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まふまふ・そらる…2019年「歌い手」の革命 ネット〜リアルまで浸透させた全方位プロデュースの手腕

 今年6月23日、埼玉・メットライフドームで行われた「まふまふ」の主催イベント『ひきこもりたちでもフェスがしたい!〜世界征服I@メットライフドーム〜』は、筆者が今年観た約150本のライブ/イベントのなかでも、もっとも強く印象に残っている。この前日に同じ会場で単独公演を成功させたまふまふのほか、そらる天月-あまつき-佐香智久少年T)、うらたぬき、志麻、となりの坂田。、センラ、あらき、un:c、nqrse、luzEve、Souなど、人気の“歌い手”たちが一堂に会したこのイベントには、3万5000人の観客が集結。楽曲のクオリティー、演出のスケール感、出演アーティストのパフォーマンスが一体となったステージは、現在の日本のエンターテインメントにおける彼らの存在感の強さをはっきりと示していた。

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 2019年は歌い手がメジャーシーンに進出し、一般的な音楽ファンにも完全に浸透した年だった。歌い手とは、ボーカロイド系の楽曲、J-POP、J-ROCKなどをカバーした“歌ってみた”動画をニコニコ動画などの動画共有サイトに投稿する人たちのこと。00年代の後半から登場した歌い手は年を追うごとに注目度を高め、オリジナル曲も増加。ボカロPとともに、インターネット発の音楽で中心的な役割を果たしてきた。

 また、ライブの動員も右肩上がりで成長を遂げてきた。前述したまふまふのメットライフドーム公演をはじめ、今年10周年を迎えた“そらる”が幕張メッセ2daysを含む全国6大都市ツアー『SORARU LIVE TOUR 2019 -10th Anniversary Parade-』を成功させるなど、アリーナクラスのライブを次々と実現させている。また、アニメの主題歌を担当したり、地上波の音楽番組や情報番組への出演増加も今年は顕著だった。いまや“歌い手”はネットの枠に収まらず、一般的な知名度を得たと言っていいだろう。

■まふまふ・そらる・すとぷり浦島坂田船・Eve…好調なセールスと多彩な活動スタイル

 現在の歌い手シーンを代表するアーティストたちのキャリアと今年の活動を振り返ってみよう。まずは、まふまふ。2010年に歌い手として活動をスタートさせ、ボーカロイド楽曲を中心とした『明鏡止水』(13年)、自身のボーカルによるオリジナル曲で制作した『明日色ワールドエンド』(17年)と徐々に活動の幅を広げ、ネットミュージックのシーンで絶大な支持を得てきた。特徴的な高音ボイスを活かしたボーカルはもちろん、作詞、作曲、編曲、演奏、エンジニアリングまで自ら行うマルチクリエイターとしての資質も。アーティストとしてのスタイルを自身でプロデュースできることも彼の強みだ。

 6月のメットライフドーム公演に続き、10月16日にはニューアルバム『神楽色アーティファクト』をリリース。「サクリファイス」(TVアニメ『かつて神だった獣たちへ』オープニングテーマ)、「ジグソーパズル 」(MBS/TBSドラマイズム『スカム』オープニング主題歌)」などを収録した本作は、オリコンウィークリーチャートで2位を記録し、10万枚以上のセールを記録。来年3月25日に東京ドームでの単独公演『ひきこもりでもLIVEがしたい!〜すーぱーまふまふわーるど2020@東京ドーム〜』も決定している。

 続いては、そらる。2008年から“歌ってみた”動画を投稿し始めたそらるも、歌い手シーンをけん引し続ける存在だ。難易度の高いボカロ楽曲から「366日」(HY)、「クリスマスソング」(back number)といったJ-POPをカバーし、イケメンボイスと呼ばれる美声によって支持を獲得。まふまふとのユニット“After the Rain”としても活動し、昨年8月にはさいたまスーパーアリーナ公演を成功させている。また、近年はソングライターとしても才能を発揮。「銀の祈誓」(アニメ『ゴブリンスレイヤー』)、「アイフェイクミー」(映画『賭ケグルイ』)などアニメ、映画などの主題歌を手がける一方、3rdアルバム『ワンダー』では、大西省吾田中隼人などのヒットメイカーをアレンジャーに迎え、ポップスとしての精度を高めた。本作には彼自身のリアルな感情を込めた楽曲も収められ、アーティストとして新たな表現の境地を切り開いたと言えるだろう。

