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なぜ競合が追従できない? “スクープ”一強の「週刊文春」、元記者に聞くマスメディアが抱える課題とは

 昨今の松本人志報道をはじめ、『週刊文春』の勢いが止まらない。現在、世の様々なスクープは『週刊文春』が起点となっていることが多いのは明白で、他社は(ORICON NEWSも含め)『文春』が掲載したスキャンダルの続報を食い合っている状況だ。なぜ肩を並べるほどの競合がいないのか。緻密な記事作りにおいて、どのように情報収集と裏取りを行い、どのような矜持を持ってスクープを創出しているのか。元『文春』記者で、『元文春記者チャンネル(スクープ考察系YouTube)』を運営する赤石晋一郎氏、甚野博則氏に、在籍時に感じた『文春』内の空気やスキャンダルにまつわる諸問題を考察してもらった。

報道の“発信元”にそこまで読者は興味がない? 「手数は文春が圧倒的だが、他社もスクープを出している」

 2010年代半ばごろから、『週刊文春』のスクープ記事によって著名人が活動休止や辞任など追い込まれるケースが増え、「文春砲」という言葉も誕生。過去には「フライデーされる」などの言葉もあったが今や、スクープ=「文春砲」のイメージが強い。『週刊文春』を起点に他社週刊誌、スポーツ新聞、テレビ、ウェブメディアが加わり、報道合戦が始まるのもお決まりの光景だ。この『文春』一強のイメージは何が潮目として起こったのか。

 「一般的には2016年のベッキーさん報道と言われていますが、潮目が変わったと感じることは実はそんなにないかなというのが僕の意見です。ただインターネット社会となり、『文春オンライン』にある『文春リークス』が設置されてから話題性のあるスクープ情報が多く集まり、手数が増えたということはあるかもしれません。過去は電話や手紙でのタレコミでしたが、ネットの普及でアクセスがしやすくなり一気にスクープが以前より集まりやすくなった。半分ぐらいはそこからの情報で、ただ一方で記者が集めてくるスクープも、80年代の『ロス疑惑』時代からずっとあります」(赤石氏)

 また『文春』一強のイメージについても「昨年はジャニーズ問題や岸田総理の最側近であった木原誠二副長官報道などは『文春』ですが、一昨年の香川照之さん報道は『週刊新潮』、その前の吉本興業の闇営業は『フライデー』だった。要は二次情報三次情報でスクープを見ている方が一定数いらっしゃり、報道の最初の発信元は読者の方には興味がないだけではないか。『文春』の手数が多いからその印象があるだけではないか(赤石氏)」と分析する。

 とはいえ「文春砲」のインパクトが大きいのはSNSなどを見ても明白。「他社と違うところがあるとすれば、それは取材にかけるお金の大きさがあるかもしれません」と甚野氏。

「取材は投資」 事実を突き止めるために人員と取材費を惜しまない風土

「例えばある事件が発生して取材をする際、それが地方や海外などだと何日も何人も記者を大量投入するというのは、ほとんどの編集部の場合予算的に厳しい。でも少なくとも僕が『文春』在籍時は惜しまず何人も記者が押し寄せローラー取材をかけていく。取材費用は“投資”であるという風土があり、いいネタが取れることで売上につながり、それが取材費につながるという良いサイクルで回っていた印象はあります」(甚野氏)

 「あと僕は元々『フライデー』にいたのでその感覚で話しますと、出版社系の週刊誌ではアンカー制を取っていることが多い。記者はデータマンでライターや編集者がアンカーとして記事をまとめる。ですが『文春』は記者が記事を書いています。自分が記事を書くからどうしても、これは下手なことは書けないぞと取材にも多大なる責任を感じる。逆に分業制だと責任も分散してしまう弱みはあるかもしれません」(赤石氏)

 『文春』は社員と専属契約のフリーランスの混合体で取材チームを組んでいる。元々、他社でエース記者だった人が移籍してくることが多く、キャリアのあるフリーランスが多く集まる環境だったのも幸いしているかもしれない。一時期は『フライデー』出身者が1/3を占めていたこともあり、そのパパラッチ的ノウハウを取り込み、成長を遂げた経緯があるという。

 取材手法は記者によって様々ではあるが、昨今あらためて話題になるのが、情報提供者へのケアをどのようにしているのかという点。情報提供すると数十万の報酬があるという噂もあるが、『文春』では経費以外の報酬は原則渡さないという。「情報をいくらで買ってくれるか?」と聞かれても、支払うことはできません。報酬を出してしまうと、報酬目的で嘘の情報が集まりやすくなってしまうからです」と赤石氏。

