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【ライブレポート】稲葉浩志、ミュージシャンシップ溢れるステージ 5人編成のバンドを体現

稲葉浩志と言えば、言わずもがなロック・ユニットB'zのシンガーである。B’zのパブリック・イメージの一端を担う、その彼がソロ・ライブ『Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜』(2月1日・2日)を行うという。どのようなソロ・ライブを魅せてくれるのか。2月1日、はやる気持ちで会場となる横浜アリーナへ向かった。フロアのセンターに設置された円形ステージで歌う姿は、B'zで見せるロックスターの装いとはひと味もふた味も違う、まるで無邪気に音楽と戯れるバンドマン/ボーカリストといった印象で、新たな魅力が垣間見えるライブであった。

稲葉浩志「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」

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■「5人編成のバンド」を体現 360度の円形ステージでのスペシャルライブ

 「en」とは、稲葉浩志がソロ活動において大切にしている言葉(表現の“演”、人と人とをつなぐ“縁”、1つになる“円”などの意味が込められているという)。ソロ・ライブでは『Koshi Inaba LIVE 2016 〜enIII〜』以来、約7年ぶりにタイトルに掲げられた。それを“3.5”という数字とした理由は、MCで次のように説明された。

「自粛期間中に作品を作っていて、作っていると曲の形にしたくなり、形になると人前で演奏したくなるという自然な欲求の元で、『2月の頭に(スケジュールが)空いてるよ』ということで、じゃあやろうか、と(笑)。なので突発的に、この会場だけの開催ということで“3.5”となりました」

 このエピソードから、今回のライブが何かコマーシャル的に企画されたものではなく、極めて純粋なミュージシャンのクリエイティビティとして、良きタイミングで、良きバンド・メンバーが集ったことによって実現したライブであったことがわかる。そのメンバーとは、これまでに稲葉のソロやB'zでのライブ/レコーディング経験を持つ、徳永暁人(B)、DURAN(G)、サム・ポマンティ(Key)に加え、Mr.Childrenのドラマー鈴木英哉の4人。B'zとMr.Childrenと言えば、2021年9月に開催されたスペシャルなコラボレーション・ライブ『B'z presents UNITE #01』を思い出す人は多いだろう。鈴木の参加は、それが大きなきっかけとなったであろうことは想像に難くなく、本人の口からは、他バンドのサポート・メンバーとしてライブに参加するのは今回が初であることが明かされた。

「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」フロア中央に設置された円形ステージ

「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」フロア中央に設置された円形ステージ

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 肝心のライブの中身でもっとも印象に残ったのは、「シンガー+バックバンド」の図式を打ち破り、「5人編成のバンド」を体現していた点だ。稲葉が円形ステージを回りながら歌う様は、ステージを360度囲む観客に対するサービスといった意味合いだけでなく、各メンバーと頻繁にアイコンタクトを取りながら、時には肩を組みながらパフォーマンスを行うことで、これは5人全員のライブであることを示しているようであった。そう、彼は敢えて5人全員が対等な立場でのロックバンドとしての演奏を望んでいたのではないだろうか。

 その意識は、演出面にも色濃く表れていたように思える。大規模なセットや観客に驚きを与える斬新な演出は控えめにし、無機質に楽器や機材を積み上げたような、ラフなステージセットによって、横浜アリーナは巨大なライブハウスのように感じられた。さらに、メンバーがそれぞれに音を鳴らしながら、そこから自然と曲に入っていくという、何度か見られた光景は、まるでジャズ・クラブでのセッションのようでもあった。他にも、衣装チェンジも少なく、アンコールで最新曲「BANTAM」を歌う際も、そのことには一切触れずに、MC無しで演奏が始まった点からも、“音楽ファースト”なライブにしたいという意図を汲み取ることができた。

 演奏面では、オープニングや1曲目の「愛なき道」アウトロなど、稲葉は随所でブルースハープを披露し、「I AM YOUR BABY」「Salvation」「BLEED」「静かな雨」「波」「あの命この命」など、多くの曲でアコースティック・ギターをプレイ。歌も含めて、演奏そのものを存分に楽しんでいるように見受けられた。

 もちろん、稲葉が奏でる最も魅力的な楽器、つまり“ボーカル”に関しても同様だった。声の表情からピッチ感、説得力まで、スキル面のレベルの高さはさすがのひと言。しかし、音楽的な正確さ以上に感情表現に重きを置くかのように、時に静かに深く観客の心を揺さぶり、時に力強く聴き手のテンションを高ぶらせる表現力は圧巻だった。中でも「遠くまで」のエンディングでアリーナに響き渡らせたロングトーンは圧倒的な凄みを放ち、トップ・シンガーの実力をまざまざと見せつけてくれた。

