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日本の花火は「ショービジネス化」するべきなのか? コロナ禍で窮地迎えた花火師の苦悩

 私たちの日常を大きく変えたコロナ禍。これによって失われたものの一つに「花火大会」がある。皮肉にも、花火は元来“疫病”退散や慰霊が目的の行事。江戸時代から日本文化に根付き、全国各地で行事化。それゆえ開催するのは主に自治体で、観覧は無料。そんな花火を取り巻く環境を、新たにビジネス化する流れが日本でも生まれ始めている。業界内では、コロナ禍を経て、多くの転職・失業者も出た。「伝統を紡ぐためには、新たな挑戦が求められている」と語る新鋭花火演出家の平山英雄氏と中嶌結希氏に、今まさに過渡期を迎えている日本の花火の未来を聞いた。

伝統的に継承されてきた「日本花火」と商業的に発展してきた「西洋花火」に大きな“壁”

 春は桜、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪見――。日本は古来より四季を楽しむ“風物詩”に溢れていた。その中で「花火」だけは人工物。日本の花火の一発玉は、日本人特有の職人気質、また神への奉納、供養などの意味が込められていたこともあり、一玉一玉を丁寧に作り込む技術は世界屈指とも言われる。花火大会に関しても1時間から2時間かけて、多種多様な花火を打ち上げる催しは日本特有のスタイルである。

 西洋では短時間で打ち上げて観覧する花火がほとんど。何らかのイベントのクライマックスに、花火を同時に、もしくは短時間で何発も打ち上げる花火だ。つまり西洋の花火は、日本と比べ、ショーの一部、演出としてエンターテインメント的に捉えられている。
 平山英雄氏は、28歳の時に八景島でスペインの花火会社が手掛けた音楽と花火を完全にシンクロさせる花火ショーを目にして一念発起した。これまで無料でゆっくり見る花火大会が親しまれてきた日本で、エンターテインメントの付加価値をプラスした花火にビジネスチャンスを感じたという。「初めて音楽と完全にシンクロして様々な花火が打ち上がる海外ならではの花火ショーを観ました。当時の日本の花火会社には絶対に真似できないそのスタイルに可能性を強く感じたのです」(平山氏)

 以前は大手IT企業の会社員だった平山氏の新進気鋭な働きかけもあって、ここ20年で、日本の花火の打ち上げ技術、演出は急激に進化してきた。だが、ショーとして魅せられる日本の花火は「20年ほど前は1割程度でした」と中嶌結希氏は語る。「1つ1つの花火を作りこむ日本の職人の感性や技術は世界一だと感じます。ですが、花火を使った演出力やショーとしての完成度は西洋と圧倒的な差がある」(中嶌氏)

コロナ禍で大打撃、国からの助成金も無く収入9割減… 生業を失う“匠”たち

 また近年、少子高齢化による税収やスポンサーの減少もあり、地域に根差した納涼花火大会は小規模化している上、さらに市町村合併などにより開催自体も激減。これまで納涼花火大会に依存度が高かった保守的な日本の花火業界でも、強い危機感を抱いている。

「元々無料で観られていたもので、花火大会にお金を払うという意識が一般にはほぼなかった。そんな中、コンピューターシステムを使い音楽とシンクロさせて花火を打ち上げる技術が普及してきており、これを1つのコンテンツとして、例えば音楽業界のイベンターが主催となり、有名なアーティストとのコラボなどの付加価値を付けようという動きが見られ始めてきました」(平山氏)
 それでも日本の花火師の伝統として、一発一発のクオリティーや細工には自信がある。誰よりも美しい一発を打ち上げたいという誇りもある。だからこそ“世界一”だという自負もあるが、そこから個々が「花火大会」を「ショー」として総合的に見せる演出にも目を向けることで、日本の花火の可能性は無限大に広がる。

