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「妄想」から音楽へ――ももすももすが初フルアルバム『彗星吟遊』発表 「まだ“うさぎの耳”がついてないすべての人や動物へ」

 昨年2月に日本コロムビア/TRIADからデビューしたシンガー・ソングライター・もすももすの初のフルアルバム『彗星吟遊』が3月3日にリリースされる。「妄想」を武器に、独自の道を歩む、ももすももす。今作も独自の世界観が広がっており、現代社会に蔓延するマイナス要素を浮き彫りにしつつ、それらをJ-POPへと昇華。いわば「ポップな絶望」として音楽化してみせた。これまでのJ-POPやJ-ROCKになかったコンセプトを持つ『彗星吟遊』について本人に話を聞いた。

ももすももすインタビューカット 写真/藤原悠里

ももすももすインタビューカット 写真/藤原悠里

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◆できるだけ言葉が美しく聴こえて欲しい

――今、発表している曲の歌詞の主人公は“僕”が多いですが、曲作りを始めたころから主人公は“僕”だったのですか?
【ももすももす】まったく覚えてないです。ただ、日本語って俳句の575とか、555とか、66とか、リズムに合わせて一人称を変えてるものがありますよね。私はできるだけ言葉が美しく聴こえて欲しいので。

―― 一人称の呼び方次第で、歌の印象がずいぶん変わりますが、内容に合わせてっていうよりは、どう響くかを大事に作詞していたんですね?
【ももすももす】大学の文学部で日本語を専攻していて、“日本語学”を卒論として研究してたのが、日本語の語呂についてでした。どういう語呂が耳に触れて気持ちいいか、心に残るかっていうのを研究していて。そのときに、いろんなルールを見つけて。たとえば6音6音だと、最後の母音がラップみたいに韻を踏むのがよかったり。「ん」とか「長音」か、いろいろルールを絞り出してたんですよ。私の作詞は、無意識にそれに則っているときがあります。

――その研究は3、4年生でやっていたんですか?
【ももすももす】はい。でも自分ではすごくいい研究だと思ったんですけど、先生の評価が超悪かったんですよね。全然評価してもらえなかった(笑)。悲しかったです。

――(笑)。自分で作ったサンプルの作品を、朗読してあげればよかったのに。
【ももすももす】いや、全部音を録音して、波形も提出したのに、だめでした。漢文の先生で厳しかったから、めちゃめちゃ怒られて泣いたことがあります(笑)。

■誰も私の経験を同じように経験することはできない

――今回のアルバム『彗星吟遊』は、ハッピーエンドより、ペシミスティックな歌詞が多いと思います。そういう傾向は曲を作り始めたころからあったのですか?
【ももすももす】はい。

――特に「隕石」という曲では、世の中を破壊したい衝動が描かれていて、笑っちゃうぐらい絶望している。
【ももすももす】自分の中のいちばん大きな経験のひとつとして、「どれだけ辛いとか苦しいとか、助けてくれと言っても、世の中は何も変わらない」っていうことがあって。

――「誰も助けてくれない」という意味ではなく、「世の中は変わらない」ということでしょうか?
【ももすももす】はい。世の中は何も変わらないし、誰も私の経験を同じように経験することはできないっていうことが、絶対的にある。そういう絶対に揺るがない現実が自分の心の中にあって、それが私の中で絵を描くときの筆になってる。それ自体にいろんな色を付けて、曲を書いてるみたいな感じです。

――すごくペシミスティックな感情ですね。
【ももすももす】どうしてそうなったのかは、あまり言いたくないです。ある時期、自分の考え方や主張、感覚、痛覚、すべてが暖簾に腕押しの環境だったので、絶望がそこから始まったんです。

■言葉のギミックを使って自分に足りないものを書いた

――たとえばメジャー・デビュー曲の「木馬」は、どういうふうにできたのでしょうか?
【ももすももす】「木馬」は、言葉のギミックを使って自分に足りないものを書いた曲です。

――「木馬」を聴いていちばん印象に残るのは、「この世界を空き瓶の中へ戻したい」というフレーズ。やり直したいって言ってるんじゃない。空き瓶の中に戻したいと言っているということは、空き瓶から出ちゃったものがある。そして「木馬」の歌詞は、「僕らはいつでも傷だらけ」で終わる。
【ももすももす】私の中のイメージだと、いろんな街とかビルとか、知らない誰かの思っていたものが全部空き瓶の中に入っていて、そこに隕石が落ちてきて、空き瓶が割れちゃって、そこからビルが溢れ出して今の世界、東京みたいな感じで建ってしまった。空き瓶は粉々になってコンクリートや砂浜になってるけど、瓶も砂も誰も触れないところに元通りに戻したいっていう……説明が難しいです。

――「火星よ、こんにちは」では“オロシリアン(古原生代=18〜20億年前)”っていう言葉が出てくる。戻るんだったら、そのくらい昔まで戻りたいっていうことなのでしょうか。
【ももすももす】はい。

――そんな太古のことを、いつ頃から考えていたのですか?
【ももすももす】うーん、わかんないですね。小学校のときは、地理が大好きでした(笑)。「saboten」っていう歌に“三角州”が出てくるんですけど、三角州が死ぬほど好きで。扇形の三角州を見ると、なんか胸に刺さるものがある。「うわー」ってなる(笑)。地理のテストで三文字の空欄が出てくると、これは三角州しかないって!

