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リスク覚悟? なぜオートバックスは“賛否両論”の「電動キックボード」販売に力をいれるのか?「普及とともに世間の目が変わるはず」

 今年7月1日に施行された改正道路交通法によって、電動キックボードの規制が緩和。特に大都市圏では、エコで手軽な移動手段として利用者を増やしている。このような“マイクロ(超小型)モビリティ”は未来都市の移動手段として、世界的に熱い注目を集めているが、一方日本では交通ルールを軽視したマナーの悪い運転がメディアで取り上げられ、世間から厳しい目が向けられているのも事実。そんななか、カー用品の総合専門店であるオートバックスが、8月より一部店舗で電動キックボードの販売を開始した。大企業にとって賛否が分かれる電動キックボードの取り扱いは、リスクを伴うものともいえそうだが、なぜ取り扱いを決めたのか? 同社に話を聞いた。

現在の電動キックボード流通台数は2万台程度だが、今後10〜30万台規模に拡大の可能性

 まず、7月1日に施行された改正道路交通法によって、電動キックボードのルールの何が変わったのかを説明しよう。これまで、電動キックボードは原動機付自転車(通称/原付バイク)と同じ扱いで、運転免許必要、ヘルメット着用、通行できるのは車道のみというルールが適用されていた(シェアリングサービスでは特例としてヘルメット着用は免除)。

 だが新しく施行された改正道路交通法では、最高速度20km/h以下に制御される電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」という新たな区分に分類。これまで同様、運転できるのは16歳以上、自賠責保険加入とナンバープレートの取り付けは必須だが、運転免許不要で、ヘルメット着用も努力義務と、規制が大幅に緩和。さらに、最高速度6km/h以下に制御可能なもの(切り替え可能なモデルも)は「特例特定小型原動機付自転車」と分類され、自転車などが走行できる歩道の通行も可能に。利用者にとっては、乗れるハードルが低くなったことで、より手軽で身近な存在となった。

能勢もともと電動キックボードは欧州から始まり、米国、そしてアジア圏へと広がりました。経済産業省の発表によると、日本では2021年時点で流通台数が2万台前後ですが、2019年前後から導入が始まった韓国では、国内全体で今、13万台ほど流通しています。人口比率で推定すると、日本は今後、少なくとも10万台、多ければ30万台ほどの可能性があると考えています。(オートバックスセブン SX事業推進部 企画・推進課 能勢尚樹氏)

取り扱うことへのリスクも、危険性をできる限り排除し「“出かける楽しさ”を伝えたい」

 法改正による需要の高まりを予測し、オートバックスは8月より関東近郊の2店舗で3メーカー4商品の販売を試験的に実施。そこには、同社が掲げる想いがあった。

能勢弊社では、2017年10月より、自転車・バイク・両者を掛け合わせたアシスト走行の1台で3台分の用途を果たすglafit(グラフィット)バイクを販売しました。当時より“マイクロモビリティ”に注目しており、今回、販売開始した電動キックボードもそのひとつです。“出かける楽しさ”を提案し続ける会社を目指す弊社にとって、近距離での移動を便利に、より楽しくできる電動キックボードを取り扱わない理由はありません。さらに16歳以上、免許不要という定義から、これまでオートバックスを利用していなかったお客様にも“出かける楽しさ”をお伝えできたらと考えました。

 その一方で、これまで信号無視や飲酒した後の運転、逆走などの違法行為や事故がさまざまなメディアで取り上げられ、電動キックボード=危険というように厳しい目が向けられているのも事実。今年8月にはフランス・パリの中心部で、利用者のマナーの悪さから、住民投票が行われ、市内のシェアリングサービスが廃止されたことも。エコで手軽という利点の反面、こうしたマイナスのイメージも根づいてしまった感もあり、電動キックボードを取り扱うにはリスクを伴うなか、オートバックスはなぜ販売に乗り出したのか。販売決定に至るまでには、社内でも懸念の声があがり、当然多くの議論を重ねたという。

能勢例えば、1.販売した商品に問題があり、お客様にご迷惑をおかけしないか。2.思わぬ挙動があり、お客様のケガにつながらないか。3.交通違反の助長につながらないかなどの声が上がりました。1.については、国土交通省の審査制度である『性能等確認制度』の認定を受けている車両のみ販売を行うことで品質を担保する。2.については販売店では必ず試乗コースを設置し、実際にスピード感や乗り心地を体感いただくことで、走行する際のリスクなど、良いところも悪いところも共にご理解いただく。3.については、まず試乗する際に電動キックボードの説明や法規に関する説明を行ったうえでチェックシートにサインをいただき、引き渡し時には安全講習の映像を販売店で確認していただくなど、交通マナーの啓蒙に努めるという対策を決め、実現に至りました。