稲葉浩志「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」

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■チャレンジを実現した稲葉へ1万5000人の歓声のご褒美「ミュージシャンとして、生まれ変わったような気分」

 ただひたすらに、音楽を奏で、それを皆に聴いて欲しい。そんなピュアなミュージシャンシップが溢れたセンターステージは、この日に集った5人の熟練ミュージシャンだからこそ許される、最高の“大人の遊び場”だったと言えよう。そして、そのステージに鮮やかな彩りを加えていたのが、1万5000人の観客による歓声だ。

 ライブの序盤に演奏された「念書」の冒頭で、「歌ってみようかな」とつぶやいた稲葉は、アカペラで「オォォォオーオー!」とシャウトを始めた。一瞬の静寂。その後、客席から戸惑いのような拍手が起きると同時に、何人かの観客がバラバラと歌い始めた。「えっ、いいの?」、まさに恐る恐るという表現がぴったりの反応を見て、再びコールすると…、次は湧きあがるような大きなレスポンス、そして会場は万雷の拍手に包まれた。

「鳥肌!最高です!」

 興奮気味にそう叫ぶのも無理はない。今回のライブ直前、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)のガイドラインを遵守したうえでの観客の声出しが解禁されたのだ。この日、会場にいた全員が約3年ぶりに体験する歓声。ステージ上の稲葉やサポート・メンバーだけでなく、観客も、スタッフも、会場にいた全員が改めて声の力を実感した瞬間だった。そこからは何度かコール&レスポンスも行われ、次第に曲間には、観客から節度のある声援も上がり始めた。男性ファンの「稲葉さーん!」という野太い声援に、満面の笑みを浮かべながら、胸を押さえて膝をつくポーズをとった稲葉。この日を象徴するような、実に愛に溢れた感動的なシーンであった。

「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」フロアを彩るカラフルなバルーン

「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」フロアを彩るカラフルなバルーン

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「こうやってみんなの声が聴けて、ミュージシャンとして、生まれ変わったような気分です」

 その実感を稲葉は、とても素直に言葉にした。それは同時に、サポート・メンバーも含めた全ミュージシャンの心の内を代弁した言葉でもあった。彼の表情には、単純な喜びだけでなく、まるで音楽を始めた頃の初期衝動を想い出したかのような、そんな感慨深さも浮かんでいた。

「普段やっていることと違う、ソロのコンサートは自分にとってもチャレンジです。楽しいことよりも不安の方が多い状態からスタートして、いろんな皆さん、バンドのメンバーが協力してくれて…すごく温かくなっていくんですよ、心が。そして今日、皆さんがこうして集まってくれて、やっとこの大きなチャレンジが実現できました。今日は本当に、皆さんの愛の力、いっぱいいただきました!」

 当然ながら、観客の声出しがこのライブのタイミングで解禁されたのは、あくまでも偶然によるものだ。だが、しかしそれは、コロナ禍でも立ち止まることなく、楽曲を生み出し続け、無観客配信ライブや『UNITE #01』など新しいアプローチに挑み続けた稲葉、B'z、そして有観客ライブができない、声援を送れない期間も彼らを応援し続けてきたファンに対するご褒美のようにも思えた。

 ライブの現場から歓声が消えた3年間に挑戦してきた数多くの“点”と“点”は、1本の太い“線“となり、確実に今へとつながっている。昨年の全国ツアー『B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-』ファイナルで「ライブって、尊いものですよ」と語った稲葉。今回、彼に贈られた1万5000人の歓声というご褒美は、決して偶然ではなく、必然だったのかもしれない。

文・布施雄一郎

稲葉浩志「Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜」

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【Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜】2023年2月1日(水)@横浜アリーナ
■SET LIST
01. 愛なき道
02. The Morning Call
03. Stay Free
04. Golden Road
05. I AM YOUR BABY
06. Salvation
07. 念書
08. 正面衝突
09. BLEED
10. 静かな雨
11. 波
12. Little Flower
13. NOW ※新曲
14. Okay
15. YELLOW
16. 羽
17. 遠くまで
18. ハズムセカイ
<encore>
19. あの命この命
20. BANTAM ※新曲
21. CHAIN
22. oh my love

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