれそうだ。
と新曲、話題曲だけで充分に語れてしまうアルバムなのだが、いかんせんベストアルバムということで、このほかにも楽しさはてんこ盛り。そこで、もうひとつの味わい方となる、“桑田佳祐全行程トレース”パターンについてもお伝えしておきたい。『I LOVE YOU〜』には、その作品の発表順に曲が収録されている。なので、突然自省的になったり、ブラス・セクションやストリングス・セクションを強調した作りになったりという流れの変化が出てくる。しかし、それこそがこのアルバムを聴きながら、聴いている人自身が同じ時代にどんな心境の変化があったのか――<そういえば、「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」で桑田さんがソロ活動を始めた頃は友達と……>とか、<「白い恋人達」がヒットしていた時にはあの人と……>とか、<大事な人のことを思い出させてくれた「風の詩を聴かせて」には泣かされたなぁ>とか――を確認する“時空間移動”を可能にする最高に贅沢な楽しみ方かもしれない。
そして、さまざまな角度から味わい尽くした後には、桑田佳祐5年ぶりの全国ツアーが待っている。その時までに、このアルバムのタイトル“I LOVE YOU”に対する桑田へのメッセージをじっくりとため込んでいてほしい。
(文:田井裕規)
『I LOVE YOU -now & forever-』収録曲 一覧
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