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クリエイティブな体験から広がる音楽の未来

 3月6日、ビルボードライブ東京で、「レコチョク・ラボ」による実験的な試みが行われた。一流ミュージシャンが学生たちのイメージを元に、即興で音楽の制作過程を見せていく内容で、クリエイティブな体験を通して“音楽の素晴らしさ”を伝えることを目的としている。

学生に夢との向き合い方を伝えた、JUJUのトークライブ。「挫折ばかりだったけれど、好きな歌をやめようと思ったことは一度もない」と語るJUJUの言葉は、進路に悩む学生たちの心に刺さった

学生に夢との向き合い方を伝えた、JUJUのトークライブ。「挫折ばかりだったけれど、好きな歌をやめようと思ったことは一度もない」と語るJUJUの言葉は、進路に悩む学生たちの心に刺さった

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■イヤホンではない音楽体験を提供する実験的試み

 学生に即興で音楽の制作過程を見せていくという、今回の実験的なワークショップ、レコチョクpresents「NO MUSIC, NO LIFE. Academy」をタワーレコードの協力のもと、企画・制作した「レコチョク・ラボ」とは、レコチョクが昨年1月に新CI「人と音楽の新しい関係をデザインする。」を制定した同時期に設立された、社内研究機関。次世代のサービスや次代の音楽マーケット創造に向けた研究開発を行うという位置づけになっている。その活動の一環として、“音楽の未来を考える”ことを目的に、「青山学院大学社学連携研究センター」と定期的にワークショップを実施しており、今回はそのスペシャルワークショップとなる。当日は同研究センターの呼びかけで学生、110人が参加した。

 なぜ、この実験を行うに至ったのか。きっかけをレコチョク・ラボ所長で、同ワークショップの講師を務める庄司明弘氏はこのように語る。

「今の子どもたちの多くは、イヤホンで音楽を聴いています。スピーカーで音楽を聴いたことがないと聞いたので、一度、授業にスピーカーを持ち込んだことがあるのですが、耳に当てて聴く生徒がいたのには驚きました。後でその学生は自宅にもあることに気づいたそうで、家具の一部と思っていたようなんです」

 それ以来、学生はイヤホン以外で音楽を聴く経験がないだけなのではないか。良い音質を聴く体験をしたら、音楽に対する見方がもっと変わるのではないか。そういう機会を大人が提供できていないのではないか、そう強く思うようになったという。

「だったら、その機会を作ってみよう」と思い立ち、知り合いのミュージシャンに声をかけたところ、次々に協力者が集まった。しかも、その顔ぶれはあちらこちらから引っ張りだこの人気ミュージシャンばかり。その1人、佐橋佳幸氏は上記のスピーカーのエピソードを聞き、驚くと同時に「これはイカン」と思ったそうだ。

「今の子どもたちは、僕らが若かった頃と音楽との出合い方が違います。電話やメールができて、音楽が聴けて、写真が撮れて…、そういった何でもできるツールが身の回りにあるのは当たり前。そんな彼らが社会人になって、いずれ僕らと仕事をする機会があるかもしれない。その時に良い音を知らないのでは打ち合せも平行線になってしまう。それは問題だと思いました(笑)」

■“音楽の素晴らしさ”を発信未来への投資

 試聴会ではない何かをやりたい、会場を思案していた時に、運よくビルボードライブ東京のスケジュールが空いていることが分かった。協力してくれるミュージシャンもいる。そこで、会社に掛け合ったところ、「この音楽体験が、5年、10年後の音楽業界のためになるのであれば、やろう」とゴーサインが出て、本プロジェクトは動き始めた。

 音楽が生まれる瞬間の感動を学生に上手く伝えるには、どういう構成内容にすればいいのか、参加ミュージシャンも含めて何度もディスカッションを行った。少しでも予定調和な形になれば学生はそっぽを向く。

 これだけの一流ミュージシャンが集まったのだから、その素晴らしい音と贅沢な空間を、ストレートに受け止めてもらえる雰囲気を創り上げたいと考えた出演者たちは、台本を作らず、普段、学校で行っている講義のスタイルで進行することにした。

 迎えた3月6日。ワークショップは2部構成で行われた。第1部では8人の一流ミュージシャンが、学生たちのイメージを元に、即興で楽曲制作を試みた。音楽のプロが短い時間に、楽曲を次々に生み出していく様は、学生ならずとも、ワクワクさせられる濃密で貴重な体験だった。第2部のトークライブには、ゲストとしてJUJUが登場した。学生のさまざまな質問に、率直に、ときにユーモアも交えながら、あっという間に親密な空間を創り上げた。その真摯な姿勢は、とても心打たれるものであった。その後に、1部の出演ミュージシャン全員で演奏し、JUJUがトークライブで自身の転機となった曲と語った「奇跡を望むなら…」を歌った。

 この贅沢かつ強烈な体験は、学生だけでなく、音楽に関わる仕事をしている人にも必要ではないか、実験を見守りながらそう考えた。この空間を体感した学生は、この経験から何を感じ取ったのだろうか。この音楽体験が彼らに影響を与えたとしたら、その効果が表れるのは、数ヶ月後だろうか、いや数年後かもしれない。即効性はないかもしれないが、「食育」ならぬ「音育」、この未来への投資は、継続してこそ意味を持つ。

(ORIGINAL CONFIDENCE 15年3月30日号より、文/葛城博子)

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