 歌い手、ゲーム実況などで人気のさとみ、ジェル、ころん、ななもり、莉犬、るぅとによるエンターテインメントユニット、“すとぷり”も、19年に大きな飛躍を果たした。最長192時間に及ぶ「リレー生放送」など、メンバーの個性とキャラクターを活かしたコンテンツによって女性ファンを中心に高い支持を獲得。7月に発売された2ndアルバム『すとろべりーらぶっ!』は初動約10万枚を記録し、アルバムランキングで見事に初登場1位を獲得。9月にはキャリア最大規模となる埼玉・メットライフドーム公演を行うなど、セールス、動員を含め、活動の規模を拡大している。

 その他、卓越したボーカルスキルとメンバーの個性的なキャラクターで人気の4人組歌い手ユニット浦島坂田船”、歌い手としてスタートし、ボカロP、シンガーソングライターとしても才能を発揮し、シーンを超えた評価を得ているEveなども存在感を発揮した。

■世界観にファンを引き込む “全方位”に秀でる自己プロデュース力

 歌い手シーンから次々スターが登場している理由としては、まず、“スマホで音楽と出会う(聴く・観る)世代”が昨今の音楽市場で着実にその比率を増してきている点が挙げられる。歌い手ファンの中心である10代〜20代前半のユーザーは、おそらく物心がついたときから、インターネットを起点に音楽の情報を得ることが当たり前だったはず。つまり彼ら、彼女らにとっては、ネット発の音楽こそが“もっとも身近にある”ポップミュージックだったのだ。

 SNSの発信力に優れていることもブレイクしている歌い手の特徴。楽曲の内容はもちろん、現在のアーティストには“どう発信するか”が問われているが、もともとネット上からはじまった歌い手は、SNSの効果的な使い方に長けている。まふまふはツイッターのフォロワー数が164.5万人、そらるは138.5万人。SNSを通して積極的にコミュニケーションを取ることで、ファンとの心理的な距離を近づけているのだ。ちなみに米津玄師のフォロワー数は223.2万人、星野源は118.1万人、ONE OK ROCKのオフィシャルが161万人。この数字を見ても、歌い手出身アーティストの影響力は日本のトップアーティストと匹敵していると言っていい。

 また、まふまふ、そらる、浦島坂田船をはじめ、歌い手はここ数年、ライブ活動に重点を置き始めている。インターネット、SNSを介して歌い手の魅力に触れてきたユーザーにとって、“リアルに出会える場所”であるライブはもっとも重要なイベントだ。

 歌い手系のアーティストは、ライブのストーリー作りも凝っている。一例を挙げると、浦島坂田船の今年の全国ツアー『浦島坂田船 SUMMER TOUR 2019 〜浦島theカジノ船 俺たち愛$、今夜お前とBETイン〜』のテーマは「カジノ」。Crewと呼ばれるファンを“カジノ・$HUFFLEの来店者”と呼び、浦島坂田船のメンバーはカジノで恐れられる“四天王”を演じていたのだ。観客はライブの物語や設定を共有することで、より強い一体感を得られるというわけだ。

 最後に、歌い手のプロデュース能力の高さについても記しておきたい。“歌ってみた”動画をアップすることから活動をスタートさせた歌い手は、楽曲や動画の制作、ライブの演出に至るまで、活動の全方位を自分自身でコントールすることが多い。まふまふ、そらる、Eveなどはメジャーレーベルから音源を発売しているが、基本はセルフプロデュース。“アーティスト自身が発信している”というスタンスもまた、ファンの強い信頼を得ている理由だろう。

 最初に紹介した『ひきフェス』においてまふまふは、出演者を「僕が考えた最強の14人」として紹介。歌い手の枠を超えて、音楽性、活動の幅を広げてきた出演者を称え、「革命は成った!」とドーム公演成功の意義を表現した。歌い手の登場から10数年。2019年に彼らが成した躍進は、音楽シーンにおけるアーティストの“在り方”に革命を起こしたと言って過言ではないだろう。

【音楽ライター・森朋之】

関連写真

  • まふまふ
  • そらる
  • すとぷり2ndアルバム『すとろべりーらぶっ!』
  • 浦島坂田船によるアニメ『浦島坂田船の日常』

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