チューンコアジャパンが運営する音楽デジタルディストリビューションサービス『TuneCore Japan』がサービス開始から10周年を迎えた。それを記念して6月9日に初のアワード『Independent Artist Awards by TuneCore Japan』を開催。会場には、Tani Yuukiやyama、cinnamons,evening cinema、Kotoha、Repezen Foxx…、インディペンデントの枠を超えたプレゼンスを発揮する多くのアーティストたちが集い、今のインディーシーンの大きな盛り上がりを象徴するイベントとなった。
■サービス開始10年で還元額は約126億円に インディペンデント・アーティストの躍進
「yamaさんらメジャーと契約したアーティストもアワードに出席してくださったのはものすごく嬉しかったですし、あの場にあれほど多くの人に集まってもらえて、それぞれのストーリーを紹介できたことは、とても良かったなと思っています」
そう語るのはTuneCore Japan代表取締役社長の野田威一郎氏。インディペンデント・アーティストの活動を支えるディストリビューターとして、存在感を高めていった同社の歩みが詰まった本アワードでプレゼンターを務めた野田氏は、登壇するアーティストに気さくに声がけし、実に晴れやかな表情でトロフィーを贈呈する姿が印象的だった。
「正直言って今の状況に至るまで、想像していたよりも時間がかかったな、という気持ちもあります。でも、今回集まってくれたアーティストたちの音楽は、もはや知る人ぞ知るというよりは、大人も子どもも知っているというレベルの、ポピュラーなものになっていますよね?」(野田氏/以下同)
TuneCore Japanのサービス開始当初、日本では定額制のストリーミングサービスに関心が集まっておらず、ダウンロード方式の配信ばかり。しかも市場が小さいということもあり全く見向きもされなかったそうだが、この数年の成長は目覚ましく、22年度の「ストリーミング再生数と収益シェア」で国内3位(オリコン・リサーチ調べ)となった。それに伴い、アーティスト・レーベルへの還元額も大きく伸長し、22年度には約126億円(前年比128%)と、ついに100億円を突破した。12年のサービス開始以来、累積の還元総額は393億円であることからも、近年の急成長ぶりがうかがえるというものだ。
「我々がTuneCore Japanをスタートした頃は、“ダウンロードってあまりお金にならない”というイメージを多くの人が持っていて、まだまだCD制作への意欲が強かったですね。海外では音楽ストリーミング市場が伸び始めていましたが、国内ではHIP HOPやボカロ系など、オンラインでトラックを制作する人たちが使い始めているといった状況でした。15年に『LINE MUSIC』や『Apple Music』といったストリーミングサービスが立て続けに始まり、それまでのダウンロードとは異なる音楽の発表の場が、目に見える形で新たに登場しました。これで一気に風向きが変わると期待したのですが、アーティストの意識が変化し、リスナーが増加するにはもうしばらく時間を要しましたね」
■ストリーミングで“マネタイズできる”安心感 アーティストの音楽活動のスタイルに変化
ここ数年で国内の定額制の音楽ストリーミングサービス市場は急成長した。その要因は、コロナ禍の巣ごもり需要の影響だという説や、たまたま時期がコロナ禍に重なっただけでなるべくしてなったという説などがあるが、ここで注目したいのは、インディペンデント・アーティストを取り巻く環境が大きく変わり、「アーティスト側がストリーミングで“マネタイズできる”という確信を持ったこと」という野田氏の言葉だ。
「当社のアーティスト・レーベルへの還元額がグッと伸び始めたのが18年頃でした。TuneCore Japanを利用するHIP HOPのアーティストの楽曲が、ティーンエイジャーを中心に利用されていた『LINE MUSIC』で聴かれるようになり、彼らが“もうかった感(ヒット感)”を上手く出してくれたので、マネタイズできるという安心感がアーティストに広がっていきました。そうして次第に我々のサービスが認知され、利用者が増えていったのです。YouTuberの収入に注目が集まり、高校生が動画の1再生あたりの広告収入を気にするなど、クリエイターのビジネスマインドにも変化が出てきた時期で、そういう中で、ストリーミングサービスに対する信頼性が上がったのだと思います」
