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偉人まんがに変革?「ポケモン」生みの親から「くまモン」まで、存命の人物を取り上げるようになった背景 今後は取り上げられる可能性のある人物とは

 過去、多くの人が幼少期に「偉人まんが」や「歴史まんが」に触れた記憶があるだろう。そのラインナップでは、エジソンやリンカン、豊臣秀吉や坂本龍馬など過去の偉人が取り扱われることが当然だった。だが昨今、その事情が変わり始めている。今もメディアミックスし世界中で人気の「ポケットモンスター」、その根底を成した田尻智、将棋棋士の羽生善治、野球界の風雲児・松井秀喜、元ソウルパラリンピック・バタフライ金メダリストで現在はゴスペルシンガーのレーナ・マリア、そして平成の天皇…これら存命人物の偉人まんがが登場しているのだ。これらを刊行する、小学館『学習まんがスペシャル』の編集部にその背景を聞いた。

きっかけは1人の編集者のある偉人への熱意 “攻めた”学習まんがの取り組みとは

 小学館の学習まんがといえば、まず筆頭に上がるのが慶応大学に合格した『ビリギャル』が読んで参考にしたといわれる『少年少女日本の歴史』。1981年にスタートし、今年で32年目を迎える。同シリーズは旧石器時代からの日本の歴史をまとめていった金字塔ともいえる作品群だ。そして存命の人物を扱う『学習まんがスペシャル』のシリーズの刊行は1999年に始まった。

 なかでも「ポケモン」の生みの親である田尻智氏は、小学生がこれを読書感想文にするほどの反響が。ゲーム開発に没頭した仲間との交流や、ポケモン誕生に際して田尻氏の背中を押してくれた関係者とのエピソードが満載で、ゲームクリエイターを目指す子どもや、「ポケモン」ファンが読んでも楽しめる内容として人気を博した。

「そもそも同シリーズスタートのきっかけは、レーナ・マリアです。1998年長野パラリンピックで歌唱を披露したことから、元パラリンピック金メダリストでゴスペルシンガーとして生きる道を選んだ彼女の人生に共感した編集者が熱意を持ってプレゼン。実現の運びとなりました。そしてこれが同シリーズ上、最大のヒットともなっています」(同社・学習まんが編集長・安達健裕氏/以下同)
 これを皮切りに、先述の田尻智氏をはじめ、棋士の羽生善治氏、元メジャーリーガー・松井秀喜氏、平成の天皇の5人の存命人物の伝記まんがを刊行した。松井秀喜氏に関しては、同社『週刊ポスト』記者が松井氏と懇意であることから「うちしか出来ない」と生まれた企画だ。田尻智氏にしても、『月刊コロコロコミック』で長らく「ポケモン」のまんが連載をしていたため、多くの関係者の後押しもあり、「これはうちが出さなくて誰が出す」と送り出した結果だった。

 余談だが「学習まんがスペシャル」シリーズではないが、日本一のご当地キャラ「くまモン」の伝記まんがも同社から刊行。偉人まんがとしては初のキャラクターものであり、存命人物の偉人まんがとあわせて、いかに小学館が“攻め”の姿勢を見せているのかの証左と言える。

創刊に際しての葛藤 「『人物日本の歴史』をなくすのは相当な決断だった」

 だが、ここに至るまでは様々な紆余曲折がある。1984年、前出の『少年少女 日本の歴史』シリーズから派生して『少年少女 人物日本の歴史』というシリーズが生まれる。卑弥呼、空海、織田信長、福沢諭吉などを綴った全25巻作品群だった。

「その後、1995年ごろに『少年少女人物日本の歴史』を、新シリーズとして起ち上げた方がいいのではないかという意見が出始めました。『少年少女人物日本の歴史』をなくすのは相当な決断だったと思います。全25巻ものシリーズでしたから。ですが、絵柄の古さ、そして25巻で完結しているので新しい人物や外国の偉人が入れられない。そういったことから、新たな挑戦にかけたのです」

 こうして1996年に『学習まんが人物館』シリーズが誕生した。まず日本からは豊臣秀吉、手塚治虫、野口英世、植村直己、本田宗一郎。海外からはケネディ元大統領、キュリー夫人、エジソン、ヘレン・ケラー、モーツァルト。「これらを日本人・外国人のセットで2冊ずつ。数ヵ月ごとに出していき、まずは10冊刊行しました。推測ですが、当時は活字の本で好評だった人物や、学習指導要領や教科書で教えるべき人物とされていた人物をセレクトしたのだと思います」

 その際、監修者にはこだわった。例えば手塚治虫は藤子・F・不二雄。ケネディであれば鳥越俊太郎、南方熊楠だと荒俣宏などなど。読者の興味を引くには監修者の実力や知名度も重要視したわけだ。「また昨今では、時勢、大河ドラマや朝ドラきっかけで人選する場合もあります。東京五輪前には日本のオリンピック参加に尽力した柔道家の嘉納治五郎、『いだてん』の際には金栗四三、そして『青天を衝け』の主人公となり、新札の顔になる渋沢栄一。『まんぷく』からは安藤百福も。」

