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バンドのブレイク 時代とともに変化する「成功の方程式」

 アイドルやアニソンシーンが毎週のようにチャートを賑わすなか、本年に入り、ONE OK ROCKがアルバム『35xxxv』で、インディーズデビューから8年7ヶ月で初の首位を獲得(累積売上18.8万枚、3/2付)すると、SEKAI NO OWARIのアルバム『Tree』は累積売上40万枚を超えるなど、バンドシーンからのヒットも続き、音楽市場全体の厚みも増している。彼らに代表されるように、セルフプロデュースに長け、独自の世界観を追及し、ブランド戦略を突き詰めたバンドやグループたちが、今、大きな成功を手にしつつある。

SEKAI NO OWARIはテーマパークのような野外ライブを実施して、ファンタジー的な世界観をうまく伝えている。写真は15年1月14日に発売したアルバム『Tree』

SEKAI NO OWARIはテーマパークのような野外ライブを実施して、ファンタジー的な世界観をうまく伝えている。写真は15年1月14日に発売したアルバム『Tree』

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■「伝え方」や「見せ方」など発信方法でもセンスが問われる

 とはいえ、かつてとは「成功の方程式」は変わってきている。インターネットやSNSが一般化し、メディアのあり方も多様化した。音楽だけではなく、世の中に流れる情報はより早く、より大量になり、より細分化が進んでいる。こうした状況を踏まえ、パッケージのセールスだけでなく、ライブやグッズも含めてきちんと「売れる」アーティストを育てるためには、どういう価値観や考え方が大事になっているのだろうか。

 まず最初に言えるのは、「曲そのもの」の訴求力が以前と比べて一段と高まっていることだ。テレビやラジオは依然として強い影響力を持っているが、今ではミュージシャンやレーベルがYouTubeに公式チャンネルを持つことは一般的になってきた。メディアのパワープッシュやタイアップでの露出に頼らずとも「とりあえず曲を聴いてもらう」ことが可能になり、今ではそこを起点にリスナーの口コミを巻き起こすことがヒットの起爆剤になる例も多い。

 ミュージックビデオ、すなわち動画表現の持つ重要性が増してきた80年代、MTVが普及した頃にも同じようなことが言われていたが、大事なことは、ネットが普及したことで、「どのMVを再生するか」といった選択権を放送局側ではなくリスナーが握るようになった点だ。

 そこでリスナーに選ばれるためには、曲そのものは当然重要だが、「伝え方」や「見せ方」を含め、発信方法にもおいてもセンスが問われる時代になっている。次項からは「伝え方」に着目し、育成事例を見ていく。

■キャラクター性を自らプロデュース

 まず、1つ目に挙げられるのが、周囲のクリエイターを巻き込みながら自らのキャラクターをセルフプロデュース的に作り上げていくケースだ。

 代表的なアーティストはきゃりーぱみゅぱみゅ。中田ヤスタカ氏、増田セバスチャン氏、田向潤氏ら一流の制作陣と共に作り上げた11年の「PON PON PON」のMVは、ほぼ無名だった彼女を一躍スターダムに押し上げた。MAN WITH A MISSIONも「オオカミバンド」としてのキャラクター性を全面的に打ち出すことでブレイクに繋げている。

■「等身大」に寄り添うのではなく「物語」にファンを巻き込む

 2つ目は、聴き手に寄り添い共感を誘うのではなく、アーティストが発信する独自のフィクショナルな物語にファンを巻き込んでいくケースだ。代表例はSEKAI NO OWARI。彼らはテーマパーク的な野外ライブを行うことで、ファンタジー的な世界観をファンに伝え、それが躍進のきっかけとなった。

 このほか、グループの活動に「メタルの神・キツネ様の教えに従い、世界中の人々にメタルの魂を呼び覚ます“メタルレジスタンス”を遂行する」という大仰なストーリーラインを設定し、毎回のライブで映像演出と共にその物語を展開するBABYMETALも同じ手法と言っていい。

 どちらのグループもデビューしてからアルバムのリリースまでにたっぷり時間をかけている点でも共通する。持ち曲を増やし、ライブ演出を通じてファンと世界観を共有することを重視していった結果、オリジナルアルバムはベスト盤的な性格を持つものになり、ヒットへと繋がった。

■「ビジョン」を明確にしてシーンそのものを作る

 3つ目は、アーティストが自身の持つ価値観や考え方、目指すビジョンをハッキリと打ち出し、それが音楽の方向性やクオリティに表れているタイプだ。

 サカナクションやONEOK ROCKがその代表例に挙げられる。両者に共通するのは、単に「売れたい」とか「大きな場所でライブをやりたい」という目標だけでなく、自分が売れることによってシーンをどう変えたいかということに意識的である点だ。そこが作品自体やステージ演出など、表現のスケールを急速に広げることに繋がっている。

 そしてこの3つのタイプに共通するのは、アーティストとスタッフにチーム意識が根付いている、ということだろう。ミュージシャン自身に、単なる音楽の作り手としてだけではなく、ビジュアルやステージ演出も含めたクリエイティブチーム全体の船頭役としての意識が宿っているチームも多い。そして、SNSを通してアーティストの世界観を発信する“チームの一員”としてファンを巻き込むことで、ファン自身のロイヤリティを高めていくこともできている。

 ミュージシャン自身の発信力をどう高めるか。スタッフやファンとの結束力をどう作るか。育成のカギの1つはそんなところにもありそうだ。

(ORIGINAL CONFIDENCE 15年3月9日号特集「アーティスト育成の最新動向」より、文/柴那典)

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