■ますます、もっと、平井堅
“歌うたい”が人々の心を揺さぶり、心の奥深くまで届く歌を歌い続けた結果、自らを“歌バカ”と呼び、誰もが尊敬の念を込めそう呼ぶ……彼のことを。彼の名は、シンガー・ソングライター平井堅。
歌バカであり“ポップスター”であり続ける彼も、この1月で40歳を迎えた。“不惑の40歳”というが、5月30日にリリースした約1年ぶり、35枚目のシングル「告白」を聴くと、確かにシンガーの道を迷わず進み続ける彼の姿がはっきりと見えるし、さらにその表現力にグッと深みが増したように感じる。まだまだ成長、進化を続けているということだ。もちろん、彼自身は迷いも戸惑いも感じているかもしれないが、それをもエネルギーに変えて、平井はシンガーとして、ソングライターとして確実に進化しているし、その過程で生じる“熱”を「告白」では感じさせてくれる。
「告白」は、注目の女優・武井咲主演のテレビ朝日系ドラマ『Wの悲劇』の主題歌として、平井が書き下ろしたもので、確かにドラマが持つ“トーン”をこの作品にも感じることができるけど、さらに広がりを持った世界観を感じさせてくれる。それはどこか懐かしい肌触り。例えば平井が多感な時期によく耳にしていたであろう70〜80年代のニューミュージックや、昭和の歌謡曲の影響もあるのかもしれないが、そんな時代の“歌”が持っている日本の気候にも似た、少し湿り気を帯びた感じ。それが、孤独な女性の絶望的な哀しみや苦しみを綴った歌詞を、より浮かび上がらせ、それが良い意味で心にまとわり付いてくる。
今回の歌詞にも、平井の新たな面を感じる。ドラマありきの歌詞だとは思うが、それにしても救いや出口が見つからず、鋭利な言葉たちがもたらす暗闇がどんどん広がっていき、<巡れど巡れど闇は闇>という詞があるように、そこに“希望の光”は全く差してこない。そこで、唯一の希望の光になるのが、平井の声であり、歌だ。平井の甘くも危険な声は、ともすると、その闇をさらに深く哀しいものにしてしまう可能性もあるが、今回はそこに光を差してくれている。それこそが平井の持って生まれた優しさであり、シンガーとしてより深みを増した表現力なんだと、個人的には思っている。
マイナー調の湿った曲調のなかで、4つ打ちの跳ね気味のビートが、ループされ進んでいく。そこに重厚なストリングスが重なってくると、淡々としながらも悲壮感が漂い、サスペンスの匂いを感じさせてくれる。行先不明の世界へ招き寄せられるようなアレンジは、耽美的でさえある。言葉とメロディ、そしてサウンドが三位一体となって、なんともいえない病みつきになる雰囲気を醸し出している。
カップリングの「Woman“Wの悲劇”より」のカバーも出色だ。薬師丸ひろ子が歌った、この日本の音楽史上に残る名曲をカバーするということで、平井はここでも相当悩み、勇気が必要だったと思う。でも、素晴らしい仕上がりになっている。決して“歌い上げよう”とせず、まるでたゆたう波に身を任せるように、淡々と歌っているように感じる。でも、それが結果的に、平井堅の色をきちんと出すことに繋がっているのではないだろうか。
今回の作品を聴いてますます、そしてもっと、平井堅の歌を聴きたくなった。
⇒ 『編集長の目っ!!』過去記事一覧ページ
“歌うたい”が人々の心を揺さぶり、心の奥深くまで届く歌を歌い続けた結果、自らを“歌バカ”と呼び、誰もが尊敬の念を込めそう呼ぶ……彼のことを。彼の名は、シンガー・ソングライター平井堅。
歌バカであり“ポップスター”であり続ける彼も、この1月で40歳を迎えた。“不惑の40歳”というが、5月30日にリリースした約1年ぶり、35枚目のシングル「告白」を聴くと、確かにシンガーの道を迷わず進み続ける彼の姿がはっきりと見えるし、さらにその表現力にグッと深みが増したように感じる。まだまだ成長、進化を続けているということだ。もちろん、彼自身は迷いも戸惑いも感じているかもしれないが、それをもエネルギーに変えて、平井はシンガーとして、ソングライターとして確実に進化しているし、その過程で生じる“熱”を「告白」では感じさせてくれる。
「告白」は、注目の女優・武井咲主演のテレビ朝日系ドラマ『Wの悲劇』の主題歌として、平井が書き下ろしたもので、確かにドラマが持つ“トーン”をこの作品にも感じることができるけど、さらに広がりを持った世界観を感じさせてくれる。それはどこか懐かしい肌触り。例えば平井が多感な時期によく耳にしていたであろう70〜80年代のニューミュージックや、昭和の歌謡曲の影響もあるのかもしれないが、そんな時代の“歌”が持っている日本の気候にも似た、少し湿り気を帯びた感じ。それが、孤独な女性の絶望的な哀しみや苦しみを綴った歌詞を、より浮かび上がらせ、それが良い意味で心にまとわり付いてくる。
今回の歌詞にも、平井の新たな面を感じる。ドラマありきの歌詞だとは思うが、それにしても救いや出口が見つからず、鋭利な言葉たちがもたらす暗闇がどんどん広がっていき、<巡れど巡れど闇は闇>という詞があるように、そこに“希望の光”は全く差してこない。そこで、唯一の希望の光になるのが、平井の声であり、歌だ。平井の甘くも危険な声は、ともすると、その闇をさらに深く哀しいものにしてしまう可能性もあるが、今回はそこに光を差してくれている。それこそが平井の持って生まれた優しさであり、シンガーとしてより深みを増した表現力なんだと、個人的には思っている。
マイナー調の湿った曲調のなかで、4つ打ちの跳ね気味のビートが、ループされ進んでいく。そこに重厚なストリングスが重なってくると、淡々としながらも悲壮感が漂い、サスペンスの匂いを感じさせてくれる。行先不明の世界へ招き寄せられるようなアレンジは、耽美的でさえある。言葉とメロディ、そしてサウンドが三位一体となって、なんともいえない病みつきになる雰囲気を醸し出している。
カップリングの「Woman“Wの悲劇”より」のカバーも出色だ。薬師丸ひろ子が歌った、この日本の音楽史上に残る名曲をカバーするということで、平井はここでも相当悩み、勇気が必要だったと思う。でも、素晴らしい仕上がりになっている。決して“歌い上げよう”とせず、まるでたゆたう波に身を任せるように、淡々と歌っているように感じる。でも、それが結果的に、平井堅の色をきちんと出すことに繋がっているのではないだろうか。
今回の作品を聴いてますます、そしてもっと、平井堅の歌を聴きたくなった。
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2012/05/30