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“高齢化”進むアイドルシーンで異彩 “成長期限定”にこだわる“さくら学院”
アイドルグループとしての成功以上に、“実践”でのタレント育成を重視
AKB48グループの昨年の選抜総選挙TOP3の指原莉乃(23歳)、柏木由紀(24歳)、渡辺麻友(21歳)はいずれも20代。同じく昨年で結成10周年を迎えた℃-uteも全員20代。アイドルとしての活動期間が10年に至るほど長くなり、今や20代が中心のグループは多い。こうした背景には、今年結成19年のモーニング娘。以来、メンバーの卒業と加入を繰り返しつつグループ自体は続いていくシステムが一般的になったことがある。20歳過ぎのメンバーが残っても、一方でフレッシュな若手が入れば、全体でアイドルグループとしてのバランスは保たれ、人気メンバーを年齢だけで区切って卒業させる必要もない。モーニング娘。の先代リーダー・道重さゆみは11年10ヶ月に渡り在籍し、25歳で卒業した。
そんななかで、“成長期限定ユニット”として中学卒業と同時にグループ卒業となる、さくら学院は異彩を放つ。結成は2010年4月で、サザンオールスターズ、福山雅治、上野樹里ら多くの人気アーティストやタレントを擁する大手プロダクション・アミューズのキッズ部署の小・中学生8人が、初期メンバーに選ばれた。アイドルグループとしての成功以上に、実践でのタレント育成を図ったもので、“学校生活とクラブ活動”がテーマに。メンバーは“生徒”、リーダーは“生徒会長”、ファンは“父兄”と呼ばれ、毎年3月の“卒業式”イベントで中3メンバーはグループを離れる。そして5月に“転入式”があり、新メンバーを“転入生”として迎える。
メンバーが入れ替わりながらグループが続くのはAKB48などと同じだが、学校式サイクルで小5から加入しても最長5年のアイドル活動となる。立ち上げに携わったスタッフは「期間を区切ったなかでアイドルをやり切ってほしい。そこで自分がやりたいことを見つけてほしい」と話している。活動期間が決められているからこそ、常に全力投球するメンバーたちの姿は清々しい。ファンにとっても1回のライブが貴重で、身長が伸びていたりと成長を見守る楽しいさがある。さくら学院という“学校”そのものに惹かれ、推しメン卒業後も応援し続けるファンも増えた。
BABYMETALや三吉彩花を輩出、過去に捉われない多方面で活躍する人材育成に成功
また、さくら学院の大きな特徴に、今のアイドルには付きものである握手会など“接触”イベントを行わないとこが挙げられる。生徒と父兄に握手会は不要……との理屈だが、CDなどの売り上げを考えればやった方が断然いい。それでもメンバーがまだ小・中学生で、過分な負担を掛けないよう配慮されている。そのうえで、さくら学院の部活動として結成されたBABYMETALはアイドルとへヴィメタルの融合が世界的に注目され、レディー・ガガのアメリカ公演のオープニングアクトも務めた。結果的に握手会なしで、日本のアイドルの枠を飛び越えた存在になっている。事務所としては先行投資の意味合いが強いさくら学院だが、アイドルとして10代で終わるより、末永く活躍できるタレントが何人かでも出たほうが、長期的にはビジネスとしてもメリットは大きい。大手事務所ならではのスタンスではあるが。
アイドルがアイドル卒業後に失速するのは、前述のイメージの問題の他にスキル不足もある。成長を応援するのが日本のアイドル文化で、完璧でなくても良しとされる。だが、時に大人の事情でアイドルとして引っ張り、挙げ句に替えができて未熟なまま20代で芸能界の荒波に出されても、生きていくのは厳しい。
さくら学院は中3までにアイドルとしてスキルを磨き、それを土台に、あとは個々で生きる覚悟を促される。卒業後の展開は自由で、看護師を目指して卒業と同時に芸能界を引退したメンバーもいる。それはそれでアイドル活動から模索した結果。三吉や松井、BABYMETALを輩出したことはもちろん大きいが、さくら学院はエンタテインメントとして成長を見せるうえでも、小・中学生タレントの学びの場としても、“健全”なアイドルグループと言えるのかもしれない。
(文:斉藤貴志)