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伍代夏子、芸能活動40周年で出合った運命の歌「人生にありがとう」

 今年7月、芸能活動40周年を迎えた伍代夏子。20歳で“星ひろみ”の歌手名でデビューし、“加川有希”、“中川輝美”と改名を経て、1987年から“伍代夏子”として日本歌謡界の第一線で活躍し続けている彼女が、7月20日に芸能活動40周年記念曲の「人生にありがとう」をリリースする。大けがや病気を乗り越えて昨年12月に還暦を迎えた伍代に、新曲の制作秘話や今の思いを聞いた。

芸能活動40周年で新境地に立つ伍代夏子

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荒木とよひさ氏による運命の詞「人生にありがとう」

 荒木とよひさ氏が詞を手がけた今作「人生にありがとう」は、かつて“中川輝美”名義で発表した「夢きずな」以来、36年ぶりのシングルとなる。その間、アルバム制作の際に荒木氏が数曲、詞を提供しているが、シングルでタッグを組むのは、“伍代夏子”となってからは初めてだ。

「ディレクターが、『歌手活動40周年の記念曲で、今作は男女の恋愛の歌以外をお願いします』とお伝えしただけで、あとは荒木先生にお任せだったんです。そうしたら、私の境遇や今の気持ちを表した詞が上がってきて。特に歌いだしの詞は、幼少期に夕陽を眺めていた思い出がそのまま書かれていて、驚いたのなんのって!」

 両親が共働きでかぎっ子だった少女時代。暮らしていた木造二階建ての自宅には13段の急勾配の階段があった。危ないから上ることを禁じられていたが、両親に内緒でこっそり階段を上っては、たどり着いた先にあった小窓から夕陽を眺めていた、その情景が目の前にパッと浮かんできたという。

「留守番をしていたことからくる不安なのか、持って生まれた性分なのかはわからないのですが、夕陽を眺めてはもの悲しさを感じていました。そんな話を荒木先生にしたことはなかったはずなんですが、先生は自信満々な様子で『今回の詞は、どうよ?』っておっしゃったから、『びっくりしました。運命の詞だと思いました』って、夕陽の思い出についてお話したんです。そうしたら『オレは聞かなくたってわかるんだよ』ですって(笑)」

 そんな幼少期を経て、歌手として走り続ける伍代は、昨年還暦を迎えた。

「この曲は、これまで出会ったすべての人たちに『ありがとう』を届ける歌。出会えて良かったと思える人もいれば、なかにはそうではない人もいます。でも、良いことも悪いことも、すべての経験があって今があるんだわって思えるようになったんです。歌手生活40周年で、年齢は60歳を過ぎて、自分でもかなり人間が丸くなったなって思います。周りのスタッフも、いい意味で仕事に対して肩の力が抜けたんじゃないですか、って言ってくれています(笑)」

「人生にありがとう」レコーディングメンバー:前列左から、荒木とよひさ(作詞)、伍代夏子、羽場仁志(作曲)/後列左から、林有三(編曲)、角谷哲朗(ディレクター)

「人生にありがとう」レコーディングメンバー:前列左から、荒木とよひさ(作詞)、伍代夏子、羽場仁志(作曲)/後列左から、林有三(編曲)、角谷哲朗(ディレクター)

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■粘り強いレコーディングは恩師の市川昭介仕込み

 歌をレコーディングする際の伍代の情熱は並々ならぬもので、午前2時までテイクを重ねて、執念で作り上げた歌も少なくないという。

「詞と曲が出来上がって、デモテープを聴くのはレコーディングの前に2、3回だけ。メロディーラインを覚える程度です。事前に歌を作り上げていくと、作詞や作曲の先生方やスタッフに、『ここの部分はこう歌ってほしい』とリクエストが来たときに修正できないんですよね。だから、実際にレコーディングブースに入ってから、『この歌に出てくる女性ならこんな風に歌うはず』、『ここの音は声を張って』と試行錯誤を繰り返して歌を作っていきます。テストで歌ってはヘッドフォンを付けたり外したりして聴き返して、細かく声色をチェックして譜面につけて、また歌って、こぶしを効かせたりファルセットにしたり…。この作業を何度も繰り返して、『よし、歌の全体像がつかめたぞ!』というレベルに持っていって本番に臨むと、いわゆる“ゾーン”に入るんです」

 “ゾーン”とは、集中力が極限まで高まったスポーツ選手などが、自分の間隔だけが研ぎ澄まされ、活動に没頭できる意識状態となった際に、よく聞く言葉だ。

「何も考えなくても喉を開けたり締めたり自在に声を操ることができて、伴奏も体の中で鳴り響いているような感覚に突入するんです。譜面も目の前にあるのだけど目で追っていない、言わば無の状態。そこからまた歌い込んで、納得がいくまで繰り返していると、気づけば午前2時になっていたというのが、恒例の夏子パターンでした。作詞や作曲の先生、それからディレクターと私と、『ここはプツプツ切った無感情の歌い方がいい』とか『いや違う、もっとスラーを続けて、譜面を無視して感情だけで歌うほうがいい』とか、お互いに言いたいことをバトルしながら歌を作っていく作業は、燃えるし、楽しいんですよ」