また、アーティスト自身の意識の変化も大きかったと野田氏は言う。かつては、音楽活動をビジネスとしても成立させるためには、メジャーでの活動は不可避だった。それが今や、「音楽をやって生きていく」ことは、「メジャーで活動する」ことと必ずしもイコールではなくなり、インディペンデントでの活動も十分に選択肢と成り得るようになってきた。実際のところ、メジャーとインディペンデントでの活動を並行して継続させているアーティストは少なくない。野田氏が10年前にTuneCore Japanをスタートさせた理由の1つに、アーティストに様々な音楽活動の選択肢を提示したい、という思いもあった。
「僕らは独立を促しているわけではなくて、もともとアーティストは個々に独立した活動を行っている、という考えのもとにサービスを行っています。いろんな活動のやり方があるわけで、ストリーミングはその手段の1つ。ベンチャー企業として少人数でTuneCore Japanを始めた我々にとって、根底にある意識や精神はアーティストがバンドを始めるときの感覚と同じだと思うんです。そういう気持ちもあるから、インディペンデントを応援したい気持ちが強いのかもしれません」
■キャッチフレーズ「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」音楽クリエイターのエコシステムを強化
また、野田氏がストリーミングにおいて大事だと語るのは「積み上がっていく」という考え方。これは作品のリリースの仕方においてもプロモーションに関しても、現代の重要なキーワードと言える。
「ストリーミングは様々なジャンルのファンにリーチできます。散在する濃いファンが積み上がっていくことで、アーティストの活動資金となります。いったんプレイリストに入れば継続的に聴き続けてもらえますし、新曲を配信すればそれに引っ張られて他の曲も聴かれ、それが積み上がっていくと、ライフタイムで考えれば大きな額になります。だからこそ、音楽を作っているのなら、なるべく早い段階でストリーミングを経験してほしいですね」
そのために同社はストリーミング配信に関する勉強会を定期的に行い、音楽専門学校で特別授業を開くなど、ユーザー側のネットリテラシー向上に関する活動にも力を入れている。こうした啓蒙に加え、より使いやすくなるように機能追加も怠らない。近年では、アーティスト側が各音楽ストリーミングサービスのリンクをまとめてシェアできる「LinkCore(短縮URL&アナリティクス機能)」や、収益を分配できる「Split(収益の自動分配機能)」、著作権管理サービスがユーザーから高評価を得たという。
時代の変化に対応しながら日々進化し続けていくストリーミングの世界。大きく飛躍した22年を経て、TuneCore Japanは今年、どのような展望を掲げているのだろうか。
「手軽に始められるのがTuneCore Japanの特徴の1つですが、今後の取り組みとして、楽曲を軸に、アーティストやクリエイターをつなげていく、音楽クリエイターのエコシステムを強化していきます。具体的には、二次創作を通じてアーティストやクリエイターを支援する企画(『Rework with』)で、定期開催していきます」
その第1弾として現在開催中なのが、デビュー20周年を迎えた一青窈の名曲「ハナミズキ」とのコラボレーション『Rework with ハナミズキ』(9月8日まで)だ。楽曲パラデータを公開して、ハナミズキの二次創作楽曲をTuneCore Japanで無料配信リリースでき、配信リリースした楽曲は、配信による収益の50%を収益化できるというもの。この企画に賛同した一青窈は「とても大切な曲である『ハナミズキ』をアレコレいじってもらって新しい『ハナミズキ』が生まれるのが楽しみです!(中略)新しい音に出会えるのを誰よりも心待ちにしています!」と、この取り組みに胸を膨らませている。
TuneCore Japanは、サービスインから10年を経て、キャッチフレーズを「あなたが作った楽曲を世界に」から「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」へと一新した。ここで言うセカイとは、グローバルという意味と、アーティスト自身の周辺というダブルミーニング。つまり、音楽を世界へ配信することが特別なものでなくなった今、これまで以上に音楽でアーティストの世界観をつなげていこうというものだ。この言葉が示すように、同社の音楽業界における役割も、個人と世界をつなげるものから、個人同士をつなげて世界を広げていくという次のフェーズへと明確に歩みを進めているようだ。
文・布施雄一郎
【会社概要】
■会社名:チューンコアジャパン株式会社
■設立:2012年2月
■代表取締役社長:野田威一郎
■資本金:4500万円
【音楽デジタルディストリビューションサービス『TuneCore Japan』】
