“家族がいる”ウェディングソング
結婚式ではいろいろな歌が歌われる。近年なら木村カエラの「Butterfly」やレミオロメンの「3月9日」などが代表格といったところだろうか。そこには、結婚する当人あるいは周囲の人々が捉えた、晴れの日を迎えるふたりの様子を描いた微笑ましい描写が溢れている。
福山雅治の新曲「家族になろうよ」もまたタイトルが物語るように、新たな出発の日にふさわしい、気持ちがふんわりとしてくるウェディングソングだ。ただ、これまでの多くのウェディングソングと大きく異なるのは、歌詞に描かれているのが新郎と新婦のふたりだけではないということ。「大きな背中」で守ってくれた「お父さん」がいて、「静かな優しさ」で包み込んでくれた「お母さん」がいて、「無口な強さ」で教えてくれた「おじいちゃん」がいて、「かわいい笑顔」で見守ってくれた「おばあちゃん」がいる。さらには、未来に出会うであろう幼い命までが登場し、家族が構成されていく。
家族。人が生きていくうえで最も密に接し、最も心を通わせ、最も安らぐことのできる場所。先の東日本大震災によって、私たちはたくさんの大切なものを失ったが、その一方で、「家族の絆」の大切さを再認識させられもした。震災以前の日本には、核家族化、育児放棄、介護放棄、家庭内暴力など、家族を取り巻くキーワードの大半がネガティブな響きを持って聞こえてくる時代にあり、その存在は空中分解しかねない状況に陥っていたといっても過言ではないだろう。
心の故郷がクローズアップされ、ふと誰もの心に家族の温かさが蘇りはじめたとき、福山雅治によって「絆の大切さ」が謳われるシンプルなメロディーとシンプルなテーマが届けられた。華やかさや感情をたかぶらせる展開こそ抑えられてはいるが、心の底から「そうだよね」と納得できる、人間としての「原点」がここにはある。「静」の福山雅治がそっと差し出すように歌いかける「家族になろうよ」。胸が温かくなり、誰かがそばにいることが幸せに感じることのできる歌。結婚式で歌われる新たなスタンダードの誕生だ。CDには、オーケストラアレンジが施されて、きらびやかになった「家族になろうよ Wedding Ver.」も収録。「しっとり」と「ほっこり」の異なる味わいを楽しんでほしい。
ありあまる「動」が炸裂する
話題曲はこれにとどまらない。「静」の「家族になろうよ」から一転、ありあまる「動」が炸裂するのがもうひとつの新曲「fighting pose」である。「絆」が時代のキーワードだとすれば、時代に必要なものと言えるのが「現実を見据え前向きに突き進む強さ」。そんな忘れてはならないものをダイナミックにたたき込んでくるのがこのナンバーだ。
自分はまだ戦える、という姿勢を「対外的に」アピールするファイティングポーズが、この作品では「自分自身に向けての」ファイティングポーズとなっている。だから、歌詞の内容は恐ろしいまでに赤裸々。聴く者に問いかける「むきだしの自分」の姿が、ある部分では耳に痛く、ある部分では全身を鋭く貫いていく。
現実と対峙するとき、さまざまな葛藤や欲望が入り込み、心が折れそうになることもあるかもしれないけれど、踏ん張っていれば明日はやってくるし、チャンスも待っていてくれる。そんな「エール」をストレートなロックにのせて福山が歌う。綺麗ごとではない、ありのままの人間らしさが描写されるとともに、そのうえに敢然と立って「時代に向けてのファイティングポーズを取る」ことの重要性を僕たちに突きつけてくる骨太な1曲が、下を向きつつある現代人に喝を入れてくれる。
「絆」と「勇気」、日本が次へ進むための大事なものがこの新作には見事に投影されている。職人・福山雅治の時代を切り取る鮮やかな手腕によって届けられる、力と感動を受け取ってもらいたい。
(文:田井裕規)