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GLAY・JIRO「こういうベースが弾ける50代に」 新たな出会いがもたらした楽曲制作と演奏スタイルの変化【前編】

 4人組ロックバンド・GLAYが、2月15日に通算61枚目となるシングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースする。同作は、JIRO(Ba)作曲の「THE GHOST」と、TERU(Vo)が作詞作曲を担当した「限界突破」をリード曲に据えた両A面シングル。

シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースしたGLAY・JIRO (C)ORICON NewS inc.

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 ライブのみで披露された幻の名曲「海峡の街にて」と、インディーズ時代のナンバーを再レコーディングで生まれ変わらせた「GONE WITH THE WIND(Gen 3)」というカップリングも含め、同バンドの過去と現在を提示する全4曲が収録されている。果たして4人は、同作を通じてどんな“未来”を表現しようとしているのだろうか?

 ORICON NEWSは、表題曲の1つ「THE GHOST」を手がけたJIROにインタビューを実施。前編となる本記事では、彼が同楽曲を作り出すまでに経た音楽的なターニングポイントやサウンド探究の旅、ベーシスト&コンポーザーとしての現在のマインドを掘り下げていく。

■「こういうベースが弾ける50代になりたい」…プレイヤーとしての未来を見据えた音楽探究

シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースしたGLAY・JIRO (C)ORICON NewS inc.

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――「HC 2023 episode 1 -THE GHOST / 限界突破-」は、JIROさん作曲の「THE GHOST」と、TERU(Vo)さんが作詞作曲を担当した「限界突破」をリードに据えた両A面シングルです。「THE GHOST」は、どんな風に作られたのでしょうか?

【JIRO】今回のシングルの制作に入る前に、TAKURO(Gt)から「また『G4』シリーズみたいに、メンバーそれぞれが曲を書いた作品を出す可能性があるから、JIROも何か曲を出してくれない?」と言われたんです。そう頼まれた時点で、自分的に気に入っているストックとかもあったんですけど、それは今までの手法で作っていた曲たちで、わりとポップなパンクナンバーが中心だったんですね。ただ、僕は去年1年間、海外のR&B系とかをよく聴いていたので、そういった要素も採り入れたら面白いんじゃないかなと思って。それで、ベースのリフと4つ打ちのドラムという定番のディスコソングみたいなところを基盤にして、形にしたのが「THE GHOST」です。面白いなって思ったのが、そうやって作ったにも関わらず、歌メロを乗せた後にその歌メロだけを抜いて聴いてみたら、今までのJIRO曲だなと感じたことなんですよ(笑)。

――とはいえ、「THE GHOST」はGLAYにとって新機軸となる曲調ですし、独自のダンス感を押し出していますよね。昨年R&Bなどを積極的に聴くようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

【JIRO】もともと「もう少し自分の音楽的な振り幅を広げよう」と思って、オフのタイミングでモータウンとかジャズとかを聴いていたんです。ただ、GLAYの活動が始まると当然GLAYのモードになる。そうやって“リセット”を繰り返していたんですが、去年モータウンとかディスコに詳しい多田尚人さんというベーシストと出会ったんです。僕は以前からYouTubeで演奏動画とかを観ながら、面白いフレーズを見つけたら自分で弾いてみたりもしていて。その中で多田さんを知ったんです。僕より10歳くらい下のスタジオミュージシャンですが、モータウン系とかの“弾いてみた動画”をアップしていて、「自分もこういうベースが弾ける50代になりたいな」と思ったんです。16分(音符)のゴーストピッキングだとか、僕の中にはまったくないアプローチがカッコいいなと思って、勝手に影響を受けていたんですね。でも、実際にやってみると本当に難しくて…。多田さんの動画を観ながら、1日8時間くらい毎日練習していた時期もありました(笑)。その後、多田さんと交流を持つようになって、いろいろな音楽を教えてもらったんです。

