“音楽の表現”を捉えた自己発信型の現代的アーティスト・向井太一
音楽以外の表現方法で広げられるんじゃないかなと思っている
ファッション雑誌のウエブサイトでのコラム執筆やモデルとしても活躍する彼は、曲のみならず、ファッション、ビジュアル、パッケージ、SNS、ライブパフォーマンスといった周辺要素も込みで“音楽の表現”を捉えている現代的アーティストだと言えるだろう。「いろんなことをやってるんですけど、全部、音楽活動の一環として考えていて。サウンド面では、今のJ-POPシーンにはないようなものをやっているので、広がる速度は遅いと思うし、手に取っていただくチャンスも他のジャンルと比べると少ないと思う。その間口をアートワークだったり、音楽以外の表現方法で広げられるんじゃないかなと思っていて。最終的にどの入口でもいいから、自分のコアの部分である音楽に行き着いてくれればいいなと思ってやってますね」
サウンドの根底にあるのは最新のトレンドであるオルタナティヴR&BやHIP HOP、レベルミュージックとしてのファンクやレゲエであるが、アルバムのジャケットやアーティスト写真とはなかなかリンクしない。「僕はずっと、アーティストとしてのビジュアルと音楽性や声にギャップがあるって言われてきて。それは、自分の中で強みだと思ってますね。僕がやってるのは、一般的には、敷居が高い音楽だと思うんです。言い方は悪いですけど、R&Bを歌ってる人はこういうビジュアルじゃなきゃいけないっていう偏見があって。確かに僕はブラックミュージックが好きで聴いてきたけど、決してゴリゴリではない(笑)。あくまでも見た目は等身大でリアルでいたいなと思うし、今までR&Bを聴いたことのない人に新しい出会いを提供して、音楽の間口を広げる人というか、ジャンルに対する偏見やボーダーを外す役割になれたらいいなと思っていて。だから、楽曲の世界観は人間臭くてエモーショナルなものを表現してるんですけど、ビジュアル面は無機質にしてる。ジャケットだけを見るとどんな音楽なのか、どんなジャンルなのかがわからない。そういうギャップを持たせるようなものを意識して作っていますね」
ラックミュージックをポップスに昇華したい
ジャンルや時代を縦横無尽にクロスオーバーさせ、ライブハウスやクラブとお茶の間をつなぐ本作に、彼は“青い炎”を意味する『BLUE』というタイトルをつけている。「悩みや葛藤、コンプレックスや嫉妬から反発する力――いわゆるネガティブからポジティブに変わる力というのと、アーティストとしての意思表明も込めていて。青い炎は一見、静かで動きも少なけど、派手な赤い炎よりも熱くて、ちょっとの力や風では消えない。今ってジャンルもアーティストの消化もすごく速いと思っていて。新しいプラットフォームができることによって、いろんなアーティストやジャンルを聴く機会が増えたっていうプラスの意味がある反面、残っていくことはすごく難しいんですよね。その中で、僕はしっかりと芯のあるアーティストになりたいっていう意思表明を、1stアルバムというひとつの区切りに提示したいなと思ってこのタイトルにしましたし、時代性を感じさせつつも、消化されずに残っていく、新しいクラシックになればいいなって思ってますね」
(文:永堀アツオ)