今月19日に脳幹出血のため亡くなったロックバンド・BUCK-TICKのボーカル・櫻井敦司さん。1980年代〜90年代にかけ「『ロッキング・オン・ジャパン』『音楽と人』を通じて、旧世紀中は公私ともに濃密な時間を過ごしました」という音楽評論家・市川哲史氏が悼む。
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BUCK-TICKは日本でいちばんマニアックで、ダークで、実験的で、万人受けしない、変てこなロックを36年間一貫して鳴らしてきたにもかかわらず、日本でいちばんポップなロックバンドです。そしてフロントマンの櫻井敦司は、その非日常的な存在感と世界観を一身で体現してみせた、稀有な“負のエンタテイナー”でした。
私が知る櫻井敦司は、ロックバンドで唄うために生まれてきたとしか思えない、見た目も中身も「男前」の兄ちゃんでした。まだバンドとは無縁のころ、工場のベルトコンベアの前で、次々に流れてくる部品を眺めて「俺はなぜこんなことしてるんだろ」と思い詰めてた少年が音楽、特に暗黒ロックに触発されて自分を表現することに目醒めていった姿は、いたいけだけど頼もしく映りました。
旧世紀中、彼とは数えきれないほどインタビューをしたし、また一緒に何百時間酒を呑んだか見当もつきません。顔は笑ってましたが、心の中ではいつもいつも「俺ってなんなんだろう」と自問自答して、自己否定して、それでも袋小路な自分を表現しようと七転八倒していました。だけど彼だから、誰も聴いたことがない“スタイリッシュなネガティヴ・ロック”として成立したのです。
そんな彼独自の世界観が、国の内外問わず世代を問わず、広く同業者たちのシンパシーを集めたのは言うまでもありません。また、ここ10年ぐらいのBUCK-TICKを聴いてると、天性の“面倒くさくてセンシティヴな自分”を櫻井自身が大いに愉しんでいる様子が、これでもかと伝わってきました。
かつてのバンドブームから35年強が過ぎ、櫻井敦司のような歳の取り方ができる日本人ミュージシャンの存在がとてもうれしかっただけに、とても残念です。私が「デカダンス師弟タッグ」と呼び、彼が兄貴のように慕っていたDER ZIBETのISSAY逝去からたった2ヶ月半でこの訃報は、あまりにせつないです。
謹んでお悔やみ申し上げます。ああ。
市川哲史
音楽評論家。BUCK-TICKのインタビュー集『BT8992―Buck-Tick’s metamorphosis1989-1992』(ロッキング・オン社刊)をはじめ、著書、ライナーノーツ多数。
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BUCK-TICKは日本でいちばんマニアックで、ダークで、実験的で、万人受けしない、変てこなロックを36年間一貫して鳴らしてきたにもかかわらず、日本でいちばんポップなロックバンドです。そしてフロントマンの櫻井敦司は、その非日常的な存在感と世界観を一身で体現してみせた、稀有な“負のエンタテイナー”でした。
私が知る櫻井敦司は、ロックバンドで唄うために生まれてきたとしか思えない、見た目も中身も「男前」の兄ちゃんでした。まだバンドとは無縁のころ、工場のベルトコンベアの前で、次々に流れてくる部品を眺めて「俺はなぜこんなことしてるんだろ」と思い詰めてた少年が音楽、特に暗黒ロックに触発されて自分を表現することに目醒めていった姿は、いたいけだけど頼もしく映りました。
旧世紀中、彼とは数えきれないほどインタビューをしたし、また一緒に何百時間酒を呑んだか見当もつきません。顔は笑ってましたが、心の中ではいつもいつも「俺ってなんなんだろう」と自問自答して、自己否定して、それでも袋小路な自分を表現しようと七転八倒していました。だけど彼だから、誰も聴いたことがない“スタイリッシュなネガティヴ・ロック”として成立したのです。
そんな彼独自の世界観が、国の内外問わず世代を問わず、広く同業者たちのシンパシーを集めたのは言うまでもありません。また、ここ10年ぐらいのBUCK-TICKを聴いてると、天性の“面倒くさくてセンシティヴな自分”を櫻井自身が大いに愉しんでいる様子が、これでもかと伝わってきました。
かつてのバンドブームから35年強が過ぎ、櫻井敦司のような歳の取り方ができる日本人ミュージシャンの存在がとてもうれしかっただけに、とても残念です。私が「デカダンス師弟タッグ」と呼び、彼が兄貴のように慕っていたDER ZIBETのISSAY逝去からたった2ヶ月半でこの訃報は、あまりにせつないです。
謹んでお悔やみ申し上げます。ああ。
市川哲史
音楽評論家。BUCK-TICKのインタビュー集『BT8992―Buck-Tick’s metamorphosis1989-1992』(ロッキング・オン社刊)をはじめ、著書、ライナーノーツ多数。
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2023/10/24