――モータウンやダンスミュージックなどは、ベースが核を担っている曲が多いですが、確かに「THE GHOST」もそういった曲になっています。

【JIRO】「THE GHOST」は、デモの段階からドラムとベース、浮遊感のあるシンプルなシンセ、あとボーカルだけでも成立する感じの曲だったんです。で、TAKUROとHISASHI(Gt)は敏感にその辺りを察知してくれて、もとの雰囲気を壊さずにギターで装飾してくれました。僕のやりたかったことがちゃんと伝わっていて、うれしかったですね。

――「THE GHOST」はTAKUROさんが歌詞を書かれています。歌詞について、JIROさんからリクエストを出したりは?

【JIRO】いえ、一切しなかったです。実はTAKUROが書き進めていた曲の中に、「THE GHOST」と似たテーマの曲があったらしいんですよ。でも、僕の曲にすごく新しさを感じて気に入ってくれて、「この歌詞を丸ごとJIROの新曲に持っていく」と言ってくれたんです。しかも、「次のツアーも“GHOST”というテーマにして、JIROの新曲を軸に構成したい」と言ってくれました。

■新たな出会いから得た着想「絶対にベーシストがベースを弾かなきゃいけないわけじゃない」

シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースしたGLAY・JIRO (C)ORICON NewS inc.

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――「THE GHOST」のレコーディングはいかがでしたか?

【JIRO】レコーディング自体は、比較的スムーズだったと思います。僕の頭の中で、リズムのイメージとサウンドの層…つまり、各楽器が鳴っている場所のイメージが浮かんでいたので、自宅でわりとガチッと打ち込みをして、デモを作っていたんです。それをプロデューサーとして参加していただいた亀田誠治さんに聴いてもらって、「僕はこういう作り方をしましたが、もちろん亀田さんの方でトラックを変えてもらっていいです」と伝えました。そうしたら、「デモのトラックをそのまま使ってくれたのかな?」と思うくらい、忠実に再現してくれて。

――本番のトラックと比べても遜色のないクオリティーのデモだったんですね。

【JIRO】自分のデモのクオリティーを上げたくて、ハウスミュージックの音作りとかを調べていたんです。すごく面白いんですよ。シンプルな4分打ちのキックとかでも、重厚感を出すために、普通のキックと「ボンッ」という音像だけのキック、さらに耳につきやすいキックという3つの音色を重ねつつ、それぞれのタイミングを微妙にズラすことで存在感が出るようにしているんです。最近のアメリカのR&Bシーンとかを聴くと、音数は少ないけど圧倒的にパワーを感じるものが多いじゃないですか。今回は僕もそこを意識しました。

――この曲のベースについても話していただけますか?

【JIRO】最初から、普通のベースとシンセベースのダブルにしようかなと思っていたんです。デュア・リパ(イギリスのシンガーソングライター)の『フューチャー・ノスタルジア』というアルバムをよく聴いていたんですけど、そのアルバムではシンセベースと生ベースがパートごとに、すごく自然に入れ替わったりするんですよ。最近だとヒゲダン(Official髭男dism)とかもそういう手法を活かしていて、機会があればGLAYでも採り入れてみたいと考えていたんです。僕はベーシストだけど、「絶対にベーシストがベースを弾かなきゃいけないわけじゃない」という感じの音楽もたくさん聴いていて。で、「THE GHOST」にはそういう手法が合うんじゃないかと思ったんです。

――ちなみに、この曲のベースはピック弾きでしょうか?

【JIRO】どっちだったかな…?指弾きだったかもしれないですね。ただ、この曲は先に自分で打ち込んだシンセベースのトラックがあって、そこに同じフレーズを生ベースで弾いたものをビタッと合わせたかったんです。なので、自分で弾いたフレーズをループさせて重ねました。その結果、ちょっと独特な質感になったんだと思います。

――ご自身で弾いたベーストラックは、自宅で録音を?

