一環して発信し続けてきた想い
3月11日の東日本大震災直後から“誰かのために”プロジェクトを発足し、いち早く支援の呼びかけや被災地慰問を行ってきたAKB48。「AKB48は誰かのために、今できることを考えて行動していきたい」と、当時より一環して言い続けてきた彼女たちは、配信限定チャリティーソングとして再レコーディングした「誰かのために-What can I do for someone?-」の収益金全額を義援金として寄付し、震災以降に発売するシングル、アルバムも利益の一部を寄付してきた。
ニューシングル「風は吹いている」は、そんな彼女たちがもっとも伝えたかった、被災地に向けたメッセージが込められた震災復興応援ソング。メッセージを発信し続けてきた彼女たちの想いが100%詰まった1曲である。アコースティックギターの力強くも切実さをはらんだ音色に重なってくる18人の真摯な歌声。その響きは決して明るくはないが、悲しいわけではない。抑えの効いたサビは、歌詞と相まって、傷ついた心の真ん中には決して消えることのない情熱の灯が点っていると感じられるのだ。
その歌詞には、意味を持たない言葉がひとつも見当たらない。<この変わり果てた大地の空白に 言葉を失って立ち尽くしていた>という歌い出しの言葉は、震災直後の光景を目にした人は皆感じたことだろうし、被災者も、支援したいと思っている人も、どちらの立場からもこの歌に入っていける。復興を願うすべての人たちが、“できることを始めようか?”というひとつの想いで繋がれる歌であると思うのだ。
大地の妖精のように歌い、踊る
ミュージックビデオは、資生堂TSUBAKI、綾瀬はるか、佐藤健出演のパナソニックLUMIXなどのCMを制作したCMディレクターの黒田秀樹氏。CMだけではなく、福山雅治、サザンオールスターズなど数多くのミュージックビデオも手掛けている。独特の映像センスは「風は吹いている」というコンセプチュアルな楽曲にふさわしい人選であった。
映像全体はアースカラー。草木の生えていない大地の真ん中にひとつの扉があり、その向こうにある人工の壁は、海なのか、空なのか。地を這うような風の音のなか、扉を開けてメンバーが“こちら側”にやって来る。扉の向こうはどうやらモノクロームの世界のようだ。アースカラーに溶け込むモスグリーンのシンプルな衣装に身を包んだ彼女たちは、黒のフラットシューズで地面を踏みしめて、歌い、踊る。その姿は大地の妖精のように見える。束ねてまとめた髪につけている黒いベールの髪飾りは、犠牲になった方々への哀悼の意を表しているのだろう。
そして何よりも大事なのは、メンバー全員が薄めの同じメイクで同じように見えること。この歌に限ってはあっちゃん推し、優子推し、ゆきりん推しとか関係なく、AKB48が一丸となって応援しているというメッセージと、“みんな同じ人間なんだよ”というメッセージが込められているように感じる。
歌の意味とリンクさせて考えると、あの扉はきっと<記憶の傷口>。そこから一歩を踏み出すための、新しい扉なのかもしれない。その扉から出てきた<生命の息吹>である彼女たちが、強く生きていく勇気を与えてくれる。だから最後に過去のモノクロの世界の扉は閉じられるのだ。
次のページへ⇒【アンダーガールズ“ばら組&ゆり組”登場】
(文:三沢千晶)