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ネットの“意図しない”加害をどう可視化するのか…被害と加害両方で保険適用、運営会社に聞く基準と対応
コールセンターの顧客相談がきっかけに…同居家族も保険の補償対象に
もともとケーブルテレビやインターネット接続サービスを提供するグループ会社で、コールセンターに顧客からネットトラブルに関する相談が寄せられることがあり、その解決の手助けのために開発した保険商品になる。
その内容は、ネット事案に特化した弁護士費用保険となる。窓口「ネットあんしんダイヤル」で相談を受け付け、内容によって必要であれば、弁護士を紹介。その後、顧客は弁護士とトラブル内容を相談し(弁護士相談費用10万円まで補償)、被害にあった場合は訴訟などのための弁護士費用を補償。意図せず加害者になった場合には賠償責任を補償する。また、それ以外にPC、スマホ、タブレットなど5台までの消失データ復旧の補償がつく。
一般的な弁護士費用保険でネット事案を含むものもあるが、本保険はネットに特化することで月額保険料を安くしているのが特徴。一般的には数千円ほどかかるところを、同居家族(2親等内の親族)を補償対象として750円という手軽さで加入者を伸ばしている。
※「ネットトラブルに関する意識調査」ジェイコム少額短期保険調べ(2020年11月2日〜4日調査、子どもがいて両親がともに存命の30〜40代男女544人対象)
ネットの過去ログの精査から“意図しない”加害を可視化「悪意のある加害者を守ることはない」
ネット詐欺やSNSトラブルは、被害者の弁護士費用の補償になる。寺嶋さんは「被害にあった場合と、意図せず加害者になった場合では、前者のほうが発生率は高い」とするが、難しいのは“意図せず”に加害者になってしまった場合だ。“意図した”加害は補償対象外になる。
「加害者になってしまった場合に、対象外になる大きなポイントが2つあります。1つは業務であること。保険対象は私生活のトラブルに限っています。もう1つは、保険加入前からのトラブル。保険に入った後に、以前からあった諍いが深くなり、対応してほしいというのは対象外になります」
SNSでの誹謗中傷トラブルは頻繁に起こっており、それについワンクリックしてしまったことで訴えられる事例もある。「そんなつもりはなかった」「故意ではない」という“意図せず”をどう可視化し、補償対象か否かの線引をするのか。対応を誤れば、加害者を擁護してしまうリスクがある。
「プロバイダーや弁護士からの情報開示請求や損害賠償請求が顧客に届いた段階で相談を受けます。その時に相手側とのコミュニケーション内容についての過去ログをすべて開示していただきます。そこで事実関係を整理・確認し、意図の有無など補償対象になるかどうかを判別する材料にします」
リアルの言った言わないよりも、ネットのログのほうが明確な証拠として残る。弁護士の法律相談での事実確認において、意図のあるなしの線引きが可能になるという。
寺嶋さんは「犯罪行為は当然ですが、契約時の約款で定めている通り、悪意のある加害者を守ることはありません。あくまでも被害にあわれた方、トラブルに巻き込まれた方をお救いする手立てを手厚くご用意しているのが、この保険です」と力を込める。
親に言えない相談を保険会社でフォローも…子どものネットトラブルは弁護士介入で解決に向かうケースが多い
かなり深刻な状況になってようやく親に相談したり、相談できないままより深刻な事態を招いてしまうこともあるだろう。子どもに対しては、よりセンシティブかつ細やかな対応が必要になる。それに対して「被保険者の対象であることが確認できれば、親に話しにくい相談を、お子さんから直接『ネットあんしんダイヤル』にお問い合わせいただいて、対応できるようにしています」とする。
「年齢にもよりますが、中・高校生であれば親御さんを通さなくても相談を受け、親と事実を共有するか、どう対応するかなどを話します。実際にアクションを起こす場合は、未成年であればどこかのタイミングで親の同意を取ります」
