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【編集長の目っ!】杏の声に“聴き惚れる”ラブソング集

■“歌でしか伝えられないもの、歌で伝えたいものがある”

 わかる人には、その人の声を聞いただけで、性格や、雰囲気、これまでどんな生き方をしてきたのかがわかるという。性格は顔に出るというけれど、声もその人の人生を表しているのだという。

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 だとしたら、はどんな人なんだろう。

 モデルとしても女優としても、文化人としても大活躍している彼女が、もうひとつの表現方法として、歌という手段を選んだ。
 彼女が出会ったラブソング達をカバーしているアルバム『LIGHTS』で、11月10日にミュージシャンとしてデビューを果たした。
 彼女の声を聴いただけで、彼女の歴史や、これまで積み上げてきた時間が僕にはわかるはずもなく、でもただひとつわかったこと、というか感じたことは「いい声だなぁ」ということ。


 「いい声」といっても難しい。その人にとっての「いい声」は人それぞれ、好みもあるだろうし、難しい。僕が思う「いい声」は色々なことを想像させてくれる声だ。それこそ、歌っている人がどんな生活を送ってきたのだろうとか、この人はどんな風景を見て育ったんだろうとか…歌い手の人生を想像、読み取ろうとしてしまう声。それと、歌詞、言葉から、風景を喚起させてくれる声。もちろん言葉の力だけでも風景が瞬時に頭の中に広がるが、声がその風景を更にクリアにしてくれるし、その空気の匂いや温度まで感じさせてくれる。

 杏の声がまさにそうだ。レコード会社から送られてきたサンプル盤から、最初に流れてきた「愛は勝つ」の頭の歌詞、“心配ないからね”という部分を聴いただけで、グイっと彼女の世界に引き込まれた。凛とした雰囲気の中に、意志の強さやせつなさ、哀しみを湛えている。真っ直ぐに突き進む力強さも伝わってくる。そしてどこか懐かしい肌触りで、優しく包み込んでくれるような、極上の温かさを残してくれる。懐かしいという表現が適切かどうかわからないけど、女性が持つ母性本能みたいなものを感じるということなのだろうか。だから包み込んでくれるような温かさが伝わってくるのだろうか。

 女優が歌手デビューというと、どうせ片手間でやってるんじゃないかと、いじわるな考え方をする人も中にはいるかもしれないが、彼女の場合「モデル、女優など様々なかたちで表現をするなかで、歌でしか伝えられないもの、歌で伝えたいものがある、と感じました」と、あくまで表現者として、歌でしか伝えることができない“想い”があるんだ、だから歌うんだ、と考え方がはっきりしているから、決して遊びでやっているわけじゃない。というか、こんなにいい声を持っているのだから歌うべき、だ。

 彼女がセレクトしたラブソングは、甘い恋愛物語を描いたものばかりではなく、生きていくうえで必要な様々な「愛」を歌ったラブソングだ。「愛は勝つ」(KAN)、「あなたへ」(浜田真理子)、「LIGHTS〜You light up my life〜」(デビー・ブーン)、「心の瞳」(坂本九)、「どんなときも。」(槇原敬之)、「謝々!」(スピッツ)という名曲達が、杏色に染め上げられ、届けられた。この6曲に共通しているのは、強くて美しい言葉で綴られているところ。そして一度聴くと忘れられないメロディが印象的というところだ。だからどの曲も歌うのは難しい。でも彼女は、原曲の良さをきちんとリスペクトしながらも、自分の解釈でしっかりと歌っている。決して高度なテクニックを持ち合わせているわけではなく、それよりも伝えたいという強い“想い”がしっかりと伝わってきて、胸に広がる。その“想い”を素直に伝えることの大きなチカラになっているのが、彼女の声だ。

 このアルバム、まずは目を瞑って最後まで聴いて欲しい。彼女の声のチカラを感じるはずだ。そして2回目は歌詞を見ながら聴いて欲しい。改めて言葉のチカラを感じるとともに、その言葉にさらにチカラを与えてくれる彼女の声に感動するはずだ。彼女が伝えたいこと=“想い”がきちんと伝わってきて、聴き手のそれぞれの“想い”と相まって、心の中に大きなものを残してくれる。

 彼女の声の良さを最大限に引き出しているだけではなく、曲の持つ“質感”を大切にしている亀田誠治、本間昭光の両プロデューサーのアレンジも素晴らしい。

 光が差すほうへ、手を繋いで一緒に歩いて行こうよ――杏がそう言ってくれている気がする――そんなアルバムだ。

⇒ 『編集長の目っ!!』過去記事一覧ページ 

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  •  
  • 11月10日発売のアルバム『LIGHTS』(初回盤) 
  • アルバム『LIGHTS』(通常盤) 
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