インディーズレーベル「カクバリズム」、個性派アーティストを輩出し続けることができる理由

 YOUR SONG IS GOODを筆頭に、SAKEROCK、cero、スカートなど、彩り豊かなアーティストを次々と輩出してきたインディーズレーベル/マネージメント会社・カクバリズムが、2002年の設立から今年で15周年を迎えた。個性豊かなアーティスト、作品の数々はどのようにして誕生し、また、独自のブランド力はどういった要素から成り立っているのか? 主宰の角張渉氏に聞いた。

「お客さん目線」を持ってライブ会場にはなるべく足を運ぶ

――今年カクバリズムは15周年を迎えました。02年にリリースされた最初の音源はYOUR SONG IS GOOD(以下、ユアソン)の7インチシングルでしたが、当時はどんなレーベルを目指していたのですか?
角張 7インチのレコードを出し続けられるレーベルをやりたかったんですよね。02年頃はレコード屋がまだ元気だったし、私も下北沢のディスクユニオンでバイトをしていて、単純にアナログのカッコ良さにずっとやられていたので。元々はパンク、ハードコアが好きで、パンク専門誌の『DOLL』なども読んでいたのですが、80〜90年代のパンク系のレーベルは「D.I.Y. じゃないとダサい」、「ポーザー(外見を飾って中身のないバンド)はダメだ、自分自身でやりたいことをやるべきだ」みたいな勝手な解釈が僕の中にあって(笑)。その影響が多大にありましたね。

――ユアソンもパンクシーンから出てきたバンドですが、カリプソ、スカ等の要素を取り入れた音楽性を含め、オシャレなイメージもありました。
角張 そうですね。ディスクユニオンの店内で音源をかけていると、ヒップホップやソウルが好きなお客さんが興味を持つことが多かったので、パンク以外のコーナーにも置かせてもらって。そのうち、マンハッタン、DANCE MUSIC RECORD などのレコード店からも問い合わせがあったり、MUROさんや小西康陽さんが紹介してくれたりしたことで、かなり売れたんです。聴いてくれる客層のジャンルが広がったなって流れで、04年に渋谷クラブクアトロでワンマンライブを行ったのですが、その時に洒落た女性のお客さんもかなり来てくれるようになったんですよね。

――“現場”にいたことで、ユアソンの客層を正確につかめたのかもしれませんね。そして、角張さんは今もライブ会場によくいらっしゃいますよね。
角張 楽屋やステージの横よりも、フロアにいることが多いですね。外音の具合も気になるし、真ん中で盛り上がっている人、端のほうで腕を組んでいる人の両方の気分をなんとなく共有したい。ライブ中にロビーにいるお客さんを観ると「どうしてかな?」って思うし、そういう人の様子を見たり、話しかけたりすることもあります。いつもお客さんの目線を持つようにして、できるだけウロウロしています。物販やスタッフ間で何か問題が起きても、すぐに話が聞けますから。あと単純に自分自身フロアのほうが楽しいからですね。
――ユアソンがブレイクした後も、SAKEROCK、ceroなどが話題を集めました。個性とポピュラリティを備えたバンドを発掘する秘訣は?
角張 SAKEROCKはユアソンとはまったく違ったタイプのインストバンドだったし、ceroは聴かせてもらったデモ音源の出来がすごく良かったんですが、どちらも「ほかのレーベルから出されたら悔しい」と思ったんです。あとはレーベルとして「こういう提案ができる」と思い浮かんだこともポイントでした。こちらから「こういうのはどう?」と提案できる余白があるというか。そうやって切磋琢磨できる関係を築きながら、自分たちが興奮できる音楽を作ることが大事だと思うんですよね。やっぱり、好きだからやってますしね。

――「好きかどうか」とは別に、「ヒットするかどうか」を基準にするケースもあると思いますが。
角張 株式会社である以上、売上を最優先に考えるのが当たり前ですが、音楽業界の場合はそうじゃない会社のほうが面白いと思うんです。当社は、「昨年よりも売上が落ちたとしても、良い作品を作れたら良い」という体でやっているんですよ。もちろん数字は大切ですし、アーティストにも「1枚でも多く売ろう」と言っていますが、それよりも作品の質のほうを優先してますね。良い作品を出し続けていけば3年、4年先も大丈夫だと思うんです。売上を考えたら、もっとCDリリースのペースを上げたほうが良いのかもしれませんがユアソン、キセルは3年に一度くらいのリリースになっていますから。

