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“若者向け音楽番組”が担うべき役割 NHK『シブヤノオト』制作統括が語る

 今年4月より、多くの局で音楽番組の改編が行われ、新番組のスタートやリニューアルが行われている。NHK総合の『シブヤノオト』もその1つ。NHKはこれまでも、内容やタイトルを変えながら、脈々とその時代の若者に向けた音楽番組を発信してきているが、ストリーミングの台頭など若者の音楽の聴き方が大きく変化している今、“若者向け音楽番組"が担うべき役割とは? 同番組の制作統括・大塚信広チーフ・プロデューサーに聞いた。

4月にリニューアルした音楽番組『シブヤノオト』(C)NHK

4月にリニューアルした音楽番組『シブヤノオト』(C)NHK

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■リニューアルの目的はスタジオの空気感を視聴者と“密接に共有”すること

 2016年より始まったNHK総合の若者向け音楽番組『シブヤノオト』(毎週土曜23:10〜)が、この4月にリニューアルし毎週土曜夜にレギュラーで生放送されるようになった。これにより、リアルタイムのSNSもますます盛り上がっているようだ。

「もともと『シブヤノオト』はSNSとの融合を目指して立ち上がった背景がありました。放送開始から5年経ち、NHKの番組の中では若い世代のフォロワー数が多いのが特徴です。また、収録よりも生放送のほうが“今ここで起こっていること”への共感が高まるためか、つぶやきも多くなる傾向がありました。音楽を発信するスタジオの空気感を視聴者とより密接に“共有”することが、このたびのリニューアルの一番の目的です」(『シブヤノオト』制作統括:大塚信広チーフ・プロデューサー/以下同)

 番組には毎回3〜4組のアーティストが出演する。アイドルグループからシンガーソングライター、バンド、ラップグループといったキュレーションのバランスの良さに加え、新人紹介の役割もある『WHO'S NEXT』枠の目利きと鮮度の高さには定評がある。過去にはKing Gnuあいみょんなどが、『シブヤノオト』で地上波番組への初登場を果たしている。

「『WHO'S NEXT』が指標にしているのは、ライブやストリーミングでの盛り上がり。ただ、必ずしも“動員〇人以上”、“再生数〇万回以上”といった明確な基準はありません。強いて言うとすれば、今紹介する理由があって“シブヤノオトっぽい"と感じたアーティストに出演していただいています。そしてゆくゆくは『紅白歌合戦』に出てくれたらいいなという期待も込めつつですね」

■パーソナルな一面が見えるトークコーナーと生演奏のギャップで音楽の魅力を伝えたい

 長らく番組のMCを務めてきた渡辺直美に代わって、新MCに抜擢されたのは、麒麟川島明土屋太鳳の2人だった。この新鮮かつ意外な組み合わせは、3月の発表当時、大きな話題を集めた。土屋にとって初のレギュラーMCとなるわけだが、実は昨年後半、渡辺直美が仕事の都合で渡米した際に、スペシャルMCとしてピンチヒッターを務めていた。その際のスタジオのやわらかい空気感が、大塚氏の印象に強く残っていたという。

「新MCには“芸人さんプラス俳優さん”という組み合わせをイメージしていました。スペシャルMCとして出演してくれたこともあり、まずは土屋さんにお声がけしました。芸人さんのキャスティングにあたっては、強めのツッコミというよりは、受け入れるトークが巧みな方を候補に考えていました。狙い通り川島さんの“ええ声”と優しい雰囲気のおかげで、アーティストのみなさんもリラックスしてパーソナルな面を見せてくれています」

 川島・土屋ともに音楽は専門ではないが、その分、音楽やアーティストへのリスペクトが深いことも起用の決め手だったという。

「紅白を演出していても実感しますが、生放送の音楽番組で視聴者の皆さんと、特に共有感を感じるのは、パフォーマンスはもちろん、曲が終わってからのMCの“受け”だと思うんですね。MCの感動した表情や思わず溢れてしまった一言など、視聴者の気持ちがリンクする瞬間こそが醍醐味と言いますか。またNHKにはCMがないため、感動の余韻をシームレスに伝えられるメリットがあります。新MCの2人は『今、感じたこの思いを誰かと共有したい』という人間の根源的な欲求をとても素直に代弁してくれていて、だからこそリアルタイムのSNSも盛り上がるのかなと感じます」

 そうしたキャスティングの妙もあり、番組のトークコーナーでは、出演者がリラックスした様子で意外な一面をのぞかせている。例えば、国連が推奨する昆虫食に関心があるというシンガーソングライター・向井太一が、昆虫食試食に挑戦する姿は、通常の音楽番組では、なかなかお目にかかれそうにない。敢えてバラエティ的な見せ方で本人の魅力を掘り下げるあたりにも、大塚氏のこだわりが感じられる。

「音楽の話は突き詰めると難しくなるし、突き詰めないと浅いだけになってしまう。30分番組ではそこのバランスがなかなか難しいのですが、『シブヤノオト』としてはむしろパーソナルな一面が見えるトークコーナーと生演奏のギャップがあったほうが音楽の素晴らしさが伝わるのではないか、という考えのもといろいろと企画を練っています」

■テレビの音楽番組の役割に改めて向き合う『シブヤノオト』

 音楽番組に限らず、能動的にテレビにスイッチを入れる若者は少なくなっていると言われて久しいが、キャスティングの工夫や放送時間の繰り上げなどによって、番組を家族で観るという、思わぬ効果も生まれているようだ。

『シブヤノオト』は、親世代である30〜40代の視聴層も多く、Twitterなどでも“親に(自分の好きなアーティストの)〇〇が出てるよと呼ばれて一緒に観た”といったコメントがよく見受けられます。親御さんにとっては子どもさんとの会話のきっかけにもなっているようですね。リニューアルにあたって放送時間を0時台から土曜23時台に繰り上げたのも、より若者に観てもらいやすくするためでした」

 2020年にストリーミングから多くのヒットアーティストが輩出されたことは、瑛人YOASOBImiletといった紅白歌合戦の初出場者からも明らかである。大塚氏も「この流れは当面続くだろう」と、テレビの音楽番組の役割に改めて向き合っているところだという。

「そんな中でも、やはりテレビはストリーミングで“発見”された音楽の裾野を広げることができるはずだと模索しながら番組作りをしています。これまでも『シブヤノオト』では、“地上波にはまだちょっと早いかも?”と思われるようなアーティストを紹介してきました。そのギリギリの勘のようなものは、5年間放送してきた中で培えている気がします。これからの音楽文化を担う若いアーティストの発掘と応援をするのが番組の役割。今後も変に落ち着くことなく、トライアルに満ちたブッキングや企画をどんどん打ち出していきたいですね」

(文・児玉澄子)

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  • 4月にリニューアルした音楽番組『シブヤノオト』(C)NHK
  • 『シブヤノオト』制作統括 大塚信広チーフ・プロデューサー
  • 『シブヤノオト』(NHK総合)キービジュアル(C)NHK
  • 『シブヤノオト』(NHK総合)キービジュアル(C)NHK
  • 『シブヤノオト』(NHK総合)キービジュアル(C)NHK
  • 『シブヤノオト』(NHK総合)キービジュアル(C)NHK
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