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B'z、3年ぶり全国ツアーファイナルで体感 パイオニア精神と圧倒的な包容力

 開演前、ステージ後方に設置された横長スクリーンに表示されていたのは、世界主要都市の現在時刻。そして日本語やフランス語、英語でアナウンスが入ると、いよいよライブのスタートだ。空港を思わせる効果音。スクリーンに映し出された「ALL SET. ARE YOU READY?」の文字。大きな拍手が沸き起こる中、松本孝弘にスポットが当たり「SLEEPLESS」の重厚なギター・リフがとどろくと、『B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-』ツアー・ファイナルの幕が切って降ろされた。

全国12ヶ所(13会場)32公演が組まれた全国ツアー『B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-』

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■B'zの新しいライブ・サウンド到来を予感 鉄壁のアンサンブル

 今年5月、福岡公演からスタートし、全国12ヶ所(13会場)32公演が組まれたB'zの全国ツアー。当初、8月11、13、14日の横浜・ぴあアリーナMM公演でファイナルを迎える予定だったが、8月11日のライブを終えた後、稲葉浩志の発熱により2公演が延期され、この日(11月27日)と前日の2日間、同じ会場で改めてツアー・ファイナル公演が開催された。

 ライブそのものは、まさしくB'zのすごみと説得力に満ち溢れたパフォーマンスで、前半と後半で異なる楽しみどころを用意してくれていた。まず前半は、主に稲葉の歌と松本のギターをしっかりと聴かせる構成。多くのファンは稲葉の体調が気になっていただろうが、のっけから太く艶やかなハイトーンで観客を魅了、絶好調ぶりが伝わってきた。キャリアを重ねるにつれてますます磨きをかけるその歌声に、改めてB'zがシーンのど真ん中で今も走り続ける現役のロック・バンドであることを思い知らされた。

 その歌を支えるバンド・サウンドも目を引いた。オルガンやテルミンといった音色を操る川村ケン(Key)、時にギターで歌を支え、時にバンドを牽引していくYUKIHIDE“YT”TAKIYAMA(G)というベテラン勢に加え、アグレッシブかつタイトなビートを刻んだ青山英樹(Dr)と、ラウドさとしなやかさを併せ持つ清(B)のベースが生み出すグルーヴは、B'zの新しいライブ・サウンド到来を予感させるに十分なエネルギーを持っていた。そこにレスポール、テレキャスター、フライングVなど多彩なギターでバンド・サウンドを彩っていく松本の職人技が重なることで形作られるB'z のアンサンブルは鉄壁のものであった。

 後半に入り、アルバムのタイトル曲でもある「Highway X」が始まると、ステージ上方のトラス・システム(鉄骨の骨組み)が静かに動き始め、巨大な“X”字型に形状を変える。すると、そこに設置されていた100を超える数のムービング・ライトとLEDディスプレイによって、刺激的な音と光の一大エンタテインメント・ショーが繰り広げられ、ライブの熱気も最高潮を迎えた。

多数のムービング・ライトとLEDディスプレイにより繰り広げられた刺激的な音と光の一大エンタテインメント・ショー

多数のムービング・ライトとLEDディスプレイにより繰り広げられた刺激的な音と光の一大エンタテインメント・ショー

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■コロナ禍をポジティブな時間に変換 包容力と深みが増した音楽、そして言葉

 そんな約2時間半を堪能したうえで、特に印象に残った点が2つある。1つは、ライブを単体で考えると「いやはや、すごいライブだった」のひと言に尽きるのだが、ここに至るまでの過程を含めて改めて全貌を見渡すと、コロナ禍でも積極的に動き続けたB'zの約2年間の歩みとこのステージが、地続きに感じられたことだ。そしてもう1つは、特異な期間を通してB'zが発する言葉に包容力と深みが増し、それがそのまま彼らが生み出す音楽に反映されているように感じられたことだった。

 コロナ禍でさまざまなことが「できない」中、B'z は「できること」を模索し、自身初となる無観客配信ライブ『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820-』を5週連続で開催、自身がオーガナイザーとなった初のRock Project『B'z presents UNITE #01』ではMr.ChildrenGLAYを迎えて有観客ライブ+配信ライブを実施、そしてコンセプトアルバム「FRIENDS」シリーズの世界観を再現した『B'z presents LIVE FRIENDS』など、意欲的に新たな挑戦を行ってきた。

「こういう時期に新しいことにチャレンジできましたし、『Highway X』はじっくりと時間をかけて制作に集中できたので、僕たちなりに、いい時間を過ごせたのではないかなと思っています」

アルバム『Highway X』は「じっくりと時間をかけて制作に集中できた」B'z・松本孝弘

アルバム『Highway X』は「じっくりと時間をかけて制作に集中できた」B'z・松本孝弘

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 MCで松本がこう語ったように、ネガティブに捉えられがちな期間をポジティブな時間に変えながらアルバム『Highway X』を制作。今回のツアーは、そこに収められた新曲をリリースよりも前にライブで初披露するという新たなアプローチで臨んだものだった(アルバムは、当初予定されていたツアー最終日直前の8月10日にリリースされた)。

 このトライもまた、コロナ禍で激変した音楽の聴かれ方や、中止や延期を余儀なくされたライブ・コンサートの存在意義を彼らなりに見つめ直し、今まで以上に音楽を大切に届けようと考え、たどり着いたアイデアだったに違いない。結果、幸運にもツアーに参加できたファンは、「新曲を生演奏で体感する」という一生に一度しかない体験、すなわち(コロナ禍で忘れかけていた)ライブならではの醍醐味を、存分に味わうことができたわけだ(結果的に、ツアー・ファイナルでは、リリースされた新曲をたっぷりと聴き込んだうえで、改めてライブでその歌と演奏を全身で浴びるという贅沢な時間となったわけだが)。

