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演出の可能性広がる透過スクリーン常設 未来型ライブ劇場「harevutai」成功の秘訣とは

 2019年11月、東京・池袋にオープンした未来型ライブ劇場「harevutai」。ポニーキャニオンが運営するこのライブ劇場は、音楽ライブやお笑いライブ、演劇の上演に必要な音響や照明、LEDといった最新設備と配信設備が常設され、リアルライブと配信ライブに対応した劇場として、コロナ禍でも大きな注目を集めてきた。劇場全体の企画・運営を担当するポニーキャニオン経営本部チーフプロデューサーの佐藤正朗氏と、店長の田中洋子氏に、これまでの経緯と今後の展望を聞いた。

舞台奥のLEDヴィジョンに投影した4K映像と透過スクリーンを組み合わせることでさまざまな演出が可能となる

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■アーティストのニーズに寄り添う最新の機材と配信設備

「harevutai」で、まず観客を出迎えるのは、華やかなエントランスのLED照明だ。色の組み合わせやデザインを、公演ごとに変えられるのが特徴で、客席に足を踏み入れると、収容人数500人とは思えないほどのステージとの距離の近さに、胸が躍る。

 しかし、オープンから半年も経たない間に新型コロナウイルスが流行。「harevutai」も閉鎖を余儀なくされたが、オープン当初から配信設備に力を入れていたことが功を奏したという。

佐藤「harevutai」は「池袋をアニメやマンガを愛する乙女の聖地に」という豊島区のブランディングを受けて、プロジェクトの当初から僕が携わって作った小屋(=ライブ劇場)です。プロジェクトがスタートした当時、弊社にボカロをメインにした「エグジットチューンズ」というレーベルがあったので、アニメ好きの10〜20代の女性が集まる小屋にできたらいいなと考えまして。そういったファンのニーズを踏まえて、配信ライブも視野に入れて設計していきました。お陰で、コロナ禍の配信ライブへの移行はスムーズでしたね。

田中 実際、コロナ禍では多くのアーティストの方に配信ライブの会場としてご利用いただいたのですが、ファンが集まって密になるのを避けるために、会場が「harevutai」だと宣伝することはできなかったんです。オープンしたばかりのライブ劇場としては厳しい状況でしたが、ご利用いただいた方々の間で、「どこで撮影したの?」と話題にしていただき、口コミでユーザーが広がっていきました。

 ライブ配信の機材と回線が充実していることや美しいLEDヴィジョンが評判を呼び、コロナ禍では思いがけない需要も増えた。それは、企業による新商品のリリースイベントや記者会見、新作映画の発表イベントなどだ。同時に、ドラマやバラエティー番組などの撮影に劇場が使われることも増えていったという。

田中 LEDヴィジョンは高精細なので、ステージの背景としてだけでなく、バックパネルとしても使っていただけます。また、仮設ステージを使用し、ステージそのものをいろいろな形に変えられるのもこの小屋の強みです。サッカーチームの新ユニフォームの発表会では、客席スペースにランウェイのように設置し、ファッションショーのような演出でもご利用いただきました。

佐藤 記者会見やテレビ番組の撮影は音楽ライブとは照明の使い方が違うので、最初はスタッフも戸惑いましたが、今ではどんなオーダーにも対応できるようになりました。また、コンサート制作に携わっていた僕自身の経験を活かし、搬入口から楽屋や物販スペースまでの動線をスロープ状にして、機材を運び込みやすい設計にしています。設計段階で大変苦労した部分ではあったのですが、お陰で多彩なニーズにも柔軟に対応することができています。スタッフの衣装や髪型もTPOに合わせて変えるよう心がけているので、企業の皆さんにも安心して使っていただけるのではないでしょうか。

写真左から ポニーキャニオン経営本部harevutai推進グループチーフプロデューサー 佐藤正朗氏、harevutai店長 田中洋子氏

写真左から ポニーキャニオン経営本部harevutai推進グループチーフプロデューサー 佐藤正朗氏、harevutai店長 田中洋子氏

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■演出の可能性が無限に広がる ライブ劇場常設の透過スクリーン

