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サカナクション、ブレイク後も失わないカリスマ性 最先端バンドとしての立ち位置

 ベーシストの草刈愛美の妊娠・出産に伴い、ライブ活動を休止していたバンド・サカナクションが、約1年半ぶり、草刈の産休明け後初となる全国ツアーを開催している。レーザー光線やオイル・アート、NINJA LIGHTなどツアーのたびに新しい技術や日本ではあまり前例のない演出法を積極的に取り入れ、常にチャレンジングかつ先進的なステージで魅せてきた彼ら。地道に活動してきたバンドと言えど、ブレイクすると活動スタイルやクリエイティブ面で“メジャー感”が出て、人気が停滞しがちなものだが、サカナクションの場合は2013年の『NHK紅白歌合戦』以降も鮮度を失わず、ファンの中には“神格化”している人もいる。その確固たる地位を確立できた理由はどこにあるのだろうか?

確固たる地位を築いた5人組バンド、サカナクション

確固たる地位を築いた5人組バンド、サカナクション

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■もともと北海道からの“エリア発”ブレイク

 サカナクションは今でこそ時代の最先端を行くバンドというイメージがあるが、実は“エリア発”でブレイクしたバンドだ。2005年、北海道・札幌市で活動を開始し、北海道の夏フェス『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO』の新人枠「RISING★STAR」に応募総数868通の中から選ばれ出演したことや、地元メディア、CDショップのプッシュもあって、道内で爆発的な人気を獲得。2007年5月発売の1stアルバム『GO TO THE FUTURE』は、オリコン総合の最高順位は105位ながら、北海道地区では何と最高6位と、地元での人気を裏付けるセールスを記録した。その後も北海道がけん引するかたちで売り上げを伸ばし、2009年1月発売のアルバム『シンシロ』で初のTOP10入り(最高8位。北海道地区では1位獲得)。若手バンドの中でも一歩抜きん出た存在となった。

 当初から楽曲のみならず斬新なアートワークと世界観で人気を拡大してきたが、SEKAI NO OWARIやゲスの極み乙女。などと同様に、今どきのバンドらしく、メディアの活用の仕方が非常に器用だった。以前、彼らが所属するビクターエンタテインメントの担当者に話を聞いたときに、「地上波番組に出演しないバンドも多い中で、彼らはメディア戦略すら表現手法のひとつとして捉えている」と話していたが、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『笑っていいとも!』(「テレフォンショッキング」)、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)など、純粋な音楽番組以外にも積極的に出演。また、シングル曲にはタイアップをつけ、タイアップ曲=多くの人に知ってもらうための“表”のツール、アルバム=自分たちのやりたいことをとことん追求する“裏”の一面というふうに両面で見せていくことで、コアなファン層を形成していった。

■リスナーに“押し付けない”メディア戦略の器用さ

 では、ブレイクしてもなお彼らがカリスマ性を失わない理由はどこにあるのだろうか? ひとつはフロントマン・山口一郎の存在が挙げられるが、先述のように、流行の先を行く最先端の技術や手法を取り入れ、常に新しいものをファンに示してきたことが大きいだろう。楽曲の世界観を増幅させる、気鋭のクリエイターを起用したミュージックビデオの数々。ライブ演出では、現在様々なアーティストが演出に使用しているNINJA LIGHTを日本でいち早く取り入れたが、2013年に行われた幕張メッセ、大阪城ホールのライブではドルビーと組んでサラウンドを駆使した音楽表現を行い、ライブにおける音響の新たな可能性を提示した。

 何よりも重要なのが、メディアに出る際、そうして作り上げた彼らのイメージを損なわない“演出”がされていることだ。『NHK紅白歌合戦』で普段のライブ同様、パソコンを用いた演出を行ったように、音楽番組などではそこでできる最大限の彼ららしい演出で魅せる。また、山口はフロントマンとしてソロでのメディア出演や新たなクリエイティブへの挑戦もいとわない。例えば、ファッションデザイナー・森永邦彦のブランド「ANREALAGE」のサウンドディレクターとして、今年のパリコレに参加。11月1日には山口に密着したTBS系『情熱大陸』で新たな試みにトライすることも発表されている。

 彼らは誰もが知るヒット曲を持っているわけではない。しかし、大ヒット曲を生み出すよりも、音楽の伝え方、可能性を真摯に追求していく姿勢を見せ、地道にコアなファンを増やしていくほうが、一過性ではない息の長い人気を獲得できるのも事実だ。その姿勢は、かつてのスーパーカーやくるりなどと通じる部分もあるかもしれない。緻密な戦略で、メディアを通して多くの潜在的なリスナーと接点を持ちながらも、自分からグイグイ行くような姿勢は決して見せない。それがアーティストがカリスマ性よりも親近感を重視するようになった現代において、若手髄一の孤高のバンドとしての地位を確立できている要因なのだろう。

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