自分で作った楽曲を、利用者であれば、『誰でも』世界中(185ヶ国以上)の配信ストアで販売できる、音楽配信ディストリビューションサービス。2012年10月より、日本でのサービスを開始しており、アーティストへの総還元額は393億円を突破。国内外問わずアーティストが楽曲販売可能な音楽配信ストア及び新機能を追加し続け、積極的に事業展開を行っている。
■サービス開始10年で還元額は約126億円に インディペンデント・アーティストの躍進
「yamaさんらメジャーと契約したアーティストもアワードに出席してくださったのはものすごく嬉しかったですし、あの場にあれほど多くの人に集まってもらえて、それぞれのストーリーを紹介できたことは、とても良かったなと思っています」
そう語るのはTuneCore Japan代表取締役社長の野田威一郎氏。インディペンデント・アーティストの活動を支えるディストリビューターとして、存在感を高めていった同社の歩みが詰まった本アワードでプレゼンターを務めた野田氏は、登壇するアーティストに気さくに声がけし、実に晴れやかな表情でトロフィーを贈呈する姿が印象的だった。
「正直言って今の状況に至るまで、想像していたよりも時間がかかったな、という気持ちもあります。でも、今回集まってくれたアーティストたちの音楽は、もはや知る人ぞ知るというよりは、大人も子どもも知っているというレベルの、ポピュラーなものになっていますよね?」(野田氏/以下同)
TuneCore Japanのサービス開始当初、日本では定額制のストリーミングサービスに関心が集まっておらず、ダウンロード方式の配信ばかり。しかも市場が小さいということもあり全く見向きもされなかったそうだが、この数年の成長は目覚ましく、22年度の「ストリーミング再生数と収益シェア」で国内3位(オリコン・リサーチ調べ)となった。それに伴い、アーティスト・レーベルへの還元額も大きく伸長し、22年度には約126億円(前年比128%)と、ついに100億円を突破した。12年のサービス開始以来、累積の還元総額は393億円であることからも、近年の急成長ぶりがうかがえるというものだ。
「我々がTuneCore Japanをスタートした頃は、“ダウンロードってあまりお金にならない”というイメージを多くの人が持っていて、まだまだCD制作への意欲が強かったですね。海外では音楽ストリーミング市場が伸び始めていましたが、国内ではHIP HOPやボカロ系など、オンラインでトラックを制作する人たちが使い始めているといった状況でした。15年に『LINE MUSIC』や『Apple Music』といったストリーミングサービスが立て続けに始まり、それまでのダウンロードとは異なる音楽の発表の場が、目に見える形で新たに登場しました。これで一気に風向きが変わると期待したのですが、アーティストの意識が変化し、リスナーが増加するにはもうしばらく時間を要しましたね」
ここ数年で国内の定額制の音楽ストリーミングサービス市場は急成長した。その要因は、コロナ禍の巣ごもり需要の影響だという説や、たまたま時期がコロナ禍に重なっただけでなるべくしてなったという説などがあるが、ここで注目したいのは、インディペンデント・アーティストを取り巻く環境が大きく変わり、「アーティスト側がストリーミングで“マネタイズできる”という確信を持ったこと」という野田氏の言葉だ。
「当社のアーティスト・レーベルへの還元額がグッと伸び始めたのが18年頃でした。TuneCore Japanを利用するHIP HOPのアーティストの楽曲が、ティーンエイジャーを中心に利用されていた『LINE MUSIC』で聴かれるようになり、彼らが“もうかった感(ヒット感)”を上手く出してくれたので、マネタイズできるという安心感がアーティストに広がっていきました。そうして次第に我々のサービスが認知され、利用者が増えていったのです。YouTuberの収入に注目が集まり、高校生が動画の1再生あたりの広告収入を気にするなど、クリエイターのビジネスマインドにも変化が出てきた時期で、そういう中で、ストリーミングサービスに対する信頼性が上がったのだと思います」
また、アーティスト自身の意識の変化も大きかったと野田氏は言う。かつては、音楽活動をビジネスとしても成立させるためには、メジャーでの活動は不可避だった。それが今や、「音楽をやって生きていく」ことは、「メジャーで活動する」ことと必ずしもイコールではなくなり、インディペンデントでの活動も十分に選択肢と成り得るようになってきた。実際のところ、メジャーとインディペンデントでの活動を並行して継続させているアーティストは少なくない。野田氏が10年前にTuneCore Japanをスタートさせた理由の1つに、アーティストに様々な音楽活動の選択肢を提示したい、という思いもあった。