 そうした音楽に込めた“想い”だけでなく、テクニカルな側面でも、この期間に手に入れたものは大きかったはず。今でこそ当たり前になったライブ配信だが、『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820-』での経験とノウハウがあったからこそ、よりスムーズに実施できたであろうことは想像に難くない。決して何かが劇的に変わったわけではない。でも確実に、約2年間に渡って積み重ねてきた彼らの小さなアップデートが1つの大きな形となって具現化された、そんな想いが頭をよぎったツアー・ファイナルであった。

■アンコールで起きたミラクル ライブ・アーティストであることを再認識

 その一方で、歌やパフォーマンス以上に強く印象に残ったのは、声を出せず、マスクをしながら大きな拍手を送り続ける観客を気遣う稲葉の言葉だった。

「マスク、苦しくないですか?」
「ルールを守ってくださってありがとう」
「皆さん大丈夫ですか?」

「ライブって、尊いものですよ」ファンに呼びかけたB'z・稲葉浩志

「ライブって、尊いものですよ」ファンに呼びかけたB'z・稲葉浩志

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 ライブ中、稲葉のMCは大半がこうした言葉から始まった。もちろん音楽ライブであるから、稲葉の歌、松本のギター、サポート・バンドの強靭かつしなやかなサウンドこそが最重要であり、それがLIVE-GYMの根幹だ。ただし、その空間を作り出しているのは決してステージで音を鳴らす5人のミュージシャンだけでない。観客の1人ひとりがいてこそ成立するものであり、音楽を届ける側と受け取る側という関係性ではなく、その空間にいる全員で作り出すのがライブなのだということを、言葉と立ち振る舞いで何度も伝えてくれた。そのクライマックスは、アンコール時、誰も予期せぬ形でやってきた。それが、本編でも歌われた「裸足の女神」の再演だった。

 実はこの曲、演奏が始まると稲葉はバックステージへと移動し、その様子をカメラマンが追いかけながら、全国のファンが寄せ書きをした「Highway X」のモニュメントと一緒に稲葉が歌う様子をステージ両サイドの大型モニターで映し出すという趣向が凝らされていた。ところが機材トラブルで、本編ではピントが合わない状態での映像が流れてしまっていた。

 稲葉は「大切なものを映していますから」と再演の許可を観客に求めた。これは不完全な演出に対するリベンジと捉えることもできるが、もっとシンプルな想いに突き動かされてのものであったように思えてならない。稲葉が語った「大切なもの」とは、全国のファンがモニュメントに書き込んだ数々のメッセージのこと。それをきちんと満員の観客、そしてライブ・ビューイングやライブ配信を見ている全国津々浦々の人々に届けたいという純粋な想い。今、世の中に少しだけ欠けている思いやり“優しさ”が、そこにはあった。

B'z・稲葉浩志

B'z・稲葉浩志

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 だからこそ、2度目の「裸足の女神」は、本当にハッピーな空気に満ち溢れた演奏であったし、こうしたトラブルも含めて、これこそが一期一会のライブなのだという喜びを、観ている者に柔らかく、しかし強いメッセージとして届けてくれたように感じた。こんなハプニングがツアー・ファイナルで起きるという不思議。それも含めて、やはりB'zはライブ・アーティストなんだと再認識させられた瞬間だった。

「この時期を経験したことで、1本のライブ、1本のLIVE-GYMを無事にやれるって、本当に奇跡なんだなと気付きました。皆さんが客席を埋めてくれて、やっと1つのコンサートが完成するわけです。そんなこと当たり前だと思っていたけど、このツアーをやって、今までより、さらに強く感じました。ライブって、尊いものですよ。その奇跡を実現させている皆さん、スタッフ、本当にすごいです。いつかマスクをせず、一緒に歌えるLIVE-GYMができるようになると思います。その日が来ても、今回のツアーで皆さんがマスクをして、ルールを守りながら一緒にHighway Xを駆け抜けてくれたこと、ずっと、ずっとずっと忘れません」(稲葉)

 最後の最後まで、MCで「コロナ」という言葉を使わなかったB'zの2人。音楽性はもちろんのこと、彼らの志の高さに感服すると同時に、35年のキャリアを持ちながらも、まだまだ新しいことにチャレンジし続けようとするパイオニア精神に、大いに刺激を受けたツアー・ファイナル。そして、ライブ・コンサートとは、ただ音楽を楽しむだけでなく、いろんな感情を掻き立ててくれるものだと改めて教えられた、そんな一夜だった。

文・布施雄一郎

B'z・松本孝弘

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【B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-】
2022年11月27日(日)神奈川 ぴあアリーナMM
■セットリスト
1. SLEEPLESS
2. Hard Rain Love
3. ultra soul
4. イチトゼンブ
5. 愛のバクダン
6. Daydream
7. 山手通りに風
8. マミレナ
9. Thinking of you
10. 裸足の女神
11. 漣 < sazanami >
12. Highway X
13. COMEBACK -愛しき破片-
14. YES YES YES
15. 兵、走る
16. さまよえる蒼い弾丸
17. リヴ
18. UNITE
〜アンコール〜
19. You Are My Best
20. 裸足の女神
21. ZERO

■リリース情報
アルバム『Highway X』全曲配信中、12月14日にはDVD&Blu-ray『B'z presents LIVE FRIENDS』をリリース

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