「タレコミばかりを追い求めていても、結局良いネタはとれない。それよりも、足で動いてリアルで色々な人と会い、自身のパーソナルを気に入ってもらう。人間関係を長く築いていくことが、情報提供者やキーマンとなる人との関係性につながります」(赤石氏)

「事実ならば握りつぶせない」、週刊誌が追い求めるのは“人間の悲喜こもごもへの興味

 ただこうしてあげられたスクープで、渦中の人がネットメディア、週刊誌、テレビなどで叩かれ続け、テレビに出られなくなったり辞職するといった姿に「かわいそう」といった同情的な声が挙がることも多い。昨今の伊東純也選手の報道初期には、「同情したい」という声や「裏取りが甘いのではないか」といった批判もあった。

 「伊東選手の記事は週刊新潮なので内情はわかりません。文春関連の記事で言うと、裏取りが甘いと言われているのも二次情報三次情報、またXなどで情報が錯綜しているだけで、記事は綿密な裏取り過程の末に書かれているということがあまり知られていない。SNSでは結局それって元記事に書いてありますけど? という議論も多いですから。それに現在、活動自粛している松本人志さんについても『文春』が『テレビに出る資格なし』と書いているわけではない。松本さんに限らず、テレビから消えるかどうかなどを判断するのはテレビ局であり、スポンサー。他人の足を引っ張りたいわけではなく、事実を知ったからには報道するのが記者のあるべき姿ですし、それに世間がどう反応するかは僕らではコントロールできない」(赤石氏)
 
政治家の汚職や裏金にしても「こんな悪い政治家がいるんだ」という興味と願望は尽きない。だから不倫ドラマや極悪人を成敗するドラマが大ヒットするわけで、甚野氏は「フィクションだけでなく、ノンフィクションでも人は人の様々な面を知りたいし関心がある。事実ならば握りつぶせないし、社会正義をふりかざすのではなく、そうした人間のあらゆる一面を面白がる。ジャーナリズムというより人間の悲喜こもごもへの興味なんです」と語る。

 週刊誌が扱うトピックスは、「ジャーナリズムから下世話な話、料理まで自由度が高い」と赤石氏。ただ日本のジャーナリズムに関しては「例えば忖度にしても、ピラミッド(組織)の頂点に忖度する人が多いと記者の自由度は下がる。それは記者のモチベーション低下にもなる。ジャニーズ問題はBBCから始まりましたが、他国のスキャンダルにまで踏み込むある種の図々しさは必要かもしれない。またメディアは銀行などのように再編などの浄化作用が唯一ない業界。体質が古くなり過ぎている。もっとメディアのアイデンティティを重要視すべきだし、現代的に変わっていかなければいけない」と問題提起する。

 それは現在外部から『週刊文春』をとらえ、世間のスクープやスキャンダルを考察する赤石氏・甚野氏だからこそ如実に感じる課題なのだろう。両氏は「文春一強」と言われることに危機感を感じているという。「メディアは多様であるべきで、新聞、テレビ、雑誌というメディアが群雄割拠してこそ、世間からの評価を覆すことが出来るはずだし、メディアはその存在価値を得ることが出来ると考えています」と赤石氏は語る。いま記者という仕事の価値がメディアの地盤沈下により下がっている。だが、本来記者の仕事は、一本の優れた記事で、世の中をガラリと変えることの出来るダイナミックな仕事なのである。時代の波頭に立ち、興味のおもむくままに取材をすることが出来る、組織の「忖度」がなければ相当にやりがいがあり面白い仕事なのである。

 赤石氏・甚野氏は、すでにそのようなメディアの問題やスクープの実態について議論・考察するコミュニティをオンラインサロン(『週刊誌記者秘サロン 〜ここだけの話教えます〜』)として立ち上げ、活動をスタート。「自由にアイデアを出し合い、新しいニュースや話題を生み出す。メンバーと共に、ジャーナリズムの新しい形を探求します」としている。

 昨今は「マスゴミ」というネットスラングが飛び交い、マスメディアへの失望感も多く見られる。異なる思想への批判、都合が悪いことは報道しない姿勢への批判も。新たなジャーナリズムの形を考える2人が、YouTubeやオンラインサロンの活動を通してこれらさまざまな問題にどう向き合っていくか注視したい。

(取材・文/衣輪晋一)
元文春記者チャンネル (スクープ考察系YouTube)

PROFILE 元文春記者チャンネル (スクープ考察系YouTube)

赤石晋一郎
南アフリカ・ヨハネスブルグ育ち。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)など。

甚野博則
大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から「週刊文春」記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。2022年1月から独立し、現在は週刊誌や月刊誌などで、社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。

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