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18億の被害、“投機対象”としての高級ブランド時計に憂い…バイヤーに聞く“資産価値”とのバランスをどう見るか?

  • 取材中にも問い合わせがあった「ロレックス GMTマスター2」(¥3,410,000)※参考定価は¥1,569,700

    取材中にも問い合わせがあった「ロレックス GMTマスター2」(¥3,410,000)※参考定価は¥1,569,700

 高級腕時計のシェアリングサービス「トケマッチ」の詐欺被害、元代表が業務上横領の疑いで指名手配され、逮捕状の出る事件となったことが話題に。その被害額はなんと18億円にものぼるといわれている。こうした詐欺、さらには強盗のリスクも高まっている昨今、憧れの高級時計を購入したはよいが、身につけづらい事態にも。さらには傷が付けば資産価値が低下する恐れもある。そんな現在、我々は高級時計に対してどのように向き合えばいいのか。そもそもの高級時計の価値の原点に立ち返るべく、ブランド時計・ブランドバッグなどの買取、販売などを行うロデオドライブ銀座の太田店長に高級時計の現在地を語ってもらった。

コロナ禍をきっかけに高級時計に対する価値観に変化

ロデオドライブ銀座の太田店長

ロデオドライブ銀座の太田店長

 現在、「パテックフィリップ」「オーデマ・ピゲ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」「ロレックス」など多くのブランドが群雄割拠。機械式高級時計は嗜好性の高いロマンあふれる“作品”として多くのファンに愛され続けている。もちろん“資産”として保持する流れも元々あった。だが同社の太田店長によると、「加速度を増したのはコロナ禍以降。突如高級時計が“投機対象”として扱われる現象が世界中に広がった」という。

「コロナ禍以前までは高級時計をご購入される方々は身につけて格好いいと思うか、お気に入りの時計をつけていること自体が楽しいといった感想をいただくことがほとんどだったように思います。ですがコロナ禍となり、“資産価値”としての注目度が突如跳ね上がることに。来店される方も“次はどのモデルが値上がりするか”資産ベースの会話が多くなりました。相場が落ちたところで買いあさり、在庫がなくなることで値段が爆上がりする流れですね。これはトレーディングカードや家庭用ゲーム機の買いあさり、品薄、値段高騰などと似た現象です」(太田店長/以下同)

 ここ一年ほどでこの現象も落ち着いたというが、せどりや転売ヤーなどの暗躍が高級時計=“資産”という認識をこれまで高級時計に興味がなかった層にまでいたずらに広げてしまった。先日のシェアリング会社の事件も、この時期の動きから始まっていたのではないかと太田店長は分析する。

高級時計を正規では購入しづらい時代…それもブランド価値を維持する企業努力ゆえ

「パテックフィリップ カラトラバ」(¥4,158,000)

「パテックフィリップ カラトラバ」(¥4,158,000)

 先述の高級時計=投機対象の流れは、本当の時計好きの人々に好みの時計が行き渡らないという悪循環も生んだ。正規店では、一見さんでは購入できない狭き門に。特に世界三大時計の一つ「パテックフィリップ」は購入履歴がある既存顧客に向けてのみ販売を継続するなどの施策を行い、愛用者のためブランドとしての立ち位置を崩さない姿勢を貫いている。

 これは「ロレックス」というおそらく世界一知名度の高いブランドのある意味、悲劇を繰り返さないことでもあった。「ロレックス」は購入後に値段が上がりやすい。また高級時計に興味がなくとも名前を知っている人が多いことから、場合によっては転売を目的とした人の手にも渡っている現状がある。そこで各ブランドが転売対策に力を入れているが、「パテックフィリップ」は20年より「正規店での同一モデルの再購入不可」。22年より「購入から2年間は保証書を発行しない(※保証書を店舗が預かる)」売り方へと舵切り。その姿勢を見せるがゆえに「だから欲しい」と思わせる、高級腕時計の最高峰とも言われる状態が保たれている現状がある。

「ロレックス ヨットマスター42」(¥19,580,000)

「ロレックス ヨットマスター42」(¥19,580,000)

 「ただ『ロレックス』もスポーツモデル、プロフェッショナルモデルと呼ばれるものの中で言えば、エクスプローラーシリーズやヨットマスターも平均的な相場帯が変わらず安定しています。ですがサブマリーナーやデイトナ、GMTマスターは市場の流通に応じて相場の上がり下がりがどうしても出てくる。また廃盤の噂が出回るとやはり左右されやすく、その噂を含めて世界中を探し回っている方もおられ、日本に来たついでに即買いといった場合もあります」

 その「ロレックス」はメーカーが正規に鑑定を行う「認定中古制度」をスイス、ドイツ、オーストリア、フランス、デンマーク、イギリスの6か国のブッフェラ―で22年からスタートさせた。「認定中古品の相場は日本の中古相場よりも割高です。正規が行っている安心感や保証があるという利点。また認定中古という正規の“箔”が欲しい方もいらっしゃるのでその分、お金を出すのでしょう。日本においては今の顧客が納得する金額なのかどうかという話になりますので、手放すこと、購入することで得られるメリットや恩恵が確立していない限りは普及しづらい。ただいつ始まってもおかしくはないと思います」