ただ、リアルのいじめと同じで、子ども同士のコミュニケーションに、どこで親が介入するかの判断が難しい。寺嶋さんは「子どもだけでは解決しない時に、クローズドコミュニティでどうアクションを起こすか。その手段の相談を受けますが、そこから訴訟に至ったケースは、今のところゼロです」と語る。
子どもの場合は、SNSでのいじめのほか、誹謗中傷にあえば、大人以上に受ける傷も大きいだろう。本保険でどのように子どもを守っていくのだろうか。
「必要に応じて弁護士が対応します。被害となるログを確認の上、しかるべき相手と折衝します。子ども同士のいじめや誹謗中傷は、相手側にその意識がないケースが多いので、当事者同士だとなかなか事態が動かないことがほとんど。ところが、弁護士が間に入ることで意識化され、相手もしっかりと向き合う。そこから解決に向かうケースが多くあります」
一方、そもそも子どもがネットトラブルにあわないようにするために、親はどう気をつければいいのだろうか。
「日々のコミュニケーションで、フラットに話ができる親子関係をどれくらい築けるのか。幼い頃からスマホとネットがある環境下の子どもたちは、リアルよりネット上の友だちのほうが仲良く話せるケースも多い。親に話せないと、ネットやSNSで話をしてしまう。親世代には理解できないところがあるでしょう。それを高圧的な態度で無理やり開示させるというよりは、お互いにわからないことを教えてもらうスタンスでコミュニケーションを取っていく。それがネットトラブルを未然に防ぐために大事です」
ネットは匿名で偽装可能と思われがちだが、リアルよりもトラブル解決の可能性は高い
また、子どものトラブル事例としては、LINEでのいじめやSNSの誹謗中傷よりも、オンラインゲームでの課金トラブルの方が多いそうだ。親が知らない間にネットゲームで知り合った仲間と課金して請求が来たというケースがあるという。
世代で見ると、40〜50代はかつてパソコン通信をやっていた世代で、テキストでの発信がアクティブ。匿名前提でコミュニケーションする世代となり、SNSなどのトラブルになるケースは多いという。一方、30代以下のInstagramやTikTokのビジュアル世代は、自分の容姿を画像や映像でアップしていることもあり、匿名性が薄れるメディアにおいては、誹謗中傷するような行為を自ら行うような事は少ないと推測される。また、匿名の第三者による誹謗中傷のターゲットにされてしまう懸念は一定数存在すると考える。ただ、ストーカーなど別のトラブルが発生することもあるそうだ。
70代以上で特に高齢層は、ネットの勧誘詐欺や商品サービス詐欺にあうことを懸念している人が多いが、コミュニケーションのツールとしての利用はLINEが多いので、誹謗中傷といったトラブルは起こりづらいという。
今年の『新語・流行語大賞』にもノミネートされた“生成AI”。業務の効率化や人的リソースの補助などから、急速な普及が進んでいる。今後“生成AI”を取り込んだ犯罪や詐欺、著作権侵害といったネットトラブルの増加が予想される。
寺嶋さんは、具体的な例として「フィッシング詐欺のメールなどがより巧妙化するほか、企業のコールセンターがチャット化される中、それに紛れて生成AIを使った詐欺が増えるでしょう。ネットを理解している人でもわからないような巧みな詐欺が出てくると思います。また、フェイクニュースに関するトラブルなど、人間のフィジカルな判断力で対応できない事案が生まれる可能性があります」と危惧する。
こういった被害が増えることで、より保険のニーズは高まり、市場が広がりそうだ。
「詐欺にあう確率は高くなるかもしれません。ただ、ネットは匿名であり偽装が可能と思われがちですが、ログがしっかり残るので、ちゃんと向き合えば、リアルで起こる詐欺よりもトラブルを解決できる可能性は高い。そういった意味でも、保険のニーズはより高まっていくでしょう」