 平山氏はそう考え、アメリカの花火打ち上げシステムや海外の打上技術などを積極的に取り入れ、日本が欧米に比べ遅れている花火の打ち上げ方、見せ方(演出)の発展と改善に取り組んできた。「花火は言語を超えて楽しめるもの。日本も海外に出せる入り口に立ち始めた。そんな矢先です(中嶌氏)」。――花火業界は突然の大きな受難に対面する。新型コロナウイルスの感染拡大だ。
 2020年の花火大会のほぼ全てが中止に追い込まれた。業界の収入は9割減といわれ、リストラ、もしくは自己退社者も続出。しかも花火業者には、飲食店のような国からの保証からも対象外だった。中には、3分の2の社員を解雇せざるを得なかった会社もあった。

 個人向け花火打ち上げのポータルサイト「ハナビジャパン」を運営する中嶌氏も、例に漏れず苦難に襲われた。他業種でアルバイトをしながら食いつないでいたが、外出自粛が落ち着いてくると、「夏見られなかったから花火を上げてほしい」という“個人”依頼の花火打ち上げが増えてきたのは思わぬ報酬だった。

 一方で平山氏は「花火大会は毎年当たり前のようにあったもの。ほとんどルーティン、作業のように目の前のことを淡々としかやってなかったことに気が付かされた。そういう意味で、自分の花火への意識を改革する期間となったかもしれない」と語る。ピンチは最大のチャンス――。当然戸惑いや不安はあったものの、多くの人が金科玉条のごとく語るその言葉が実体験を通して脳を直撃したという。

保守的だった日本の花火業界、過渡期を迎え「ショービジネス」化加速の兆し

 社会問題、そしてコロナの影響により滅びつつあった日本の花火文化。ようやく今年、地方では3年ぶりに開催される花火大会もちらほら。しかし、都内は今年もほとんど中止。しかし、2人に大きなチャンスが訪れた。平山氏と中嶌氏がタッグを組んで演出する、今年東京初となる花火大会を開催することに。世界的ロックバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」の結成60周年を花火で祝う一夜限りのイベントだ。
 ストーンズ公認の同イベントには花火会社7社が参加。これまで一玉入魂スタイルだった日本の文化に、独自の横断型ミックスのプラットフォームを整え、無限の組み合わせを可能にしたショーを目指した。しかもこれまでの納涼花火のように、主役は決して“花火”ではない。主役はストーンズであり、花火はその“効果”として用いられる。

「複数の花火会社を横断して“作品”を創り込んでいくのは初めてのケースです」と意気込む平山氏に、「我々としても不安はありますし、逆にこれが“世界に誇る日本の花火”という可能性に向かう1つの挑戦とも感じます」と中嶌氏も気合十分。彼らと日本屈指の技術を持つ花火会社がローリングストーンズの名曲と共に、世界でも類を見ない新しい花火エンターテインメントにチャレンジする。

 観覧チケットは、S席7,700円、A席6,600円。全席指定で無料観覧席はなく、国内ではかなり攻めたイベントだ。奇しくも、花火業界衰退のこの時期があったからこそ、次へのステップを考えなければならない考えが浸透しやすかったという現状もある。平山氏と中嶌氏が日本の伝統に挑んだ新たな試みが、暗雲立ち込める今の花火業界に煌めきを灯すかもしれない。
 確かに日本の花火は文化的にも技術的にも独特で伝統として高い位置にある。伝統を守ることも大切だが、思えば日本の文化は古から、医学も数学も料理も宗教も、海外から取り入れ、組み込み、自ら再解釈し発展してきた。納涼花火が減っていく中、世界に誇る技術を持つ日本の花火業界の未来を照らすのは、“伝統”ではなく“オルタナティブ”。逆に、それこそが“伝統”であり、日本らしさともいえないだろうか。
ストーンズ公認 東京で今年最初の花火大会 東京SUGOI花火
「THE ROLLING STONES 60th ANNIVERSARY THE GREATEST FIREWORKS〜感激!偉大なる花火〜」(外部サイト)

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