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【インタビュー】EMP吉田周作社長「良い音楽を生み出すためにプロフェッショナル集団としての体制を整える」

 ネットクリエイターやボカロPを中心に、さまざまなフィールドで活躍するアーティストの楽曲の権利を管理してきたエグジット音楽出版が、昨年9月1日、業務拡張に合わせて社名をEMPに変更。音楽出版のみならず、原盤(音源)の管理代行やYouTubeの収益化に関するサポート、クリエイター・アーティストのマネージメント、スタジオやエンジニアを擁しての制作業務に至るまで、個人・インターネット上で音楽を発信するクリエイター・作家・ミュージシャンの創作活動のための環境作りを、多岐にわたって手がける方針を打ち出した。これまでの経緯と狙い、今後の展望について、代表取締役社長の吉田周作氏に聞いた。

EMP大新年会2024「DRAGON THE FESTIVAL〜昇れ、龍の如く〜」集合写真

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■レコードメーカーだからこそインハウスのスタジオを持つべき

 エグジット音楽出版が著作権管理を行う音楽出版から一歩踏み出したのは、吉田氏の「エンジニアの人たちを守りたい」という思いが始まりだった。

「レコーディングだけでなく、マスタリング、映像、配信など、我々のビジネスはさまざまなエンジニアの方々に支えられています。しかし、働き方改革の流れの中で、社員と業務委託、アルバイトの方とでは、同じ仕事を担っていても勤務時間等の待遇に差が出るなど現場に歪みが生じ始めていました。そこで、母体であるポニーキャニオンの制作技術部のエンジニア集団をすべて弊社で受け入れ、制作技術のプロフェッショナル集団という形で体制を整えたのが、事業拡大の第1ステップでした」(EMP代表取締役社長 吉田周作氏)

 エンジニアに目を向けるようになったきっかけはいくつかあるが、その大きな要因の1つは、完成当時、東洋一と評判になった老舗レコーディングスタジオである一口坂スタジオの閉鎖だったという。

「一口坂スタジオの営業が終了した2012年当時は、スタジオの閉鎖が相次ぎ、各レコードメーカーも固定資産を手放して効率的な経営を目指すという流れになっていました。しかし、僕は、レコードメーカーこそインハウスのスタジオを持つべきだと考えていました。そこで、厳しい経営状況だった代々木のワンダーステーションを譲り受け、一口坂スタジオの魂を受け継ぐべく、使用されていた機材だけでなく、スタジオ内の壁に使用されていた千年杉なども移設しました。それらは長年、数々の素晴らしい音楽を吸収してきましたからね。と同時に、一口坂のエンジニアたちも弊社に来てもらいました。スタジオ運営は利益を出そうとすると失敗すると僕は考えています。スタジオを“利益を生む箱”と考えると、エンジニアは過酷な労働を強いられ、機材も新しいものを揃える余裕がなくなってしまうからです。そうではなく、グループ会社の中にいつでも好きに使えるスタジオがあることは素晴らしい財産の1つだと考えていたのです」(吉田氏)

 これらの取り組みは、ポニーキャニオングループにとって大きな力となっているようだ。EMP取締役制作技術部部長の能瀬秀二氏は次のように語る。

「エンジニアたちが働きやすくなったことはもちろんですが、スタジオを持ったことはアーティストに対しても大きな魅力になっており、スタジオを見てもらったことでスムーズに契約に至った例も多く、さまざまな効果が出ています」(能瀬氏)

渋谷スタジオ内に新しくできたマスタリングルーム

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■根底にあるのは、「プロフェッショナル集団を目指す」というビジョン

 良い音楽を生み出すためにも、創作のプロフェッショナル集団としての体制を整えるべき――。吉田氏が次のステップとして取り組んだのが、ボカロPやネットクリエイター、ミュージシャン、アーティスト等のクリエイターサポートの強化と、ポニーキャニオングループを中心としたビジネス・バックオフィスのサポートだった。

「当初からあった音楽出版部門をCS事業部と名付け、クリエイターのサポートも手掛け始めました。クリエイターサポートにおいては、アーティストが自由にクリエイティブなことができる環境を整えるサポートのほか、日々、YouTubeをチェックするなどして、新たな才能の発掘にも尽力しています。
 また、ポニーキャニオングループには大小さまざまな会社がありますが、小さい会社だと自社で管理部門を持つことが重責となってしまいます。そこで、ビジネスのサポートを行うBS事業部を立ち上げ、経理や総務人事といったバックオフィス業務を請け負いました。」(吉田氏)

 CS事業部で新人発掘にあたるEMP取締役CS事業部部長兼BS事業部部長の江尻哲也氏は言う。

「ボカロはここ数年で一段と盛り上がっており、比較的新しいボカロPのボカロ曲がYouTubeで100万再生、1000万再生となるケースも増えています。次々と新しいヒット曲やヒットクリエイターがたくさん生まれてきているので、日々新しい出会いがあり、大変やりがいに満ちています」(江尻氏)

 これらはすべて、「プロフェッショナル集団を目指す」というビジョンが根底にあり生まれたもの。それゆえ、業務拡大を進めながらも「会社として、利益の急拡大は目指していない」と吉田氏は断言する。

「エンジニアだけでなく、CS事業部の著作権やYouTube関係の業務はもちろん、BS事業部の経理や総務人事といったバッグオフィス業務はプロフェッショナルな技能や知識が必要です。EMPはそういうプロフェッショナルの集団であることをまずは浸透させることが重要だと考えています。たとえば、YouTubeでコンテンツを発信している人に音楽メーカーが連絡をとると警戒される場合があります。“儲かるからやる”という姿勢が“悪い大人が寄ってくる”という印象を持たれる原因にもなっていると思います。その意味でも、今の時代はおそらく緩やかな提携がよい形であり、歪みのない妥当な分配と、共感し合える信頼関係が築ければ、利益は後からついてくると思っています」(吉田氏)

今春より稼働する、『harevutaiスタジオ』(通称Vスタ)

今春より稼働する、『harevutaiスタジオ』(通称Vスタ)

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 今後の新たな展開として、2019年11月にオープンし、ポニーキャニオンから運営を任されている池袋のライブ劇場『harevutai』と、隣接する『harevutaiスタジオ』(通称Vスタ)を活用したイベントを今春より開催する予定だ。

「『harevutaiスタジオ』は、かつての渋谷スペイン坂スタジオのように外から収録の様子が見えるので、再開発により人通りが増えた地の利を活かして、『harevutai』とともに、周辺を楽しい雰囲気に作り上げていけたらと考えています」(吉田氏)

 さらに現在の活況を先頭に立って牽引してきたボカロにおいては、こんな構想も描いている。

「焦って海外に出ようとは考えていませんが、ボカロは国境を越えやすいと思いますし、今現在もさまざまな国でボカロ曲に励まされている人がいると思います。自分のまわりの小さいコミュニティだけでなく、世界を舞台に人の心を癒すボカロ曲やクリエイター、アーティストが増えるお手伝いができればと思います」(吉田氏)

「音楽で飯が食えるというのは素晴らしいこと」と目を輝かす吉田氏。クリエイターやアーティストのみならず、音楽業界で働くすべての人がそう胸を張れることにつながる“プロフェッショナル集団”EMPの取り組みに今後も期待したい。

文・河上いつ子

EMP大新年会2024年にて、Vスタからの中継によるヴァーチャル映像で登場した吉田社長(右)

EMP大新年会2024年にて、Vスタからの中継によるヴァーチャル映像で登場した吉田社長(右)

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■EMP 公式サイト:https://exittunes.com/
■「harevutai」公式サイト:https://harevutai.com/

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