「オーデマピゲ ロイヤルオーク ジャンボ エクストラシン」(¥32,780,000)

「オーデマピゲ ロイヤルオーク ジャンボ エクストラシン」(¥32,780,000)

 また高級時計といえばラグジュアリースポーツ、通称“ラグスポ”が安定して人気がある。「オーデマ・ピゲ」のロイヤルオークが、これまでその分野の存在を知らなかった層まで認知を広げた立役者だが、「即効性があるトレンドではなくなっている」と太田店長。「一つの立ち位置としてラグスポが確立されたことでトレンドは続いていますが、どこどこのメーカーがラグスポを出したという発表はあまりに繰り返されてきている。逆に『パテック』のようなメーカーが本当に新しいものを打ち出したりしない限りは、次の新たなトレンドの確立は難しいでしょう」と現状を語る。

“資産価値”だけを気にするなら「早めに売るべき」、問われる高級時計との向き合い方

「パテックフィリップ ノーチラス プチコンプリケーション」(¥15,950,000) ※参考定価¥7,730,000

「パテックフィリップ ノーチラス プチコンプリケーション」(¥15,950,000) ※参考定価¥7,730,000

 話は戻って16億円の未返却事件だ。コロナ禍で高級時計が投機対象、資産価値があることを爆発的に広げたことは先に述べたが、この背景を太田店長は次のように見る。

 「あの事件は“借りてでも使いたい”という層がいないと成立しない事業。そもそも高級時計は自分の好きなデザイン、精密なお気に入りのメカを“所有する”という自己満足から人気があるのであり、特に『パテック』などはそうで、知る人ぞ知る時計だった。ですがコロナ禍で活発化した投機目的による売買によって、例えば『パテック』はすごいという情報だけが拡散。ゆえにレンタルしてでも“つけている自分を見せたい”というニーズが高まったのではないでしょうか。

 基本的に、本当に高級時計が好きな人は自分がつけているという満足度が強く、それは人に見せるためではない。要は高くて手が出ないものをレンタルで使うことに価値を見出した人が増えたということではないかと個人的には思います。なお、ユーザーが貸し出していた時計と同じシリアルナンバーのモデルが、すでに市場に出回っている状況です。これらが二次流通の世界で転売されることは、絶対にあってはならないこと。系列店舗だけではなく他社とも連携しながら情報を共有し、対応を徹底しています」

 高級時計所有者側から見ると、「詐欺」「強盗」「傷がつく→資産価値の低下」など様々なリスクを気にしなければならなくなっているのではという疑問も湧く。「確かに実際に金庫に入れて保管されている方もいらっしゃる。ですが高級時計が好きな方は、そのデザインが好き、素材が好き、機械が好きという方が多く、その一番のお気に入りを所有していることが多い。お気に入りゆえに傷がついても手放さない。資産価値の低下を気にしている時点で手放すことを想定してしまっているわけで、もし気にされるのであれば、今は株より相場が上がる状況ではないので、今後、手放したくない時計を買うためにも早めに売ったほうがいいかもしれません」

ロデオドライブ銀座の太田店長

ロデオドライブ銀座の太田店長

 昨今、芸能人や有名人が高級時計をつけた投稿をSNSにアップし、そこに大量のアンチコメントがつくのも、この流れが関係しているという。「コロナ禍で高級時計に対する知識の入口が“資産価値”に急激に偏った印象があります。もともと高級時計は機械式で何百というパーツから出来ていて、それを作れる職人は一握り…だから価値がある。私ぐらいの時計好きだと、時を刻むアンクルというパーツが好きで、ずっと時計を眺め続けてしまう偏愛にまで至るので、やはり時計は“嗜好品”なんです。そこからではなく“高級”“資産”から見てしまうとヘイトが向かってしまうこともあるのかなと思っています」

 正規店での購入が難しくなっている反面、一部の高級時計は店頭で見たもののシリアル違いをECを使って買うこともできる。これが宝石ならば石は一つ一つ違うので店頭で見たとしてもそれと同じ色合いのものが届くとは限らない。だが高級時計はメカゆえに、新品であれば、店頭で見たものとまったく同じものがECから手に入る。二次流通であれば価格を比較しながら購入できるので非常に便利で、数千万の時計がEC経由で売れることも少なくないそうだ。アクセサリーとして有能で、素材から価値があり、歴史ある技術のパーツが何百も重なってできた高級時計。今一度、その価値を、原点に立ち返って見てみたい。投機などの“お金”に代えがたい、自分だけの“満足”がそこにあるのかもしれない。

(取材・文/衣輪晋一)

ロデオドライブ
https://www.rodeodrive.co.jp/(外部サイト)

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