すぐに結果を求めるのではなく、3〜4年後を見据えた作品作りを

――スローペースでも、納得できる作品を出したほうが良い、と。アーティストと綿密なコミュニケーションを取り、作品の質をキープできるスタッフの育成も不可欠ですね。
角張 そうですね。ほかのレーベルを見ていても、良いアルバムを出して、売れているアーティストには優秀なディレクターが付いていますから。これは批判ではないですが、最近は音楽を語れない、知らないディレクターが増えていると思うんです。そうなると、アーティストが要求することに対応するしかないので、新しいアイデアが出てこなくなるんですよね。あとは3年、4年後を見据えた作品が作れるかどうかも大事。すぐに結果を求めるのではなく、育成することも大事ですからね。とはいえ、アナログ盤が瞬時に売り切れたりすると「最高だね!」って思ったりもするんですけど(笑)。
――作品性を優先する姿勢はリスナーからの信頼感にも繋がっていると思います。現在はカクバリズムの魅力が認知され、レーベル自体がブランドになっている印象もあります。
角張 そう言ってもらえるのはありがたいですが、今はレーベル自体の価値をそこまで求められていない気もしていて。私の世代は「レーベル買い」もしていたし、バンド側も「あのレーベルから出したい」という気持ちを持っていたと思いますが、今は違いますからね。カクバリズムを知ってもらうきっかけもいろいろあって、「ceroのアルバムを出しているレーベル」と思っている人もいれば、「SAKEROCKがリリースしていたレーベル」、「スカートのマネージメントをやっている会社」と思っている人もいる。私もカクバリズムをブランドにしようとか、レーベル買いをしてほしいとは考えていなくて、リスナーが「自分が好きなアーティストのアルバムはカクバリズムから出ていることが多い」と気付いてくれるのが理想なんです。ただ、それも難しいでしょうね。Spotifyなどのサブスクリプションが整備されていることを含めて、リスナーがレーベルを意識することは今後さらに減っていくはずなので。

――カクバリズムは、2000年以降に最も成功したインディーレーベルの1つですが、課題を挙げるとしたら?
角張 「アナログ盤出したいね」、「いいね」という感じのスピード感は私たちの強みですが、動ける人数が限られているぶん、宣伝力、営業力には課題があると思います。ユアソン、星野源くんの時にメジャーレーベルの方々と一緒に仕事をさせてもらって、今はスカートがポニーキャニオンに在籍していますが、宣伝、営業のスタッフが一斉に動く時のパワー、そのリアクションはすごいですから。例えばですが、ceroが以前『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)に出演した時は翌日のCDの注文が急激に増えましたし、iTunesのチャートも急上昇しましたが、当社には翌日にテレビ局やラジオ局などの媒体に行って「番組観てくれましたか?」と売り込みをかけるスタッフがいないんですよ。せいぜい私がSNSで「ヤバいことになってます」って告知するくらいというか(笑)、オファーを待つだけで攻めの営業ができない。窓口が狭いというか。そういう意味では広がるチャンスを逃している部分もあるんだろうなと思います。また音楽から離れてしまった40代くらいのリスナーの掘り起こしも必要ですが、そこまで手が回らないのが現実。風通しの良いレーベル、マネージメントを維持しながら、自分たちが興奮できるような音源をリリースして、メジャーに負けないような販売、宣伝をするのが理想ですが、課題はたくさんありますね。

――最後に、15周年の後の展望について教えてください。
角張 今の音楽業界は「どう売るか」、「どう見せるか」が先になっていて、「どういう音源を作るか」という部分が少し後ろに下がっている印象もあって。私たちは純粋に良いと思う音楽を作っていきたいし、その基準をもっと高くしたいと思っています。まずは自分たちが心から良いと感じる音源を作り、その後で「どう売るか?」を考えるのが正しい順序なので。15年続けてきて、そろそろ中堅のレーベルになってきていますが、ここで守りに入ったら終わり。さらに気合いを入れて、どんどん攻めていきたいですね。

文/森朋之、写真/西岡義弘
角張 渉(かくばり わたる)
 1978年、宮城・仙台生まれ。2002年3月に、レーベル・マネージメント会社・カクバリズムを設立し、第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7インチアナログシングル「Big Stomach,Big Mouth」をリリースする。以降、SAKEROCKやキセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、VIDEOTAPE MUSIC、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなど、エッジの利いたアーティストを続々と輩出。現在は、「衣食住音」をキャッチコピーに、多角的な展開を見せている。15周年を迎えた今年は、全国5ヶ所7公演の記念ツアー『カクバリズム 15 years Anniversary Special』を開催した。
(『コンフィデンス』 17年12月18日号掲載)

提供元: コンフィデンス

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