ドリカム・中村正人が語る音楽ビジネス

 コンプリート・ベストが通算6週で首位を獲得する、近年では極めて異例なヒットとなり、11月28日からは「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」も開催するDREAMS COME TRUE。その音楽性はもちろんだが、ディーシーティーエンタテインメント代表でもある中村正人氏の冷静なビジネス視点と、アーティスト・吉田美和への愛も、その長きにわたる活躍を裏付けているようだ。

■「DCTエンタ」は吉田美和が作品を生み続けるための装置

――今年は4年に一度の「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」(以下、DWL)の
開催年です。アーティストであり、ディーシーティーエンタテインメント(以下、DCT社)代表取締役でもある中村さんは、この大規模コンサートをどのようなものとして捉えていますか。

中村 DWLは僕らにとっての大切な定点観測地点で、この定点をきちんと通過できるよう、4年ごとにDCT社としてのビジネスを組み立てているんです。もしDWLが開催できないような状況、つまりドリカムの音楽を聴きたいという人がいなくなったら、「吉田美和の音楽を世に届ける」という僕の一大事業がストップしてしまう。DCT社とは、吉田が作品を作り続けられる状況を維持するための装置ですから。

――同公演の開催を記念した7月発売のベストアルバム『DREAMS COME TRUE THE BEST ! 私のドリカム』も非常に好調ですね。

中村 このベストアルバムのリリースにあたって、吉田からいくつかリクエストがありました。まず我々の主張ではなく、あくまでみなさんが聴きたいものを詰め込むこと。そして、とにかく「手に取っていただけるものを」と。もちろん配信もしていますが、CDではとにかくダウンロードにはない価値を追求しました。

――しかし、1仕様のみで特典もつかないという潔い形態は、現在のCDの販促スタイルには逆行しているようにも見えます。

中村 いや、実はカラオケDVDを同梱させようかという企画もギリギリまで詰めたんです。しかし特典をつけると価格を上げざるを得ない。「手に取っていただく」ことを考えると、まずは価格をでき得る限り下げたほうがいいですよね。それから、ダウンロードにない価値という点では、CDならではの使い勝手の良さが挙げられます。これはベストアルバムですから、違法なかたちででも、同じ音源を無料で入手することはできる。しかし、これだけの楽曲数をコピーするなんて面倒臭いでしょう。だったらCDを買っちゃった方が早いよね、という発想でこのベストの購入が進んだのだと思います。

――市場を巡る状況については、非常に冷静に捉えているようですね。

中村 みなさんお感じになっている通り、音楽業界はもはや奇跡を期待してはいられません。出荷ベースで100万枚に届きそうなこのベストアルバムは奇跡のようにも見えますが、それも昨年から今年にかけてのカバーアルバム2作や、ユニバーサルミュージックのスタッフの方々との連携など、丹念な仕込みをしてきたからこそでもあるんです。正直言って、当社はここ数年、CDビジネスだけで言えば利益は出ていません。これはほとんどのレーベルの、多くのアーティストに当てはまることですが、現在の複製権ビジネスというのは、利益なしで音源をお配りしているのと同じ状態。それでも我々は音楽を作り続けていかなければなりません。特にドリカムのような、音楽業界が潤っていた時代にキャリアを積ませていただいたアーティストには、音楽文化を支えているプロの方々の仕事を絶えさせない義務もあると思っています。だからこそ我々は、音楽ソフトを制作し続けるための原資をいかに得るかという点をもっと考えていかなければならないんですよ。

――そのなかで御社が注力していることを教えてください。

中村 そもそも複製権ビジネスが成り立つようになったのは、音楽の歴史のなかではつい最近のことです。ベートーベン以前はどんな偉大な作曲家にもパトロンがいて、彼らが音楽を作らせていた。一方で民衆のためにオペラなども書かれていたけれど、それはさほど儲かるものではなく、基本的にはパトロンのお金で食べていたわけです。今後も音楽を作り続けるためには、そういう発想への回帰も必要だと強く意識しています。

――具体的には?

