ORICON NEWS

時代を超え愛される中島みゆきの歌 魅力は歌詞の“普遍性”と“説得力”

 2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、さらに今年のコロナ禍等、苦難の時代に人々に求められ、歌い継がれてきた中島みゆきの「糸」「時代」「ファイト!」…。それら多くの人々の心に寄り添い、エールを送る中島みゆきの名曲を集めた2枚組セレクトアルバム『ここにいるよ』が12月2日に発売された。デビューから40年余り、時代が変わっても、なぜ、中島みゆきの歌は求められるのか。

中島みゆき

中島みゆき

写真ページを見る

【写真】その他の写真を見る


■多くのアーティストに歌い継がれる中島みゆきの名曲の数々

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて世界中が大きく揺れた今年の夏、暗いムードに包まれていた日本のエンタメ業界に光を与えたのは、中島みゆきの名曲「糸」をモチーフに制作され、160万人を超える動員を記録した同名映画の大ヒットだった。

 糸を人に見立て、出逢いの軌跡と絆の大切さを歌った「糸」は、92 年にアルバム『EAST ASIA』のラストを飾る曲として収録。98年にはドラマ『聖者の行進』(TBS系)の主題歌に起用された後、同年には「命の別名」との両A面でシングルカットされているが、同曲の人気に火が付いたきっかけは、04年に音楽プロデューサーの小林武史Mr.Children櫻井和寿を中心としたバンド・Bank Bandが同曲をカバーしてから。以降、つるの剛士クリス・ハートJUJU福山雅治吉岡聖恵いきものがかり)ら多くのアーティストがカバーして、歌い継がれてきた。

 時代を超えて愛されてきたその楽曲の人気を表すように、映画も10代・20代を中心に、30〜50代、さらにはシニア層も多数集客。主演が菅田将暉小松菜奈という若年層に人気の2人だったことを考えれば、幅広い年齢層に支持を集めたのは、モチーフとなった中島みゆき効果によるところが大きかったといえるだろう。
さらに、新型コロナウイルス禍において話題となった曲の1つに、文化庁と日本PTA全国協議会が選定した「日本の歌百選」にも選ばれている中島みゆきの「時代」(75年)がある。某テレビ局の音楽番組のプロデューサーが「コロナ禍で最もリクエストが多かった曲」として挙げていたが、東日本大震災や熊本地震の後同様、多くの人々が中島みゆきの「時代」を求めて、テレビやラジオ、有線にリクエストを寄せたのだ。同曲もまた、一青窈徳永英明薬師丸ひろ子夏川りみ島津亜矢ら多くのアーティストによってカバーされている。なぜ、こんなにも中島みゆきの歌は歌い継がれているのか。

 その答えの1つは、歌詞の持つ力だろう。谷川俊太郎に多大な影響を受けた中島は、「音楽好きというよりは言葉好き」と語るほど歌詞にこだわりを持ち、その深遠なる世界観は、これまで多くの詩人、作家、評論家によって言及されてきた。そして、その多くが魅力として挙げているのが、歌詞の内容の普遍性と説得力である。

 コロナ禍で苦難を強いられている今の時代に「糸」や「時代」が求められるのも、いつの時代も変わらない、人と人がつながることの大切さ、生きることの大変さを歌いながら、聴く人の背中をそっと押してくれる中島みゆきならではの歌詞の持つ力のゆえんであろう。今夏に放送されたフジテレビ系音楽特番『2020FNS歌謡祭』で池田エライザが「時代」を、絢香が「糸」を、満島ひかりが「ファイト!」(83年)を歌唱したのも、コロナ禍における象徴的な出来事だったといえるだろう。

 さらに「ファイト!」に関しては、11月7日放送のフジテレビ系音楽番組『ミュージックフェア』で大竹しのぶが涙を流しながら熱唱したことも、ネットで大きな反響を呼んだ。学歴差別や男女差別、いじめなど、日本社会の暗部をえぐり出し、人としてどう生きるかを問いかけながら、人々の心に勇気を灯す名曲。この曲もまた多くのアーティストにカバーされているが、所得格差やジェンダー格差、少子高齢化など、ますます多くの問題を抱える今の時代にもフィットしているだけに、人々の心に沁み込んでいくのだろう。

■「生きる勇気を鼓舞するエール」と「心に寄り添うエール」

 そんな中島みゆきの楽曲は、当然ながら、カラオケでも人気が高い。知人の結婚を祝うために作られたという「糸」は、以前から結婚式や披露宴でよく歌われる楽曲として知られており、中島みゆき楽曲に限定した2019年度の年間カラオケランキングで1位を獲得している(第一興商 通信カラオケDAM調べ)。

 以下、2位「時代」、3位「地上の星」(00年)、4位「空と君のあいだに」(94年)…と続く。「地上の星」は、戦後日本の画期的な事業を実現させてきた挑戦者たちの姿を描いたNHKの人気ドキュメンタリー『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』の主題歌として制作され、ロングセールスを記録。オリコンシングルランキング週間TOP100内登場週数183週は歴代2位の記録を誇る。自身最大のヒット作「空と君のあいだに」は大ヒットドラマ『家なき子』(94年)の主題歌である。先の「ファイト!」同様、どちらも厳しい現実と向かい合いながらも、生きる力を奮い立たせてくれる名曲だけに、歌うことによって励まされるとともに、歌えば歌うほど、中島みゆき特有の深みのある歌詞世界に気づき、ハマる人が多いのだろう。

 最新アルバム『ここにいるよ』は、それら中島みゆきの名曲、代表曲を全26曲収録したスペシャル盤だ。タイトルは、「空と君のあいだに」の歌詞の一節から引用。“いつでもあなたの傍にいるよ”の思いを込めて、命名されたという。“生きる勇気を鼓舞するエール”をコンセプトとした「エール盤」と、“心に寄り添うエール”をテーマにした「寄り添い盤」の2枚からなり、「エール盤」には、上記の中島みゆき年間カラオケランキング上位4曲に加え、TOKIOに楽曲提供し、セルフカバーした10位「宙船(そらふね)」(06年)、12位「ファイト!」等を収録。「寄り添い盤」には、5位の「悪女」(82年)、13位の「あした」(89年)のほか、デビュー曲の「アザミ嬢のララバイ」(75年)や、最新作「慕情」(17年)等も収録されている。

 新型コロナウイルス感染症の収束の兆しも見えず、多くの社会問題を抱えた現代、中島みゆきの「歌=エール」は先行き不透明な息苦しい今の時代を生き抜く人々の心の支えになるに違いない。
(文・河上いつ子)

関連写真

  • 中島みゆき
  • 2枚組セレクトアルバム『ここにいるよ』(12月2日発売/通常盤)
  • 中島みゆき楽曲 2019年年間カラオケランキングTOP20

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

>

メニューを閉じる

 を検索