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音楽ファン価値観の変化とライブ配信のポテンシャル

 9月になれば状況は改善しているのではないか…。音楽ファンが開催の可能性に一縷(いちる)の望みを残していた「SUPERSONIC 2020」だったが、先日、主催者から開催延期が発表された。これにより2020年夏は、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「フジロックフェスティバル」など、夏の風物詩として定着していた名だたるフェスは全て開催延期・中止に追い込まれた。

「ライブ・エンタテインメント市場規模」20年は前年の3割にも満たない水準に

「ライブ・エンタテインメント市場規模」20年は前年の3割にも満たない水準に

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 ぴあ総研が今年6月に発表した「ライブ・エンタテインメント市場規模」によると、過去最高となる6295億円(前年比7.4%増)を記録した19年から一転、20年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、前年の3割にも満たない水準になることが見込まれている。

■コロナ禍で変化したライブへの価値観

 リアルライブが実施困難な状態はいつまで続くのか、先行き不透明ななか、オンラインの有料ライブに活路を見出そうという動きが、今年6月あたりから急速に進んでいる。有料配信サービスを提供するZAIKOは、同社のサービスを利用して実施されたイベントが、サービス開始から4ヶ月で1500本を突破したと発表。他サービスでも多くのライブ配信が行われており、わずか数ヶ月ですっかり定着した感がある。

 ライブの楽しみ方そのものの見直しが迫られている今、人々の「ライブ・エンタテインメント」の楽しみ方はどのように変化していくのだろうか。ぴあ総研の笹井裕子所長は、これまでのライブ・エンタテインメント市場の成長の原動力となってきた大規模ライブを例に挙げ、「コロナウイルスによって一体感の共有が否定されたことは、コロナ禍後も尾を引くかもしれない」と危惧する。

 「多くの観客が大会場を埋め尽くした空気感、自分もその一員となっているという一体感が大規模ライブの魅力の1つでしたが、今回のウイルス感染拡大はそれを否定しました。コアなファンはライブへの飢餓感を募らせているので、予防施策がとられていて自分の体調が万全であれば会場に足を運ぶでしょう。しかし、ライトなファン、おそらく全体の過半以上を占めると思うのですが、この層は人が集まることへの価値観が変化したわけですから、制約のあるなかで元のように会場に足を運ぶかどうかは懐疑的です。なかには、有料ライブ配信視聴を選択する人も、当然出てくると思います」(ぴあ総研・笹井所長/以下同)

 インターネットの普及とともに成長してきたライブ・エンタテインメント市場。動画を観ることによって、よりリアルな体験を求めるようになったユーザーは、ライブ会場に足を運び、SNS等を通じて感動を共有していった。それもあって、リアルライブの価値は10年代に入って、ひと際高まっていったわけだが、コロナ禍におけるパラダイムシフトによって、コロナ禍後のライブ人口は従来のような成長曲線を描けなくなるのだろうか。

■ライブ人口のすそ野拡大に必要なライブ配信ならではの工夫

 「インターネットでのライブ配信の良さは、これまでいろんな事情でライブに行けなかった人、例えば子育て中であるとか、会場に足を運ぶほどではないが関心のある層なども気軽に観ることができ、すそ野が広がるのは確かです。そのため、全体としてはライブコンテンツの体験人口が減るとは思いませんし、ライブ配信を観て会場に足を運びたいと思う人もいるでしょう」

 その言葉を裏付けるように、ぴあのライブ配信サービス「PIA LIVE STREAM」のチケット購入状況を見ると、地方の購入が増えているという。会場に足を運ばずにライブ配信を選択する人がいる一方で、リアルで観たいと思う新しいファンを取り込むきっかけにもなり得る、というわけだ。そのためには、有料ライブ配信ならではの工夫が必要になってくると笹井氏は強調する。

 「リアルでは実現しないアーティストとユーザーの双方向のコミュニケーションやマルチアングルなど、従来の音楽ライブの制作とはまた異なる技術とのコラボレーションにより、現在、様々な開発が行われています。これからビジネスとして離陸させるのであれば、リアルライブの代用ではなく別物として考えていく。リアルも観たいけれどオンラインでも観たいと思わせるような水準の新たなコンテンツに磨き上げていく必要があると思います」

 フルキャパシティでのリアルライブを行えない今、不足分を有料ライブ配信で補填するとなると、リアルライブで想定する観客数の倍以上が視聴しないことには採算が合わない。これまではリアルライブの代替として利用されるケースが多かったが、今後は新たなコンテンツとして成立させていくべき、という考え方は至極納得できる。

■ライブ情報や配信サービスのポータル化が急務

 また、笹井氏は今後の課題として「ライブ情報や配信サービスのポータル化」も挙げている。前述したように、多くのライブ配信サービスが立ち上がっており、ライブ情報が点在している。好きなアーティストの情報は見つけられても、偶然の出合いはなかなか起こり得ないというのが現状だ。

 「ユーザー側から見ると、混とんとした状態に見えているようで、使い慣れない配信サービス内で投げ銭などの課金を行うとなると、本当に安心なサービスなのかという懸念も抱くようです。信頼できるサービスや情報のポータル化が行われれば認知も向上し、いっそう市場は膨らんでいくのではないでしょうか」

 ゆくゆくは“有料ライブ配信市場の試算”も視野に入れているが、動員数のカウント方法など、クリアすべき問題は山積みであるという。まずは、配信されている公演数の把握から始め、コンテンツ量の増加を注視していく考えだ。

 コロナ禍で変化する音楽ファンのライブへの価値観。しかし、新たに台頭したライブ配信が従来のライブとは異なる新しいコンテンツとして成立すれば、コロナ禍後のライブコンテンツ体験人口のすそ野は今以上に広がる可能性を秘めている。その未来をどう描いていくか、本気で考えるフェーズに入ったと言えるのではないだろうか。

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  • 「ライブ・エンタテインメント市場規模」20年は前年の3割にも満たない水準に
  • ぴあ総研・笹井裕子所長
  • 今年7月に開業した「ぴあアリーナMM」フルキャパシティでの開催が待ち遠しい

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