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瑛人・YOASOBI・AAA末吉…ヒット曲生むTikTokの拡大と成熟 プロアマ隔てない「地続き感」が浸透

 2020年上半期の音楽シーンは、新型コロナウイルスの影響でライブやリリースの延期・中止など未曾有の打撃を受けた。今はアーティストもファンも共に受難の時を乗り越えようとしている。しかし、暗いニュースが相次いだ一方、新しい時代の波を感じさせる動きも確かにあった。今年の上半期は、ショートムービー・プラットフォームとして知られるTikTokで支持された楽曲が、オリコンの合算シングルランキングでも上位にランクインするケースが相次いだ。

瑛人「香水」

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■週間合算シングルランキングで首位 瑛人・YOASOBIの大躍進

 今年の上半期を象徴するアーティストとして、瑛人(えいと)とYOASOBI、そしてAAA末吉秀太、3組の例を紹介したい。前者の2人はTikTokでの人気を受けて知名度を上げ、オリコンのランキングでも上位ランクインを果たしたパターン。末吉はメジャーシーンで長く活躍してきたアーティストでありながら、TikTokをきっかけに楽曲が“再発見”された例といえる。

 瑛人は、昨年4月に配信限定でリリースしたデビューシングル「香水」が現在ヒット中のシンガー・ソングライター。同曲は、過去の恋を思い起こす切ない詞を弾き語りで歌い、昨年末ごろからTikTokで多くのカバーや“歌ってみた”動画が投稿されるように。現在、合計で約15万にもおよぶ関連動画が投稿されている。今年の春以降はナオト・インティライミFANTASTICS中島颯太ら人気アーティストもTikTokにカバー動画をアップしたことがさらに人気を後押ししている。

 YOASOBIは、VOCALOID(ボカロ)楽曲などで知られるコンポーザー・AYASEとボーカルのIKURAによる「小説を音楽にするユニット」 。2019年11月にYouTubeで動画公開され、同年12月15日に配信にリリースされた「夜に駆ける」のヒットが続いている。星野舞夜氏による小説『タナトスの誘惑』を基にした同曲は、ユニットのデビュー曲でありながら、ボカロシーンでの知名度を生かしYouTubeでは2500万回以上の再生数を誇る。一方、TikTokで多くのユーザーがカバーなどの動画を投稿したことも長期的なヒットに大きく寄与していおり、現在、TikTokでの関連動画の再生回数は1億回を突破している。

 続いてオリコンでのランキング推移を見てみると、瑛人はリリースから1年ほど経った今年4/27付のオリコン週間合算シングルランキング(CD、ダウンロード、ストリーミングの合計ポイントで算出※)で3位と初のTOP10入を果たし、5/18付で初の1位を獲得。翌週以降も1位(5/25付)→2位(6/1付)→3位(6/8付)→3位(6/15付)→3位(6/22付)と好調に推移中だ。YOASOBIも5/11付で6位にランクインすると、7位(5/18付)→2位(5/25付)→1位(6/1付)→2位(6/8付)→2位(6/15付)→2位(6/22付)と、首位獲得を含めTOP3以内を数週にわたりキープしている。

(【※】合計ポイントの算出方法:CDシングル1枚=1pt、単曲2.5DL=1pt、シングルバンドル1DL=1pt、ストリーミング300再生=1pt)

 もちろん、新型コロナの影響で全体的に新作リリースが少ない状況は加味しなければならないが、同ランキングでの獲得ポイント数でみると、6/8付で1位だったワルキューレ「未来はオンナのためにある」(5月27日発売)の32,043ptに対し2位の「夜に駆ける」が29,486pt、3位「香水」が22,066pt。6/15付では1位のStray Kids「TOP -Japanese ver.-」(6月3日発売)の37,973ptに対し2位「夜に駆ける」が32,285pt、3位「香水」が22,317ptと、他の人気アーティストたちと十分に渡り合えるほどのポイント数をキープしていることがわかる。最新の6/22付でも2位が「夜に駆ける」で32,378pt、3位「香水」が24,009ptとまったく衰えない。しかも、瑛人・YOASOBIともにCDを発売しておらず、ダウンロードとストリーミングのみでこの順位を保っているのだから驚きだ。

 このほかYOASOBIの「ハルジオン」(2020年5月11日)やyama「春を告げる」(2020年4月17日)もTOP10入りを果たしており、4月以降は特にTikTokで人気アーティストや楽曲が続々とチャートを席巻していた。

■アルバムの1曲が突如「バズり散らかす」 AAA末吉秀太の例

 一方で、すでにメジャーシーンで人気のアーティストがTikTokをきっかけに“再発見”されるケースも出てきている。

 ダンス&ボーカルグループ・AAAの末吉秀太がソロのShuta Sueyoshi名義で昨年1月にリリースしたアルバム『WONDER HACK』。その収録曲「HACK」が、今年の4月ごろから突如TikTokで注目を浴びるようになった。リズミカルでポップな曲調に合わせてTVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のワンシーンや『週刊少年ジャンプ』で連載していた大人気漫画『鬼滅の刃』のコスプレ動画の他、弾き語りやダンス動画をあげるTikTokerが相次ぎ、1年以上前に公開された曲にもかかわらず5月18日〜5月24日のTikTok国内週間楽曲ランキングでは1位を獲得した。関連動画の投稿数も約12万におよぶ。