なぜ試乗コースを設けたのか? 安全・安心へ真摯に向き合う姿勢で“悪評”を払拭

 先述の1.に関しては、現在オートバックスでは3メーカー4商品(約7万円〜20万円)を販売。能勢氏の言葉にもあるように、すべての商品は国のお墨付きを得た(国土交通省が定める「性能等確認試験」通過予定の)もので、修理などのアフターフォローも万全だと胸を張る。

能勢電動キックボードに関しては、ECサイトなどでも玉石混交のさまざまな商品が販売されています。検査基準をクリアしていない商品は安く買えますが、安全性が担保されていないものや、法で定めた規格に収まらないもの、不具合があったとしても対応してもらえないケースもあるようです。クルマと同じ公道を走るものですので、安全・安心は絶対条件。また『楽しさ』が生まれる土台には必ず安全・安心があります。なので弊社では、そこへの懸念はないような商品を取り扱っています。
 さらに2.への対策として、試乗コースを設け、購入前に試すことができるのは、他店舗にはないこだわりだという。

浮田ネット上でデータを調べても、実際、どのくらいの重さなのか、折り畳みタイプは扱いやすいかどうかなど、扱いや乗り心地は試してみなければわかりません。弊社では、試乗できる専用コースに段差や凹凸のある悪路も設けており、振動も乗り比べて実感していただいています。持ち運び時の重さや走行時の力強さなど、実際、自分が乗る環境に合わせて実感してもらい、『買ってみたけど使わない』とならないようサポートしています。実際ECサイトなどで購入される方も多いですが、商品紹介には良いことしか書いていないケースもあります。実際に商品を見て、試乗して、知識のあるスタッフがどういったところに注意すればいいのかアドバイスする。そういったところが、店舗で試乗できる強みだと思います。(A PIT オートバックス東雲 カーライフコンサルタント 浮田義之氏)

 3.への懸念に関しては、上記のような形で購入者に対してマナーの啓蒙に努めることで、「普及とともに世間の目は変わるはず」(能勢氏)と予想する。

能勢マイノリティなモビリティは、悪目立ちしやすいという面があります。特に電動キックボードは、初期の頃に使い始めた方々が、手軽に乗れることからルールを軽視したため、メディアなどに取り沙汰されたことが大きく、それがイメージの悪化につながったと思います。ただ先にも申し上げたとおり、今後、間違いなくマーケットは広がっていきます。販売店として、マナーを守る人を増やすことが大切なのはいわずもがなです。先に述べたようなことはもちろん、試乗会や講習会などを開催して啓蒙に努めていこうと考えています。マナー違反や交通違反は、自転車や原付でもなくなりませんが、大多数の方がルールを守って乗っていることで社会に受け入れられてきました。電動キックボードも安全に利用されるユーザーの母数が増えることで、自然な風景になっていくと思います。

需要は“都心部の若者”だけではない「買い物や通勤に使いたいと興味を示されるお客様も」

 今後オートバックスでは、メーカーに修理に出さなくても店舗で修理ができるような制度を設けたり、また、ナンバーの取得や自賠責保険の店舗での取り扱いも検討中。「よりお客様にとって便利になるような仕組みを考えていきたい」(能勢氏)と語る。

能勢マイクロモビリティが広まることは、移動手段に対する不安、不便の解消につながります。新制度の導入に伴い、電動キックボードの取り扱いを始めましたが、今後は1人乗りの超小型車、EVトライクなど、“出かける楽しさ”をより多くの方々に届けられるモビリティの取り扱いも順次検討していく方針です。

 実際に8月の取り扱い開始以降、当初の予想を覆す幅広い客層が電動キックボード目当てに来店しているという。

浮田当初は、購入を希望されるのは若い方がほとんどだと思っていました。ですが、ふたを開けてみると若い人だけでなく、地方にお住まいで自宅からコンビニまで歩くには少し距離がある、あるいは自宅から最寄り駅、駅から職場まで使いたいといった理由から、年齢性別問わず幅広いお客様が興味を示され、需要の高さを実感しました。

 交通渋滞や排気ガス、騒音を軽減し、坂道が多いなどの理由から職場や学校までの通勤・通学が大変な社会人や学生、さらに最寄りのコンビニやスーパーが遠く、家の車が出払っていると買い物に行けない地方での“買い物難民”など、都心から田舎まで、日本の課題解決にも役立つ可能性を持っているマイクロモビリティ。オートバックスの電動キックボード普及への挑戦が、スマートシティ構想を推し進める原動力の一つになるかもしれない。

取材・文/河上いつ子

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