日本のHIP HOPアーティストが置かれている状況に言及 ラッパー“SKY-HI”に求められていることとは

 AAAのメンバー・日高光啓としても活動するラッパーのSKY-HIが、約2年ぶり4作目となるアルバム『JAPRISON(ジャプリズン)』を12月12日にリリースした。さまざまなアーティストとコラボしてきたSKY-HIは、その卓越したスキルと音楽性によりHIP HOPシーンのみならずロックやサブカルシーンでも注目を集め、ジャンルを超えた活動で存在感を発揮している。AAAのメンバーとしての活動と平行しながら、今や日本のHIP HOPシーンにとって欠かせないアーティストの1人となった彼に、最新作に込めた想いやラッパーとしての自らの存在についても語ってもらった。

HIP HOPアーティストの国内外への影響力が弱いのは、すごく悔しく

 “JAPAN+PRISON”と“JAPanese Rap IS ON”という2つの意味を持つ、アルバムタイトル『JAPRISON』には、今の日本が持つ精神的な閉塞感と、その状況を打ち破るために前へ進む、強い気持ちが込められている。

SKY-HI 今、世界の音楽ビジネスの70%がラップミュージックって言われているなかで、アジアのHIP HOPシーンも凄いことなってきていて。韓国のアーティストの世界的な成功に続いて、次はインドネシアが来るとか、シンガポールが来るとか言われている。それなのに、日本だけが文化的鎖国が進んでいる。自分も含めて、HIP HOPアーティストの国内外への影響力が弱いっていうのは、すごく悔しく感じていて。だから、あえて、“Japanese Rap Is On”(=日本のラップはイケてる)ってタイトルで言っちゃおうって。

 “生きること”をテーマにした前作『OLIVE』など、これまで普遍的なメッセージを曲にしてきたSKY-HIだが、今回の『JAPRISON』では自らの内面を実に素直にさらけ出している。

SKY-HI 自分の棘の部分を出せたのは「New Verse」で存分に弱さが出せたから。今回、ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)が“元・天才”っていうクレジットで制作に参加してもらっていて。「Blue Monday」っていう曲ができたくらいの時に、電話で『日高氏(=SKY-HI)は今、感情を全面に出すことをが無いんじゃないですか?』って彼に言われて。確かに職業柄、エゴをずっと殺して、物事を潤滑に進めるっていうことを十何年やってきて、自分のエゴが出るのはステージの上くらい。そうやって自分の感情を押し殺すのは、大人としては当たり前だけど、それってクリエイションとは真逆の作業でもある。ぼくりりに「それって良くないですよ。口喧嘩しましょう」って、電話口で大げんかをして(笑)。その2日後くらいに「New Verse」ができたので、今回、ここまで自分をさらけ出せたのは、あの口喧嘩のお陰かな?って。

バラエティに富んだプロデューサー勢も作品に参加

 さらにサウンドの面でも、『JAPRISON』にはこれまでの作品とは異なる変化が現れている。

SKY-HI 一番大きく違うのは、前作の『OLIVE』までは現行のアメリカのHIP HOPを日本のものとして味付けしてリリースするっていう考え方をしていて、言い換えるとバランスを取る。だけど、『FREE TOKYO』のミックステープ(ミニアルバム)を無料配信でリリースした時に、一切何も考えないで、衝動的に音楽作って。今回もその延長ですね。例えば現行のアメリカで主流のトラップ、それ以降のサウンドの曲も増えてはいるけど、特にそういうものを入れようっていう意識はしないで、ナチュラルにそうなったものはそうするし、逆に寄せようとかもない。サウンド面では自分の内側から出たものに正直にやりました。

 これまでの作品と同様にSKY-HIは自らプロデューサーとしてトラックを作りながら、さらに亀田誠治、蔦谷好位置、UTA、SUNNY BOY、Matt Cabなど、実にバラエティに富んだプロデューサー勢も作品に迎え入れている。一方で韓国人のHIP HOPプロデューサーであるYosiや、ロサンゼルスを拠点に活動し、『グラミー賞』のノミネート歴もある日本人プロデューサー、starRoといった海外勢の参加も今回の大きなポイントだ。

SKY-HI Yosiは『FREE TOKYO』に参加したReddyのレコーディングの時に付いて来ていて。アメリカっぽいノリで、「俺のビートを聴いてくれよ」って、レコーディングが終わった後にスタジオでビートをいくつか聴かせてくれて。その後、帰国してからも、すぐに8曲くらいのデータを送ってくれて、そのなかに「これこれ!」ってなったトラックがあったので、「Doppelganger」で使わせてもらいました。「Role Playing Soldier」で参加してもらったstarRoは今回、唯一今までの人の繋がりのなかではないところで、プロデュースをお願いして。starRoが一番得意なのってBPMがおそらく120くらいだけど、今回はあえてBPM80くらいでお願いして。スタジオでノリノリになりながら、踊りながら一緒に作っていった。「Role Playing Soldier」を3曲目に入れたことでサウンド的にも今っぽさが出ましたね。

“前例の無い”形での成功を求められている気がする

 1人のラッパーとして最先端を走りながら、一方でAAAの一員としてしても活躍するSKY-HIだが、両立こそが彼を唯一無二の存在にもしている。

SKY-HI SKY-HIである自分って、多分、中学生の時からの延長のままだと思うんですよね。ドラムを始めて、バンドを組んで。RHYMESTERのビデオを初めて観た時に、「俺らもラップをやろうよ!」って。そういう時ってめちゃくちゃ純粋じゃないですか。本当に音楽のみっていうか。自分で“SKY-HI”って言う瞬間って限られていると思うんですけど、ライブの最初や最後に「SKY-HIです!」とか「SKY-HIでした。ありがとうございました」ってその名前を出した瞬間に、なんか中学生の時の自分に戻る。
だけど、SKY-HIとAAAの日高光啓を意識的にわけているんではなくて、今回のアルバムの「Persona」っていう曲でも言ってるけど、どれがどれっていうのでも無い。若いアーティストからしたら、自分はだいぶ先輩だし、大人かもしれないけど、1曲目の「What a Wonderful World!!」でピアノを弾いてもらっているセルジオ・メンデスからしたら子供だし。女から見たら男だし、男から見たら同性。どう見えるかっていう、仮面みたいなものはいっぱいあるから。それはAAAの自分もそうだけども。だけど、何が大事かっていうのは、どう見られるかっていうことではなく、結局は中身を磨くしかないかなと。

 とはいえ、AAAの日高光啓というペルソナを持った彼だからこそ、他のラッパーとは違った期待をファンや周囲の人たちがしてしまうのもまた、自然なことだろう。

SKY-HI 既存の価値観にのっとった成功の形をすることを、まず俺が望んでいない。だから、自分がしたいことという意味では、“前例の無い”形での成功でしょうね。実際にそれを求められている気がするし、自分でもどうしてもそれをやりたいと思っています。

(文/大前至 写真/小境勝巳)

「What a Wonderful World!!」ミュージックビデオ

SKY-HI オフィシャルサイト(外部サイト)

提供元: コンフィデンス

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