【JIRO】はい。コロナの自粛期間に、本番のレコーディングにも対応できるくらいのシステムを自宅で組んだんです。なので、今回は家でベーシックを録って、2番のAメロとかサビに出てくる「パチン!」というスラップのプルっぽい音とかも後でダビングしました。それは自分の中にはなかったアイデアで、亀田さんとスタジオに入っていろいろ話しながら試した後、家に帰ったらこういうアイデアが生まれてきたんです。

――GLAYの楽曲で、スラップのような音が鳴っているのは新鮮でした。

【JIRO】僕自身、スラップはあえて避けてきていたんです。僕の中にはスラップ=テクニカルな奏法というイメージがあって、そうやってテクニックを打ち出すよりも、しっかりとボトムを支えたいなと思っていたんですね。だけど…それこそ去年、リゾ(アメリカの歌手、ラッパー、作曲家、女優、フルート奏者)の「About Damn Time」という曲を聴いていたら、要所要所に瞬間的にスラップが入ってくる場面があって、こういうアクセント的な使い方だったらアリかなと思ったんです。

――それがいい方向に作用して、「THE GHOST」は楽曲を構成しているすべての要素が良質で、かつマニアックでいながらキャッチーという1曲になりましたね。

【JIRO】ありがとうございます。最初に作ったときは、「ちょっと実験的すぎるかな」とも思っていたんです。TERUに仮のボーカルを歌ってもらったときも、「この曲、ちょっと変わっているね」と言っていましたし。「ビリー・アイリッシュの「bad guy」みたいに、すごくトーンを低くするか、今までのGLAYらしい感じがいいのかちょっとわからない」と、いろいろ試してくれていましたね。

――JIROさんの判断は?

【JIRO】いや、僕もわからなかったから「任せる」って(笑)。その後もTERUは、自宅でいろいろ試行錯誤して仮ボーカルを録ってくれたみたいで、それをTAKUROに聴かせたらすごく気に入ってくれました。ただ、その時点でも僕はちょっと自信がなかったから、もともと作っていたすごくポップな曲と「THE GHOST」の原形の2曲を渡して、「どっちがいいかはTAKUROに任せる」と委ねたんです。そうしたら、「圧倒的にこっち(「THE GHOST」)の方がいい」と返事が来ました。

■「この曲はそういう曲じゃない」自宅の制作環境を充実させ生まれた“こだわり”

シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースしたGLAY・JIRO (C)ORICON NewS inc.

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――続いて、もう1曲のリード曲の「限界突破」について話しましょう。

【JIRO】「限界突破」は、先にタイアップのお話が来たんです。「TERUに楽曲を書いてほしい」というリクエストだったので、そこから作っていった曲。アレンジに関しては、TERUとYOW-ROW(GARI/Vo)さんが中心となって進めて、僕はそれを聴いてアプローチしていった感じです。

――アレンジ作業はスムーズにいきましたか?

【JIRO】意外と難しかったですね。YOW-ROWさんは、前回のアルバム『FREEDOM ONLY』(2021年10月発売)に入っている、「Holy Knight」のベーシックトラックも作ってくれたんですが、そのときにシンセベースで入れていたベースラインがすごくかっこよくて、それを結構そのまま使わせていただいきました。あと「限界突破」のデモにも、僕の中からは出てこないような符割やフレーズが多かったので、デモどおりに弾かせてもらったものがかなり多かったです。

