新世代キュレーター・Licaxxxのプレイリストに見る 今どきの音楽の伝え方

 モデルさながらのルックスに骨太なDJスタイルで、クラブシーンの“イットガール”として多くの支持を集めるマルチアーティスト・Licaxxx。近年はアンダーグラウンドなシーンだけでなく、ファッション誌「SPUR」の連載や、J-WAVE(81.3FM)『SONAR MUSIC』といったメジャー媒体でも自身のセレクトした楽曲を発信する活動を展開している。そのLicaxxxに昨年日本でも大ヒットしたエド・シーラン「Shape Of You」をきっかけに、もっと広く音楽を楽しみたくなった人に提案するプレイリストの作成し、エッジィなサウンドへの敬愛を貫きつつ、音楽の豊かな世界への扉を開く20曲をセレクトしてもらった。このプレイリストを入り口に、音楽を伝え、届けていく“キュレーター”としての活動への想いを聞いた。

「よくわかんないけどなんかカッコイイ」で良い

──洋楽/邦楽とりまぜた20曲のプレイリスト、まずはどんな発想で選曲されたのか教えていただけますか?
Licaxxx 『Shape of You』を入り口に洋楽を聴き始めた人に今、私が紹介すべきなのはどんな楽曲やアーティストなのか? ということから考えたんですが、まずメジャーな媒体でお仕事させてもらって感じているのは、2〜3年前に比べて音楽を取り巻く状況が良くなっているなということなんですね。たぶん一時期、洋楽も邦楽も身体的にわかりやすいものしか売れてなかったのは、「みんなが聴いているモノがいい」という風潮がちょっと蔓延してたからだと思うんです。その揺り戻しで、「俺、こんなの聴いてるんだぜ」みたいな人も、特に背伸びしたい若い世代には私が高校生のときと同じくらいには増えてきてるんじゃないかなと感じていて。

──音楽業界としては長らく“若者の洋楽離れ”が懸念されてきましたが、久しぶりに洋楽ヒットが出たのもその象徴かもしれないですね。
Licaxxx そうですね。で、その背伸びしたい心理にスッと入り込んで音楽を紹介するという(笑)。それってすごく大事だと思うんですよ。特に今は周りのみんなが聴いてる音楽とは違うものを求めてるんだけど、情報が溢れすぎているだけに、どこへ行けばいいかわからなくて迷っている子がたくさんいるはずなので。そういう意味ではサカナクションの山口一郎さんは、エッジの効いたサウンドを紹介している先駆者ですよね。それもご本人が最もメジャーな場所にいるからできることで、私はそこからアンダーグラウンドシーンに入ってきた方たちを、さらに深みに連れていくような活動をしていきたいと考えているんです。

──そうした視点から、今回セレクトしたアーティスト、楽曲について教えて下さい。
Licaxxx まず、邦楽についてはすでにフェスに出ているアーティストばかりなので、早耳の人はもう知っている。だけど逆に言うと、自分からディグりに行かないとなかなか辿り着けないかも? という顔ぶれです。洋楽については私の主な活動フィールドがクラブなので、ハウス・テクノ系ではあるけど生音っぽいものを多めにしました。ハウスやテクノって歌ものしか聴かない人には「何が楽しいんだ?」って理解できないと思うんですよ。だけど逆に流行りの歌ものにはもう飽きてて、もっと新しい音楽体験をしたいと思ってる人には新しい扉を開くきっかけになるはずで、そういう意味でも入り口としてわりと聴きやすい楽曲をセレクトしました。「よくわかんないけどなんかカッコイイ」で良いと思うんです。私も聴き始めはそうだったし、「この音楽聴いてる私、おしゃれ!」でもぜんぜんいいと思う。音楽って気分を作ってくれるものでもありますから。そこからもっと深く聴くようになったり、クラブに来る子が増えたりしたらうれしいですね。

アンダーグラウンドにもお金を回していく必要がある

──正直、いわゆるビッグセールスにはならないような楽曲が多いとは思いますが──。
Licaxxx もちろんこういうアーティストが、ばんばんメジャーなテレビの音楽番組に出たりすることはないと思います。だけどアンダーグラウンドにもお金を回していく必要はあるし、その底上げをする活動は続けていかなければいけない。それにやっぱりメジャーからアンダーグラウンドまで各層に厚みがあったほうが、音楽シーンそのものが豊かになると思うんです。それこそ90年代頃、ゆらゆら帝国やNUMBER GIRLなど、今聴いてもだいぶニッチなことをやってたバンドがメジャーシーンの中心だった時代がありましたよね。それがメジャーとして定着したのは、さっき言ったような「背伸びして音楽を聴く」世代にちゃんと届いたからだと思うんです。私の活動で言えばクラブに来てくれる子は最高だし、その子たちにいい音楽を届けるのは当然のこと。だけどせっかくメジャー媒体に出させてもらったり、Instagramやファッションとか、音楽とは関係のないところで私に興味を持ってくれている子もいるので、その層にいかにアプローチするかをより意識するようになってますね。

──Licaxxxさんは文学にも造詣が深く、その豊かな言語感覚はラジオのトークや雑誌の連載での音楽紹介にも生かされているなと思います。
Licaxxx 私はよくサウンドを色や手触り、擬態語で伝えたり、「海辺のレストランでご飯を食べてるときに、この曲が流れてきたら最高ですよ」みたいにシチュエーション込みで提案することが多いですね。ジャンルや専門用語を並べたレビューもよくありますけど、あんまり意味がないと思ってるんです。ジャンル分けにこだわったり、ローファイ感が云々とか言ってみたり、波形がどうのこうのとか、それではマニアにしか届かないなって。それよりも私のような立ち位置の人間としては、誰にでもわかる言葉で紹介することがとても大切だと思ってるんです。

キュレーターとしての活動をしていくのも自分の役割

──ご自身もDJやサウンドメーカーとしての顔がありつつ、楽曲やアーティストを紹介する活動に熱心なのはなぜですか?
Licaxxx 私は今27歳なんですけど、よくも悪くも日本には“若い女の子”を消費する文化があると思うんです。そこを逆手に取ってじゃないけど、あと3〜4年はシーンの広告塔的にどんどん前に出て目立っていく、いわばキュレーターとしての活動をしていくのが自分の役割だと考えているんですね。音楽を作る側の人はそこを突き詰めるべきであって、私の役割はまだその音楽の楽しみ方に辿り着いてない方に向けて翻訳していくことだと思っています。わりとアンダーグラウンドには、前に出るのが苦手な人が多かったりしますし(笑)。でも私自身は紹介する音楽は絶対にブレない自信があるので、けっこう割り切れるというか「なんでも活用します!」という気持ちでいますね。

Licaxxxのプレイリスト

プロフィール

Licaxxx(リカックス)
Profile/91年生まれ、慶応義塾大学総合政策学 部卒。DJ を軸に、ビートメーカー・エディター・ライター・ラジオパーソナリティーなど音楽にまつわるさまざまな活動を行う新世代のマルチアーティスト。 J-WAVE(81.3FM)『SONAR MUSIC』ミュージックレシーバー、BS スカパー『BAZOOKA!!!』レギュラー出演中。

提供元: コンフィデンス

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