 「学習まんが人物館」は、基本的に定期的に出しているシリーズではないため、その時その時で編集者が「これをやりたい!」という熱い想いで提出した企画からスタートする。そこから歴史学者などしっかりとした監修者をつけ、シナリオライターに依頼。それをまんがにしていく。企画から早くて半年。大体、8〜10ヵ月の制作期間を経て売り出されるのだ。

「ただ、監修者の先生のご指摘に添えないこともあります。まんがですからある程度の演出が必要なんです。たとえば、源頼朝と北条政子のエピソードで、頼朝が政子に壁ドンをする演出がありました。いわば現代風の表現ですね。しかし、この時代に壁ドンはあり得ない。とはいえ、エンターテインメントですから、そこと史実のバランスは重要。あくまでもエンタメ性は残しておきたいという想いはあります。このようにして今日を迎えている『人物館』シリーズ、そんななかから冒頭の『スペシャル』シリーズが生まれたのです。
 
 また、新たに新事実が発覚した際は、重版の時に但し書きを添えたりもしています」

実は読者の多くは女子小学生 今後はYouTuberの偉人を取り上げる可能性も?

 そんな児童向けの伝記まんが、歴史まんがだが、社会問題となっている少子化により、出版社同氏でパイの奪い合いにもなってしまう。それは懸念しているが、「例えば『ビリギャル』の影響で、弊社の『少年少女日本の歴史』シリーズが再評価され、中高生にまで読者が広がるなど、読者層の幅は広がった印象があります。一方、『人物館』に関しては主に小学生のお子さんが読まれるものですが、おじいちゃんおばあちゃんが孫にプレゼントし、そのタイミングで祖父母の方々も読まれているという声も」と現状を分析する。

 そのなかで小学館の強みといえば、『小学一年生』などの学年誌や『コロコロコミック』などで培われた、はじめてまんがを読む子どもにもわかるようなコマ割り、見せ方のスキルがある。ゆえに多くの人々に愛され、30年以上もの間、読まれ続けているわけだ。

「ちなみに『人物館』『スペシャル』両シリーズでの人気は、ヘレン・ケラーが1位、レーナ・マリアが2位、ナイチンゲールが3位というふうになっています。愛読者はがきのデータでは女子読者が多く、ここからは女子が読みそうなまんがの方が売れるという傾向はあるのではないか、と推測されています。そのほかでいえば、障がいに立ち向かい何かを成し遂げた人物。道徳の教科書などにも取り上げられ、名前を見たことがある、ということもあれば、やはり、子どもの頃から人は、そこに“ドラマ性”を求めるのかもしれません」

 だがすべてが順風満帆というわけではない。まず時代のニーズに合っているかどうか。その見極めが難しい。また存命の人物を取り上げる『スペシャル』においても、いかにニーズがあるとはいえ、その人物にも未来がある。つまり今の価値だけで未来は推し量れず、ハッキリと言ってしまうと、何らかのスキャンダルが浮上する未来があるかもしれない。「そういった意味では、国民栄誉賞をもらった羽生さんなど、安心できる方を選んでいます。例えば大人気の芸人さんを取り上げようとしても、偉人にされてしまうのは芸人さんとしては嫌がられるでしょうし、逆に偉人扱いされることで、ちょっとした誤ちも大ダメージになることもあり得る。様々な難しい兼ね合いで人選しています」

 ほか人気作品は、マザー・テレサ、アンネ・フランクなどがある。これも小学生女子読者が多いと推測されることから納得は出来るが、問題は女性の偉人が少ないことだ。とくに近代は、偉人としての知名度が高い人物が少ない。江戸時代に至っては、「ほとんど見かけません」と嘆く。だがこれは、現代の女性の活躍を見れば、未来は変わりゆくかもしれない。

「ほかの施策でいえば、これらシリーズはハードカバーのため判型などのコスト面、また子どもからすれば大きすぎて持ち運びにくいという課題もあります。少しずつ改善していきたい」

 そんな安達氏は、今後はYouTubeも含め、IT系で偉業を成し遂げた人物が多くなってくるのではないかと予測する。かつて取り上げた偉人についてアプローチを変えて取り上げることも考えている。例えば二宮金次郎(尊徳)は、かつては苦労して学問を学んでいたイメージだった。現在では江戸時代に農政学者として農民を救った英雄として描かれるだろうと語る。

 「そういった意味では人選は今後どんどん広がっていくと思います。現在は過渡期。歴史上の人物はある程度出尽くしている。近現代でどういう人物を取り上げていくか。また新たな人選で、その偉人たちの生き方がどう子どもたちの羅針盤になっていくか、引き続き精進していきたい」

(取材・文/衣輪晋一)
小学館版学習まんが人物館

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