中村 一つには、企業と組むということでしょうね。

――ドリカムは今年も九州新幹線のキャンペーンソング「九州をどこまでも」を提供していますが、それは純粋なドリカムの作品ではないということになりませんか。

中村 我々は昔から、たくさんの作品をドラマやCMのために書き下ろしてきました。それがドリカムの純粋な音楽ではないのかというと、それも違うと思うんです。例えば、ダ・ヴィンチは教会からオーダーを受け、教会が満足する絵をたくさん描いています。しかし、そこには彼の偉大なアートが詰め込まれていて、だからこそ後世に残っている。それらはあくまでも「ダ・ヴィンチの作品」で、誰がオーダーした作品なのかは、ほとんどの人が知らないでしょう。僕らも組ませていただく企業のオーダーの必要十分条件を満たす精一杯の努力をします。しかし、その根本にあるのは、その楽曲を聴いた人に感動してもらいたいという思い。九州新幹線の場合も、JR九州さんからオーダーをいただいて作り始めたものだけれど、僕らの一番の目的は全九州のみなさんが大合唱してくれるような曲にしたいというものでした。

――今年のDWLで「聴きたい曲リクエスト」1位の「何度でも」(05年2月発売)もドラマ主題歌として書き下ろされた曲でしたが、10年経ってもなお愛されていることからも、楽曲が一人歩きしているのを感じます。

中村 本当に幸せなことです。シングル「何度でも」は、たしか1週目で7万枚くらい(累積売上19.9万枚)しか売れていないのに、今や250万枚(累積売上248.9万枚)を売った「LOVE LOVE LOVE」よりもみなさんが求めてくれる。でも今回のベストアルバムのおかげで、「何度でも」はやっと整合性が取れたわけですね。シングルとベストとの合計で100万枚以上のヒットになったわけですから。

■吉田の詩こそ、後世に残すべき価値のあるもの

――企業とのパートナーシップも、アーティストとしてのバリューがあってこそだと思いますが、中村さん自身が客観的に見て、ドリカムのバリューはどこにあるとお考えですか。

中村 ドリカムはコアファンが極めて少ないんです。だから、ベストアルバムにも特典をつけなかった。購入者の負担にしかなりませんから。もっと言えば、CDがこれくらいは売れる、という約束もできません。それも確実に買ってくれるであろうコアファンが少ないからです。例えば、吉田がデザインするバッグや服などのマーチャンダイジングも行っていますが、それはあくまで吉田の表現を世に出していくためのものであって、ビジネスとして成立させようと思ってのことではないんです。

――つまり、あくまで楽曲で勝負してきた。それがドリカムの26年間だったということになりますか。

中村 振り返るとそうなりますね。「ドリカムが好き」という人は少なくても、「ドリカムの“この曲”が好き」という人が毎回たくさん現れ、入れ替わり立ち替わり来てくれるからこそドームツアーもできるんだと思いますし、今回のベストアルバムもまさにその市場に刺さったんですよ。

――ベストアルバムと連動した書籍『吉田美和歌詩集 LOVE』、『同 LIFE』は、どのマーケットを意識したものだったんですか。

中村 あれは完全にビジネスを度外視したものです。吉田の詩こそ、後世に残すべき価値のあるもので、その点では、僕自身のメロディーなんてどうでもいいとさえ思っている。デジタル媒体というのは、コピーし続けない限り、残ってはいかない媒体で、今は誰もフロッピーを使っていませんよね。アーカイブのための媒体として何千年という実績があるのは、紙か石板だけです。だから、紙媒体で残すことに拘ったんですよ。吉田自身は、歌詩というのはメロディーと一体になってはじめて価値があると考えているので、あの詩集については、僕が押し切るかたちで出版しました。

――いわば文化事業ですね。たしかに吉田さんの詩は、時代を経ても人の心に響きそうです。

中村 もちろん明日のご飯を食べる余裕もなかったら、文化事業なんてやっていられません。だから一生懸命ビジネスをするんです。僕は音楽家ですが、音楽で実現したいことが生まれれば生まれるほど、いつもビジネスの方が追いかけてくるんですよ。


文/児玉澄子 写真/西岡義弘
(コンフィデンス 15年11月16日号掲載)



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  • 中村正人/1958年生まれ、東京都出身。青山学院大学在学中からセッション・ミュージシャンとしての活動を開始し、吉田美和と出会ったことで、前身となったグループでの活動を経て、89年、DREAMS COME TRUEとして、シングル「あなたに会いたくて」、アルバム『DREAMS COME TRUE』を同時リリースし、デビュー。アーティスト活動と並行して、ディーシーティーエンタテインメントの代表取締役も務めている
  • 通算6週で首位を獲得したコンプリート・ベスト『DREAMS COME TRUE THE BEST ! 私のドリカム』は、3枚組50曲で3400円(税抜)。

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