――昨年は「手紙」のロングヒットもあり、かなり慌ただしい1年だったのでは?
【樋口】 CDが売れたことよりも、多くの人にあの曲が届いたことが嬉しくて、幸せな1年でしたね。自身を見つめ直しつつも、人に歌を届けることに終始し、その大切さをもう一度学んだ大切な年でした。おかげさまで新曲は全然作れませんでしたけど(笑)。
――樋口さんは、ポストマン・ライブという、人から人へと手渡しのようなライブを全国各地で行っていますが、「手紙」の大ヒット以降、そこでの変化は?
【樋口】 今までの層に加え、もう少し年齢の高い方も、お見受けするようになりました。とはいえ、「手紙」が抜きん出て異色というよりは、最近は自分の中でも、このようなテーマの曲が増えていますからね。今回のニューアルバム『よろこびのうた』にしても、いろいろな曲調がありつつ、どこか一貫性を持つ作品だと思っているんです。
――わかります。「愛情」「生命感」「つながり」といったテーマを、作品を通して共通して感じました。
【樋口】 今回聴き返して思ったのは、どの楽曲も愛の歌ではあるんだけど、それが若い頃に中心だった恋愛ではなく、もっと不変や真理的な愛に移っているということですね。
――今作は、歌い継がれるべきすばらしい楽曲が揃いましたもんね。とくに伝達という面に重点が置かれていてるような……。
【樋口】 最近は“皆さんがどんな気持ちで聴いてくれるのか?”ということを深く考えながら作っていますね。人が人に伝える、その手渡し感はとくに意識しました。今回収録している曲たちは、「手紙」以降、それに類したものを作ったのではなく、近年それに近いタイプの楽曲がそろってきたので、それを収めたという感じなんです。
――どの曲も樋口さん自身が経験したり、発見した中から見えた真理が歌われている印象を受けました。
【樋口】 自分でも体験を生の歌として伝えている感はあります。自分の子供と接したり、いろいろな場所に行き、さまざまな人と会い……、そんななかから生まれた曲ばかりですから。
――自身のお子さんに向けて歌ったと思しき歌も幾つかありますもんね?
【樋口】 これらの曲は、実際子供との会話や、やり取りの中から生まれたんですけど、作り進めるうちに、もっと壮大で不変的な真理や結論にたどりついた感じなんです。若い人や子供が聴くと、なかには理解できない曲もあるでしょうけど、ある程度の年齢や経験を重ねると、「あの時に歌っていたのは、このことだったのか」とわかると思うんです。今は理解できなくても、ぜひ時間を空けてまた聴いて欲しいんですね。僕自身、数年後に聴き返すと、今とは違った感じ方をするでしょうし。
――今回の作品は主にどんな方に聴いてもらいたいですか?
【樋口】 幅広くさまざまな人に聴いていただきたいですね。とくに若い人は、毎日忙しくて、いろいろなものに追われていると思うんです。だけど、ふっと静かな場所や流れが止まったような時に、自分の心の奥の方から聞こえてくるものがあると思うので、そこから何かを見つけて欲しい。今作はそれらを呼び起こしてくれる曲が揃っていると思うんです。余裕の無い現代だからこそ、ぜひ時間をかけてこの作品を聴いてみて欲しいですね。
(文: 池田スカオ和宏)