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“優等生だった”清水翔太の葛藤と日本語に拘る理由とは

“優等生”を装っていた時期も、その武装感が当時は歌詞にも出ていた

――1枚目の『Unbrella』から“ぶれない”世界観を確立している印象がありましたが、裏ではそんな葛藤があったんですね。
清水 音楽性に関しては16、17歳にしては才能のあるコでしたからね。って自分で言っちゃってますけど(笑)、それよりも僕はインタビューが当時から上手かったと思うんですよ。若いのに上手くなかったですか?

――上手かったです(笑)。コメントがちゃんと“出来上がって”いて、すごくインタビューしやすかった。
清水 今考えると、100点のインビューをするコでした。でも100点以上はいかない。今は100点以上いけるけど、50点のときもあるっていう。だから当時のインタビューはすごく疲れました、完璧にロードマップを描いてしゃべっているから、上手に答えていたけど、僕自身は1本やるたびにヘトヘト(笑)。

――インタビューする側も、そのロードマップを崩してみたかったりするんですけど、清水さんはなかなか崩せなかった(笑)。
清水 今なんかいくらでも崩せますけどね(笑)。

――当時は100点を出すことも“清水翔太”を確立するための、ひとつの武装だったんですかね?
清水 そうですね。その武装感が当時は歌詞にも出ていて、優等生っぽかったかもしれない。こんないいヤツいるかよって(笑)。

――でもリスナーはそこにグッと掴まれましたから。
清水 まあまあ、そうなんですけど、ただ、そのせいで3枚目の『COLORS』あたりは、すごく悩みました。俺、こんな優等生じゃない、むしろ逆だなって。でも、根はいいヤツだからややこしいっていう(笑)。

――ははは(笑)。
清水 当時はその“いいヤツ”の一番キレイなとこだけを、音楽以外での場面でも外に出していたので、けっこう苦しんだんです。こういう取材でお会いする方もそうだし、身内のスタッフに対しても常に優等生で疲れました。マネージャーは僕に何を言っても「はい、頑張ります!」って言ってやるから楽だったと思うけど。でもだんだんと、違うものは違うって言ったほうがいいし、そうじゃないとアーティストである意味がないって思い始めたんですよ。あえて牙を剥く必要はないけど、どこに対しても自分が一匹狼で戦うぐらいの気持ちでいないとこだわりって部分では戦えないなと。

――でも周りからしたら、優等生からスタートしているので、いきなり変わると驚きません?
清水 いや、スタッフに言わせると、むしろオープンになったっていうニュアンスがあったみたい。最初の頃は会議で「(翔太の)本性は絶対、あんな優等生じゃないはずだ」って話していたらしいから(笑)。

歌心がないと絶対できないことが……スナックで歌の練習!

――そう言われると、インタビューも清水さんはどこかの地点から変わった印象はあるかも。前なら言わなかったぶっちゃけ発言もしてくれるようになったり。
清水 あきらかに変わったんです。僕からしたら、ガードを取っただけなんだけど、それも自分なわけで、別にそれを出してもいいんじゃないのって感じになった。だってどれだけ破天荒だろうが、ステージに立ってピアノの前に座ってガッと歌ったら死ぬほどカッコいい、アーティストってそれでいいじゃないですか。だからといって僕はいきなり破天荒になるつもりもないし、なれないですけど。まぁ素のままでいければと。

――そこは“いいヤツ”ですから(笑)。一方、シンガーとしては『MELODY』というカバーアルバムがひとつの転機になった気がするのですが。清水さん自身はどう感じています?
清水 僕自身というより、周りのほうが“清水翔太”の印象が変わるきっかけになりました。いろんな方が「あなたの歌は本当に素晴らしい」って言ってくださったりもして。

――「366日」をはじめ、いわゆるJ-POPの代表的な曲ばかりをセレクトしているのも新鮮でした。
清水 R&Bの表現って、実はどこでもできるんですよ。どんなにキャッチーなトラックだろうが、その瞬間でブラックを感じさせることはできる。でも、本当の“歌心”は、今の自分がやっている音楽性や今の音楽シーンで出すのは、難しいんですね。だからこそ、そこを表現することが、『MELODY』での目的のひとつで。選曲も歌心が出せるものを基準にしたし、その力があるってことを僕なりに証明できたかなと。

――清水さんの昔のインタビューで、音楽プレイヤーには黒人のゴリゴリのR&Bナンバーも美空ひばりさんの曲も入っていて、どっちもソウルだってコメントが印象的だったんですけど。それもジャンル問わず、歌心を重要視しているスタンスに通じている?
清水 そうですね。そこが清水翔太の個性だと思っています。僕、スナックとかもよく行くんですよ。

――意外すぎる組み合わせ(笑)。
清水 地元のおばあちゃんやおじいちゃんを相手にロックするのが好きなんです。石原裕次郎さんや美空ひばりさんを歌って、おばあちゃんから「あんた、若いのにすごいね、歌手になれるよ」って褒められて、「がんばります!」って返す。そういうのが好きなんですよ(笑)。それこそ歌心がないと絶対できないことだから。自分より何倍も長く生きている人生の先輩たちを歌で感動させるって、一種の修行の場でもあって。だからジャンルを問わず、本当に歌の心を表現できる曲が好きで、和の情緒、日本語の情緒を理解したい。その上でR&BやHIP HOPも大好きだから、それを併せたところに自分にしかできないものがあるんじゃないかなと。それが“清水翔太”のすべてなんです。そのためには、できるかぎり英語を使わず、日本語で表現していきたい。そしてR&Bをポップフィールドで表現していくってことが、この7年のすべてです。

――それは今後も極めていきたい?
清水 どうだろう?

――えー。
清水 “俺は戦ってきた”とか、散々話したあとで言っちゃうのも何ですが(笑)、今回のベストでひと区切りという気がしていて。次はまたちょっと違う感じで、R&Bにぐっと寄ってみたりとか、別のアプローチも考えてみようかなと。ここまでやってきて、ある程度、芯ができた今だからこそ、逆にそれもありかなって思っているんです。だからといっていきなり、タンクトップで全身タトゥーとかないですよ、そもそも似合わないし(笑)。ただ、もうちょっとカッコいい路線もいいかなと思っています。

(文:若松正子/撮り下ろし写真:ウチダアキヤ)

デビュー当時は、何もかも初めてで頭の中がパニックになった

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