 この現象が話題を呼び、6月5日のテレビ朝日系『ミュージックステーション』(毎週金曜 後9:00)にソロとして初出演も実現。同番組にはTikTokerの景井ひなも登場し、この“HACK現象”について「バズり散らかしています。もう皆さん使ってます」と話し、自身も「HACK」を使った動画を紹介していたほどだった。末吉自身も「1年以上前に制作したものなんですけど、今こうしていろんな方々に聞いていただけてうれしく思っています」と感謝していた。

 これらの反響を受け、各音楽ストリーミングサービスやYouTube等合わせた総再生回数は1500万回を超えるなど、アルバム内の1曲だった「HACK」が突如ヒット曲として認知されるに至っている。

■もはや“10代のSNS”ではない ヒット曲を生むTikTokの成熟

 7月で日本でのローンチからまる3年が経つTikTok。これまでもUGC(=User Generated Contents 一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツ)動画から生まれたTikTok内の“人気曲”というのは数多くあったが、ここまでシングルランキングに影響を及ぼす作品が相次いでいるのは過去に例がない。現在、「香水」も「夜に駆ける」も膨大な数の“歌ってみた”“踊ってみた”や、おもしろネタ、感動ネタのUGC動画がアップされており、このムーブメントの力強さを感じさせる。今回、TikTok側がこういった現象をどう見ているのか、TikTok Japanゼネラルマネージャーの佐藤陽一氏に話を聞いた。

 瑛人については「昨年末くらいから『香水』を使ったUGC動画が少しずつ増え始めた印象です。TikTok内のアルゴリズムがその動きをピックアップしてさらに拡散されるというのがうまく重なって、認知を広げることにつながった」という。さらに4月以降、複数の人気アーティストが同曲をカバーして投稿する動きが人気に拍車をかけた。

 YOASOBIにおいては「もともとボカロ系のコミュニティと相性の良さがあり、それとファン層のリテラシーの高さが重なって、ユーザーが高品質なMVをつくってるかのような動きが見られました」と振り返る。YouTubeやニコニコ動画など複数の動画プラットフォームでも同時に展開したことでさらに相乗効果を生み、アーティスト側の戦略が際立った。

 こうした楽曲の広がり方が相次いだ要因として佐藤氏は、アーティストサイドにTikTokをコンテンツ発信ツールとして用いる認識が広がったこと、ユーザー層が広がりプラットフォームとして成熟してきたこと、2つが同時期に重なったと指摘する。

 これまでTikTokは10代、特に高校生が楽しむSNSという印象がどうしても強かったが、その年齢層の分布も確実に広がっているという。「ローンチ当初はメインのユーザー層が10代後半という状態でしたが、現在起きているような楽曲のヒットは“10代・高校生”という属性だけでは発生しなかったと言えます。TikTokユーザーが20代以上にも広がり、その結果、外に向けた拡散力やアピール力にもパワーが出てきている。特に『香水』は上の世代の方が聴いても感動できる普遍性があり、TikTokでその魅力に気づいた10代以外の層も多いです」と、属性が広がったことによりヒットを生みだす推進力が備わってきたと指摘した。

■プロ・アマを隔てない「クリエイションの融合」

 過去にも、ほかのSNSやYouTube、niconicoなど、動画コンテンツのムーブメントは数多あったが、「TikTokの特徴として挙げるなら、ショートであることはもちろんですが、コンテンツの作りやすさです。スマホですぐにできるハードルの低さが、さまざまな属性の方の参入を促しています。自分が好きな音楽で何かしたいというアマチュアの方が、身構えずコンテンツを発信でき、多くの人に拡散されていく仕組みが、より多くの層に支持されるようになったと感じております」と佐藤氏。

 確かに、TikTokの人気動画は、“職人感”が強いYouTubeやニコ動のコンテンツとも傾向が異なる。「面白いのは、ダンサブルな曲を使ってコミカルだったり面白かったりカッコよかったり、クオリティーの高いダンスなんかをアップする方が多い一方、スマホで撮っているからこその身近感、地続き感、アマチュア感、自分と相手の距離の近さというのも重要。プロ的、職人的に作り込まれた動画がバズるとは限らないんです。何気なくスマホを出してすぐ撮りました、みたいなものが人気になることが多い」という。

 限られた時間=“ショートムービー”であるがゆえに、プロもアマチュアも同じ土俵でヒットを共有する感覚がより強くなる。佐藤氏も「力のあるアーティストもこれからのアーティストも、そしてアマチュアの方も、ボーダーラインをなくして面白い交流が自在にできる場になれば。年齢や売れてる・売れてない、そういった思い込みや役割を崩してクリエイションが融合し続けていくことが理想です」と展望を語っていた。

 ヒット曲を生む新たなエンジンの一つとしてTikTokが大きな存在感を示した。この点は、難局続きだった2020年上半期の音楽シーンにあって、今後の光明となり得る実りだったと言えるだろう。

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