「harevutai」の大きな特徴が、ステージ後方の巨大なLEDヴィジョンと、ステージの前方にある透過スクリーンだ。LEDヴィジョンに「背景」を映し、同時に透過スクリーンに別の映像を投影することで、ステージ上で奥行きのある「空間」を演出することができる。音楽系ライブの場合、透過スクリーンに歌詞や映像を映し出し、PVのような空間を再現するアーティストが多いという。

 また、透過スクリーンを使うと、照明の当て方次第でステージの見え方が全く変わるため、例えば顔出しNGのアーティストが、顔を見せない状態でパフォーマンスすることも可能。これまで配信でなければ見られなかったアーティストのリアルなライブを、至近距離で楽しむことができるようになった。

田中「透過スクリーン」と言ってもピンと来ない方も多いですから、打ち合わせの段階ではまず、どんな演出ができるのかを見ていだきます。その上で公演ごとに具体的な演出を固めていくのですが、演者の方から思いがけないご提案やアイデアをいただくこともありました。例えば、2021年のかまいたちさんの単独ライブ『ON THE WAY』では、透過スクリーンを使って山内健司さんを1人増やした状態の“3人”での漫才が実現したんです。また、オープニングも透過スクリーンを駆使して、アーティストライブのようなクールな映像を作り込まれていました。

佐藤 事前に撮影した山内さんの映像と、リアルの山内さんがボケ倒して、濱家隆一さんが2人にツッコんでいくというネタだったのですが、その発想は我々にはなかったので驚きました。その後、高田純次さんが『じゅん散歩』でいらっしゃった時には、かまいたちさんのアイデアを応用させていただいて。高田さんがダンスしている映像を透過スクリーンに映し出して、リアルの高田さんに解説をしてもらったんです。舞台上の人物を邪魔せず映像を映すことができ、「harevutai」ならではの演出になりました。

2019年のオープン当時、透過スクリーンを日本で初めて常設したharevutai

2019年のオープン当時、透過スクリーンを日本で初めて常設したharevutai

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■ハードも機材もいいけど人もいい 「また来たい」と思ってもらえる場所を目指して

 最新の機材によって新たな演出の可能性の扉を開き、今後のエンターテインメント界をけん引していく存在になりそうな「harevutai」。この先、どのような仕掛けで観客を楽しませてくれるのだろうか。

佐藤 直近の予定ですと、透過スクリーンが最新のものに変わります。オープンから3代目のスクリーンとなりますが、これによって僕らがやりたかった演出がすべて可能になるはず。他にも、LEDを天井や床に伸ばしてみたらもっと面白い演出が可能になると思いますし、ハード面ではまだまだ可能性がたくさんあると感じています。

田中 とはいえ、最終的に一番大切なのは「人」だと思っています。どんなにハードが良くても、コミュニケーション面で難アリの小屋は、アーティスト側からもお客様からも「もう一度行きたい」と思ってもらえませんから。引き続きスタッフの育成には力を入れていきたいですし、トイレなどの設備の衛生面や使いやすさなど、きめ細やかなおもてなしを追求していきたいです。せっかく足を運んでくださったお客様に、「また来たいね」と言っていただける劇場であり続けたいと考えています。

 11月にはライブ劇場の隣に、「harevutai studio」(仮称)のオープンを予定している。モーションキャプチャーにも対応したこのスタジオと、「harevutai」をリアルタイムでつなげることによって、VTuberのライブ配信などの可能性もますます広がっていくという。さまざまなエンターテインメントをより楽しめる場所へ、「harevutai」はこれからも進化していきそうだ。

きめ細やかなおもてなしを心がけるスタッフ。右手の「v」は「harevutai」の「v」

きめ細やかなおもてなしを心がけるスタッフ。右手の「v」は「harevutai」の「v」

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文・須藤美紀

■「harevutai」公式サイト:https://harevutai.com/

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