「僕らは独立を促しているわけではなくて、もともとアーティストは個々に独立した活動を行っている、という考えのもとにサービスを行っています。いろんな活動のやり方があるわけで、ストリーミングはその手段の1つ。ベンチャー企業として少人数でTuneCore Japanを始めた我々にとって、根底にある意識や精神はアーティストがバンドを始めるときの感覚と同じだと思うんです。そういう気持ちもあるから、インディペンデントを応援したい気持ちが強いのかもしれません」
■キャッチフレーズ「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」音楽クリエイターのエコシステムを強化
また、野田氏がストリーミングにおいて大事だと語るのは「積み上がっていく」という考え方。これは作品のリリースの仕方においてもプロモーションに関しても、現代の重要なキーワードと言える。
「ストリーミングは様々なジャンルのファンにリーチできます。散在する濃いファンが積み上がっていくことで、アーティストの活動資金となります。いったんプレイリストに入れば継続的に聴き続けてもらえますし、新曲を配信すればそれに引っ張られて他の曲も聴かれ、それが積み上がっていくと、ライフタイムで考えれば大きな額になります。だからこそ、音楽を作っているのなら、なるべく早い段階でストリーミングを経験してほしいですね」
そのために同社はストリーミング配信に関する勉強会を定期的に行い、音楽専門学校で特別授業を開くなど、ユーザー側のネットリテラシー向上に関する活動にも力を入れている。こうした啓蒙に加え、より使いやすくなるように機能追加も怠らない。近年では、アーティスト側が各音楽ストリーミングサービスのリンクをまとめてシェアできる「LinkCore(短縮URL&アナリティクス機能)」や、収益を分配できる「Split(収益の自動分配機能)」、著作権管理サービスがユーザーから高評価を得たという。
時代の変化に対応しながら日々進化し続けていくストリーミングの世界。大きく飛躍した22年を経て、TuneCore Japanは今年、どのような展望を掲げているのだろうか。
「手軽に始められるのがTuneCore Japanの特徴の1つですが、今後の取り組みとして、楽曲を軸に、アーティストやクリエイターをつなげていく、音楽クリエイターのエコシステムを強化していきます。具体的には、二次創作を通じてアーティストやクリエイターを支援する企画(『Rework with』)で、定期開催していきます」
その第1弾として現在開催中なのが、デビュー20周年を迎えた一青窈の名曲「ハナミズキ」とのコラボレーション『Rework with ハナミズキ』(9月8日まで)だ。楽曲パラデータを公開して、ハナミズキの二次創作楽曲をTuneCore Japanで無料配信リリースでき、配信リリースした楽曲は、配信による収益の50%を収益化できるというもの。この企画に賛同した一青窈は「とても大切な曲である『ハナミズキ』をアレコレいじってもらって新しい『ハナミズキ』が生まれるのが楽しみです!(中略)新しい音に出会えるのを誰よりも心待ちにしています!」と、この取り組みに胸を膨らませている。
TuneCore Japanは、サービスインから10年を経て、キャッチフレーズを「あなたが作った楽曲を世界に」から「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」へと一新した。ここで言うセカイとは、グローバルという意味と、アーティスト自身の周辺というダブルミーニング。つまり、音楽を世界へ配信することが特別なものでなくなった今、これまで以上に音楽でアーティストの世界観をつなげていこうというものだ。この言葉が示すように、同社の音楽業界における役割も、個人と世界をつなげるものから、個人同士をつなげて世界を広げていくという次のフェーズへと明確に歩みを進めているようだ。
文・布施雄一郎
【会社概要】
■会社名:チューンコアジャパン株式会社
■設立:2012年2月
■代表取締役社長:野田威一郎
■資本金:4500万円
【音楽デジタルディストリビューションサービス『TuneCore Japan』】
自分で作った楽曲を、利用者であれば、『誰でも』世界中(185ヶ国以上)の配信ストアで販売できる、音楽配信ディストリビューションサービス。2012年10月より、日本でのサービスを開始しており、アーティストへの総還元額は393億円を突破。国内外問わずアーティストが楽曲販売可能な音楽配信ストア及び新機能を追加し続け、積極的に事業展開を行っている。
2023/07/14