――実際、それは正解だったの?
【ももすももす】はい、正解でした! 三角州の問題は、だいたい正解するんですよ(笑)。三角州、最高〜。

■彗星を吟遊するとして、いちばん最初に行きたい目的地を集めてきた

――『彗星吟遊』を作ることになって、最初にどう思ったのですか?
【ももすももす】生まれて初めてのアルバムなので、自分の曲を12曲も並べたことがなかった。当然、他の人のアルバムをいっぱい聴いてきたんですけど、自分のアルバムって一体どうなるんだろうっていうワクワクが未だにあります。ここでアルバムの話をしていても、ワクワクしてます。

――アルバムっていう形で他人の作品を聴くのは好きですか?
【ももすももす】好きですね。ああ、でもシングルのほうが好きかな。宇多田ヒカルさんのアルバムはすごく好きですね、曲順も含めて。

――宇多田さんの曲順を、参考にしたりするんですか?
【ももすももす】いや、それとこれとはまた別で。自分の曲順は自分で考えます。あまり他の人の作品を参考にはしないです。

――アルバムを作るにあたって、全体のテーマは決めていたのですか? 
【ももすももす】曲のストックが何十曲もあるんですけど、その中でも彗星を吟遊するとして、いちばん最初に行きたい目的地を集めてきたみたいな感じです。

――最初から『彗星吟遊』っていうアルバムタイトルがあったということ?
【ももすももす】いえ、アルバムを作った後から、「あ、私、彗星を吟遊してたんだ」って思って。毎日、自分の感情がいろいろ変わっていくじゃないですか。それって、いろんなところを旅してるようだなって思って、それと同じように吟遊したいなって。日々、移りゆく気持ちとともに、いろんな曲の間を行き帰りしたいなと思う。ある星は隕石がわーってなったり、桜が降ってくる星もあれば、傷だらけの木馬がたくさん横たわってる星もあれば、「うさぎの耳」みたいに、ちょっと開けた土地のある星もあったり。

――その彗星の旅の中で、「Confession」だけがちょっと異色だなと感じました。この曲は、自分にとってどんな位置にあるのですか?
【ももすももす】他の曲は全部、好きな服を着て、おしゃれをして歌ってるんですけど、「Confession」だけは、黒い制服を着て書いたイメージです。スーツにネクタイをして。喪服とかそういうイメージ。

――「シャボン」は他の曲と歌い方が違う。ある意味、すごくフォーキーな感じで。これはどんなふうにできた曲なのですか?
【ももすももす】シャボン玉って吹いたらすごくきれいで、尊くて、触りたくって、だけど触れたらすぐに消えてなくなってしまう。ほっといても消えてなくなっちゃう。自分もそのうちシャボン玉のように、パッと消えてなくなっちゃう。だけど、ずっと生きていかなきゃいけないし。そんな感情を込めて作りました。

――アルバムの中には、「シャボン」以外にもこういう消失願望が見え隠れしている。
【ももすももす】消失願望はあります。

――その願望は、坂口安吾や渋沢龍彦の小説にある感情と、雰囲気がよく似ています。
【ももすももす】坂口安吾さんの「桜の森の満開の下」が好きですね。渋沢龍彦さんも、すごい好きです。

■自分の中に3つぐらい人格があるような気持ちになる

――アルバムの中で「シャボン」が、いちばんまともなラブソングだと思いました。その意味では、「隕石」は真逆のラブソング。隕石が落ちてきて世界が終わるとき、「君の最後の人は私でしょう」と歌う。これはラブソングのもっとも原始的な形ですよね。これはどういう風にできたのですか?
【ももすももす】一晩でできましたね。自分の考えてることと正反対のことを書くときもあって。

――(笑)。ももすももすの歌は、歌っている本人が“私”の立場で歌ってるのか、“君”の立場で歌ってるのか、わからなくなるときがあります。
【ももすももす】うーん、なんだろう。他人と話すときに、1対1じゃない気持ちになるときがあって。自分の中に3つぐらい人格があるような気持ちになったりする。だから他人との会話は3対3とか、実際は3対5だったりすることもある。そのせいで曖昧になってるのかなって思いますね。

――もう一つの見方でいうと、恋愛の対象がいるようでいて、実は自己愛の歌になっていたり。
【ももすももす】恋愛は自己愛だなって思います。

――なるほど! そのことを「隕石」ですごく感じました。特に「萎れた花みたいだな この歌詞可哀想だな」というフレーズに。
【ももすももす】自分の体を精一杯傷つけたあとに、「あ、この傷、痛そうだな」って言ってるみたいな。でも、この1行がいちばんほっとしてる感じがあると思います。息継ぎみたいなもので。

■聴きたい人を増やせるような音楽を、自分が作れたら最高

――最後に、『彗星吟遊』を、どんな人に聴いて欲しいですか?
【ももすももす】特に聴いて欲しい人とかはいないんですよね。聴きたい人が聴いてくれればいいなと思ってる。聴きたい人が増えてくれるのがいちばんですね。聴きたい人を増やせるような音楽を、自分が作れたら最高なんですよね(笑)。 

――それを自分で言うか(笑)。
【ももすももす】元も子もないんですけど(笑)。人に対して要求することって、あまりないですね。世の中に対しても、あまり怒ったりもしないし(笑)。

――(笑)泣いたりもしないし。
【ももすももす】関与しないですね。あえて言うなら、まだ“うさぎの耳”がついてない人たちに聴いて欲しいかな。

――「うさぎの耳」という曲で「ああ僕はうさぎの耳が欲しい」と歌ってる。もし、うさぎの耳を手に入れたら、アナタの聴いてる曲を離れてても聴きたいとも歌っている。『彗星吟遊』を聴くと、その魔法の耳が手に入るってこと?
【ももすももす】そうかも(笑)。だから『彗星吟遊』を、まだ“うさぎの耳”がついてない人間全員、動物全員に聴いてもらいたいです。
(インタビュアー/音楽評論家・平山雄一

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  • もすももす初のフルアルバム『彗星吟遊』(3月3日発売)

提供元:CONFIDENCE

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