 伍代が粘り強くレコーディングするようになったのは、師と仰ぐ市川昭介氏の影響だと振り返る。

「市川先生は『売れる歌い方があるけど、それは技法ではないんだよ』と、歌ううえでの大切なことを教えてくださった大恩人。たとえば『寂しい』と歌うとして、寂しさの伝え方も、笑いながら『寂しい』って歌うこともあれば、涙をひとつぽろっとこぼして『寂しい』って歌うこともある。要は寂しいという思いが伝われば正解で、その正解は何通りもある、と指導してくださいました。そう聞いたときは、あまりの難しさにもっと具体的に教えてほしいって思いましたが、自分で突き詰めて考えて答えにたどり着いて腑に落ちたんです。あのとき、簡単に答えを教えてもらっていたら、頭と心がついていかなかっただろうなって、今は思います。必死になってのたうち回って葛藤して、なるほどと思える心と技法にたどり着いたから今の歌い方が身についたのだと、感謝の気持ちでいっぱいです」

「人生にありがとう」レコーディング風景

「人生にありがとう」レコーディング風景

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■丸くなった“新生”伍代夏子、歌の旅は続く

 そうやって市川流のこだわりのレコーディングスタイルを貫いてきた伍代だが、今回の「人生はありがとう」は、ディレクターやスタッフのOKが出た段階で、あとはスタッフに任せようという気持ちになったと語る。

「それでも、10回以上はテイクを重ねましたが、いつもは20回、30回と歌っているから、それと比べたら今回は格段に少なかったと思います。それもあってか、歌詞に4回出てくる『ありがとう』の言葉が、私としては上手く言えないままレコーディングを終了した気がしていたんです。ディレクターをはじめスタッフはみんな『大丈夫、OKですよ』って言うのですが、なにか釈然としないというか。でも今回は、そんな引っ掛かりを残しておいて次につなげるのもいいのかなって、思えたんです。もしかしたら、歌番組や舞台で歌っていくうちに、自分なりに納得のいくかたちで『ありがとう』って歌えるかもしれないし、今後も歌手生活を続けるうえでの課題としてみようと。まだまだ未熟ってことなのかなって感じましたね」

 ときに、レコーディング中にスタッフと意見が衝突したり、舞台でも予期せぬハプニングが起きたりした際に怒りや焦りがこみ上げてくると、放出されるアドレナリンのなせる業なのか、かえって良い歌が歌えたりもすることもあったと笑う伍代。年と経験を重ね、心の余裕にあふれた彼女が、出合うべくして出合った楽曲が、「人生にありがとう」なのだろう。

伍代夏子 芸能活動40周年記念曲「人生にありがとう」

伍代夏子 芸能活動40周年記念曲「人生にありがとう」

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「今回のシングルには、9年前にこだわり抜いて作り上げたアルバム『ノスタルジア』からリカットした「長崎ランデヴー」と「瀬田の夕暮れ」をカップリングとして収録しています。この2作は、ストイックなレコーディングの末に仕上がった作品で、自分でも納得のいく歌に仕上がっています。還暦を迎えて丸くなった私が作った新曲と執念で作った2曲と、まさに歌手生活40周年を体現した作品になりました」

 ジャケット撮影は、栃木県矢板市の長峰公園に咲き誇る満開の桜の下で敢行した。

「これまでのジャケットはスタジオで撮影することがほとんどでしたが、スタッフが『たまには外で撮影しましょう』と提案してきて。ちょうど見ごろを迎えていた桜をバックに撮ってみようということで、矢板市に出向きました。新しく仕立てた白地の着物に、お気に入りの帯を締めて、我ながら桜に映えるコーディネートになったなと(笑)。シングルのブックレットには、今の思いを込めた言葉とともに、私が撮影した佐渡島の夕日の写真を載せていて、その写真も自信作です」

 喜怒哀楽をパワーに変えて、こだわりの歌を紡いできた伍代夏子。「ありがとう」の思いを届ける、彼女の歌の旅は続く。

文・森中要子


■ 伍代夏子 プロフィール:
1982年7月21日、20歳のとき“星ひろみ“の歌手名でデビュー。加川有希、中川輝美と改名を経て、87年、CBSソニーレコード(現ソニー・ミュージックレーベルズ)より「戻り川」でデビュー。同曲が大ヒットとなり、翌88年に「第21回日本有線大賞」「第21回全日本有線放送大賞」の最優秀新人賞をW受賞。90年には「忍ぶ雨」で「NHK紅白歌合戦」へ初出場し、以来、通算22回(16年現在)の出場を果たしている。22年7月、芸能活動40周年を迎え、今、届けたい思いを歌に込めた「人生にありがとう」をリリース。

【作品情報】
伍代夏子 芸能活動40周年記念曲
「人生にありがとう」
発売日:2022年7月20日(水)
価 格:1300円(税込)

01. 人生にありがとう(作詞:荒木とよひさ 作曲:羽場仁志 編曲:林有三)
02. 長崎ランデヴー(作詞:荒木とよひさ 作曲:弦哲也 編曲:若草恵)
03. 瀬田の夕暮れ(作詞:友利歩未 作曲:羽場仁志 編曲:宮崎慎二)

関連写真

  • 芸能活動40周年で新境地に立つ伍代夏子
  • 「人生にありがとう」レコーディングメンバー:前列左から、荒木とよひさ(作詞)、伍代夏子、羽場仁志(作曲)/後列左から、林有三(編曲)、角谷哲朗(ディレクター)
  • 「人生にありがとう」レコーディング風景
  • 伍代夏子 芸能活動40周年記念曲「人生にありがとう」

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