――休符を効果的に使っていますし、大サビで細かく動くフレーズを弾いたり…と、確かに凝ったフレージングになっています。

【JIRO】そうそう、細かいんです(笑)。だから、頑張って弾こうとすると、要所要所でつい力が入ってしまうんですよ。でもそれだと曲のスピードに追いつけなくなってしまうので、できる限り力を抜いて弾こうと意識しました。あと、この曲は亀田さんプロデュースの曲ではないので、ベースのジャッジが自分だったんですね。しかも宅録だったので、もう…家の中で頭を抱えながら「これの正解ってどこにあるんだろう?」と(笑)。フレーズ自体はちゃんと弾けているし、気になる箇所があればパンチイン(※トラックの任意の箇所から録音を開始し、修正すること)とかも簡単にできてしまう環境だけど…。でも、この曲はそういう曲じゃない気がして、録ったトラックを一度全部消したり。全部録り終わった次の日に、冷静な耳で聴いてみたら「やっぱりダイナミックさがない」と感じて、もう1回はじめからやり直したこともありましたね。なので、時間は結構かかりました。

――納得できるところまで突き詰められたんですね。話は少し逸れますが、最近のGLAYの音源を聴かせていただいたり、ライブを観させていただいて、ベースの音がより太くなった印象を受けました。

【JIRO】あ、それは最近よく言われます。メインをフェンダーのベースに替えてから特に言われますね。

――楽器の影響もあると思いますが、ライブで気づいたことがありまして。数年前から逆アングルのピッキングで弾いていませんか?

【JIRO】そうですね、逆アングルでも弾いています。ベースの位置を高くしたんですけど、そうなると逆アングルの方が弾きやすいんですよ。なので、できる限り逆アングルで弾くようにしています。あと今までは、抵抗感が出ないように柔らかいピックを使っていたんですよ。0.60ミリとかだったかな?

――えっ?思っていたよりもかなり薄いですね。

【JIRO】そうなんですよ。逆アングルにするとピックが面で弦にあたらないから、薄いピックでも強い音が出るかなと。勝手にそう思い込んでいたんですけど、この間ベース仲間が家に来たとき、1.00ミリくらいのピックでベースを弾いていて、僕もそのピックでベースを弾いてみたら音が全然違ったんです。とは言え、0.60ミリからいきなり1.00ミリに替えるのは、ちょっと勇気がいるなと思って…。そこからいろいろなピックを試しました。ピックを持ち替えてLogic(DAWソフト)で録って、波形とかを見ながら音を聴いたんですね。結果、1.00ミリと0.80ミリは体感的にも、波形的にもそれほど差が出なかったので、0.80ミリを使うことにしました。そういうマニアックなこともしています(笑)。ただ、インディーズの頃の速い曲とかを弾くときは、今でも0.60ミリですね。引っかかりが少ないから弾きやすいし、速さとアタックを出して勢いで弾ききる感じが合うかなと思っています。

――ピックの違いは本当に大きいですよね。

【JIRO】今の若い人たちからしたら、「これだけ長くベースを弾いていて、今さら?」と思われちゃいそうだけど(笑)。でも、こうやっていろいろな音楽に触れたり、ピックを見直したりする中で、自分の機材についてももう一度ちゃんと把握したいなと思ったんです。「自分の出す音に責任を持ちたい」って。最近はツアーに向けて家で音を作っているんですけど、自分が使っているエフェクターを全部家に持ってきてもらって、歪みの質感を一つひとつチェックしたり、機材に詳しい人やローディーの方に話を聞いたりしたんです。新しいD.I.ボックスを導入したり、「この曲はこのエフェクターだな」「歪みがちょっと多いな」という風に、より細かく決め込んでいっています。

――今後のライブが楽しみです。

【JIRO】今はPAさんと直で連絡を取ったり、ローディーの人とも細かくやり取りをして、「自分はこうしたい」と伝えています。なので、次のツアーはベースの音がもっとよくなるはずです。

取材・文/村上孝之
撮影/小松陽祐(ODD JOB)

■61thシングル『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』収録内容
▼CD
01. 限界突破
02. THE GHOST
03. 海峡の街にて
04. GONE WITH THE WIND(Gen 3)
▼Blu-ray・DVD
・限界突破 Music Video
・限界突破 Studio Session
・episode of HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2003-2023

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  • シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」をリリースしたGLAY・JIRO (C)ORICON NewS inc.
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