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新垣隆、ゴーストライター騒動を振り返る「自分のスタンスが騒動を招いてしまった」

 ゴーストライター騒動から約2年、まさかのバラエティ番組やCMに出演するなど、様々な活動で話題を集めた音楽家の新垣隆が、アルバム『新生』を発売。騒動を振り返りながら、現在の心境やアルバムに込めた気持ちを聞いた。

佐村河内さんからひたすら逃げ回っている(苦笑)

  • 新垣隆

    新垣隆

――2年を振り返り、今のご心境は?
新垣隆 そのときは、一刻も早く止めないといけないと思っていましたので、それ以降のことはまったく考えていませんでした。それによって大きな騒動になり、本来の音楽活動とは違うベクトルで名前が広がってしまったわけですが……。しかし、クラシックの音楽家仲間や多くの方の助けがあり、こうしてアルバムを出せるにいたったことは、感謝の気持ちしかありません。

――いろいろな人と仕事をされていますが、佐村河内守さんと仕事するような機会があったら?
新垣隆 佐村河内さんですか? 私は、彼からはひたすら逃げ回っているところなので(苦笑)。

――この2年間、幅広く活動されていますが、最も変わった部分はどこですか?
新垣隆 ああいった形で広く顔が知られるようになりましたので。今のこういう仕事の形は、以前にはまったくなかったものでした。音楽の仕事の幅も、とても広がりました。一番の変化は、取り巻く環境でしょうね。以前は、CDショップでフラフラと物色したり視聴したりするのが趣味だったのですが、最近はできなくなってしまいました。

――騒動後は、バラエティ番組やCMなどのテレビ出演が増え、音楽家とはまた違った活動も話題を集めましたね。ネットでは、仕事を選んだ方がいいというコメントもあったりしましたが。
新垣隆 音楽仲間からも、賛否の意見がありました。面白がってくれる人もいれば、ナニをやっているんだ? とお叱りを受けることも。でも基本的には、みなさん応援してくださっていました。テレビ出演などのオファーは、あくまでも世間をお騒がせした自分に対してで、世間を騒がせた責任が自分にはありますので、オファーをむげに断ることはできませんでした。そもそも私は、仕事を選んだことはありませんので、そのスタンスが佐村河内さんとの騒動を招いてしまったとも言えるわけですが(苦笑)。とにかく1つひとつのオファーを真摯に受け止めて、全力を尽くすことが自分の責任ではないか、と。

――ある種の贖罪的な意味も?
新垣隆 ああいう形で世間を騒がせた人間ですから。そういう人間が、テレビに出て下さいと言われたときに、「自分は音楽家なので出ません」と言っていいものなのか? 私には、わかりませんでした。もちろん、テレビに出て下さいと言われることに対して「なんで?」という気持ちでした。「なんでこういう依頼が来てしまうんだろう?」と。でも、来た以上は、受けないわけにはいかない、と。騒動を起こしたことに対する後ろめたさが、いびつな形で表に出てしまったのかもしれません。1つ出てしまえば、あとはもう断る理由がありませんので。

憧れのアーティストと仕事ができて、ある意味で佐村河内さんのおかげ

――最近では、坂本冬美さんとのコラボや、アイドルグループ・青山 聖ハチャメチャハイスクールのプロデュースといった、他のアーティストと関わるお仕事も増えていますね。
新垣隆 以前ならあり得なかったことです。ある意味で、佐村河内さんのおかげとも言えるわけですが。これまでCMソングのアレンジなどを手掛けたことはありましたが、作曲やプロデュースというのは、ほとんどやったことがありませんでした。自分にとって初めての経験でしたので、本当に勉強になりました。特に坂本冬美さんは、細野晴臣さんと忌野清志郎さんと組んだHISというユニット活動でファンでしたので、その坂本さんと一緒にお仕事ができる、自分の作ったメロディを歌ってくださるということで、うれしかったです。

――クラシックや現代音楽の作曲家・ピアニストとしては、坂本龍一さんが第一人者ですが、坂本龍一さんのような活動に憧れることは?
新垣隆 はい。もちろんです。学生時代には、『ザ・ベストテン』や『歌のトップテン』などの音楽番組を毎週ワクワクしながら観ていて、そういうなかで坂本龍一さんが所属していたYellow Magic Orchestraには、とても影響を受けました。私は小学生の頃からピアノを習っていましたので、坂本龍一さんは尊敬しています。あらゆるジャンルを手掛けるスタンスにも憧れがあります。特に『音楽図鑑』というアルバムが大好きで、あれは最高傑作だと思います。

――YMOや坂本龍一さんもかつては、お笑いとコラボしたり、ときにはバラエティ番組に出演したりと、多彩な活動を行っていました。そういう部分も、テレビ出演するときに背中を押したのでは?
新垣隆 確かにそういうのがカッコイイと思って憧れてはいましたが、影響とは違います。私自身は、けっしてそういうことを人前でやるタイプではないので。

「うさんくさい」と思われるのは、仕方のないこと

――アルバムは『新生』というタイトルですが、新垣さんご自身が新しく生まれ変わったという意味合いでしょうか?
新垣隆 騒動以降、音楽の仕事の質は変わらずとも、私を取り巻く環境はだいぶ変わりました。それは多くの方との関わりがあったということです。たとえば昨年は、30ヶ所くらいでコンサートを開いたのですが、その都度たくさんの方が来てくださいました。そういったことは、騒動以前にはなかったことです。私がテレビに出て、私の音楽というものに興味を持ってくださった方が増え、そしてコンサートに足を運んで音楽を聴いてくださって……。私の音楽を多くの方と共有してもらい、そうして生まれたのがこの作品です。

――テレビなどでの新しい経験、それを経てお客さんとコンサート空間を共有した経験などによって、新しく生まれた音楽であると。
新垣隆 はい。その第一歩がこの作品です。

――こうしたクラシック音楽、坂本冬美さんやメチャハイとのコラボなど、どれも新垣隆さんというひとりの人間が関わる上で、根底に一貫したものがあるのでしょうね。
新垣隆 根底にある一貫したものは、音楽家として自分自身の表現をするということです。ただそれは、自分ひとりで表現することは叶わないので、様々な人を介して行うわけですが、それが坂本さんやメチャハイ、クラシックの音楽家だったということ。結果として聴こえてくる音楽は、コラボする相手の表現の形にはなっていますが、自分では1つだと思っています。みなさん、私のことを見て「なんだこいつ?」「うさんくさい」などと、思われているでしょう。それは仕方のないことですが、私は音楽家ですのでCDを出したり、コンサートを開いたりというのは日常なわけで。決して突然おかしなことを始めたわけではありません。様々なアウトプットをフックにして、私自身の音楽というものにも目を向けていただけたらうれしいです。

――クラシックや現代音楽というと、敷居が高いイメージもあります。この作品の聴きどころなど教えてください。
新垣隆 シンセサイザーやエレキギターなどの音楽が多くある中で、このアルバムはピアノやオーケストラの生楽器のみによって演奏されています。また、ポップスは通常1曲が3〜4分ですが、クラシックは1曲が10分くらいと、少々長いのが特徴です。なのでこの作品を聴くには、もしかすると「さて、聴かなきゃ!」というある種の心構えのようなものも必要かもしれません。それはきっと、長編小説を読むようなものに近いと思っています。村上春樹さんや又吉直樹さんの「火花」を読むような感覚で、聴いていただけたらうれしいです。

――映画や小説のような物語が、この音楽にはあると。
新垣隆 具体的なストーリーがあるわけではありませんが、音によるドラマやストーリーがあります。最初から聴いていくと、曲中ではいろいろ音楽的な事件が巻き起こりますので、それを追っていって、その物語が完結するまで聴いてほしいです。

――第三楽章では、最初は不穏な空気になり最後は清々しい雰囲気になる。それは、新垣隆さんご自身の経験が投影されているかのように思いましたが。
新垣隆 そのように聴いてもらえてもうれしいです。解釈は自由でいいと思います。第三楽章は、私のピアノが遠慮なく暴れ回っておりますので、そこも聴きどころでしょう。ぜひ聴いてください。

(文:榑林史章)
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