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「ドラクエ感ある」「RPGしたくなる」…地下鉄通路のタイルから生まれたメロディに210万再生
「偶然性」に興味や憧れを抱いていた 身の回りのものを音にする見方を持った要因
西村直晃大きな反響があることを想像していなかったので、しばらくはあまり実感がありませんでしたが、嬉しく見ていました。最近の自分の投稿は、一般的な作曲や演奏による音楽作品とは異なり、聴く人が主体的に意味を見出して楽しむような性質のものだと思っていたので、多くの方がそれぞれの観点から反応するのを見て興味深く感じました。
――ほかにも、電信柱やヨドバシカメラの看板、鳥の群れにまで、西村さんは音を紡ぎだしていますが、こういった身の回りのものを音にする見方はもともとあったのですか?
西村直晃例えば、私は以前からアンビエント音楽のような楽曲を作っていますが、その中では不定形的な音を無作為の配置であるかのように操作することもあります。その恣意性に小さな違和感を覚えていて、潜在的に「偶然性」というものに興味や憧れを抱いていたと思います。
――いわゆる“偶然の産物”ですね。
西村直晃コンピューターの乱数を使ってみたり、フィールドレコーディングをしたりと、様々なアプローチも経験しつつ、あるとき「道に落ちていたトマト」や「ニホンウナギの漁獲量データ」といった対象を音に変換したところ面白く感じ、そういった所から少しずつ身の回りにある「偶然」を感じさせる対象が気になり始めたように思います。
――こういった投稿は、どのくらいの時間でできるのですか?
西村直晃(「電線の上の鳥」などの日記のような感覚のものは、)早ければその日のうちに投稿します。少し考える時間が必要なものには、数日かけるときもあります。あとは強いて言えば、「本当に良い偶然に遭遇するには何日もかかる」という感じでしょうか。簡単なプログラムを書いたり、楽譜やグラフを作成したりする場合もありますが、基本的にはごくありふれた画像編集、映像編集、音楽制作用のツールを用いながら作っています。
「絶対音感ではない」からこその“音の響き”への貪欲な探求心
西村直晃私は相対音感の方は経験的に体得しましたが、特別な早期教育は受けていないので、いわゆる絶対音感はありません。風景に音を見出すのを始めたのは大人になってからのことですが、空想したり絵を描いたりということが好きで、よく何かを作っている子どもではあったと記憶しています。
――絶対音感が無くても、作品として“日常の風景”から音楽を見出すのは可能でしょうか?
西村直晃自分の場合は、実際に音楽を作ってきた経験や、理論を学ぶのが好きだったことなどが背景にあり、どちらかといえば音感的な領域のみで捉えていないからこそ、実際の響きを聴くことへの欲求がむしろ強いと言えるのかなと思います。
――幼少期において、養っておくべきことなどはありますか?
西村直晃幼少期にすべきことがあるのかはわからないですが、その人らしく楽しんで日々過ごすことが、まずは一番なのではないでしょうか。
――身近な物事から楽しさや面白さを発見するコツは?
西村直晃自分は平凡な人間なので、身近な物事をこうして楽しむことは本当に誰でも、いつでも可能だと思います。あまり偉そうなことは言えないですが、音楽に限らず、その人にとって取るに足らないと思うようなことでも敢えて実践してみると、そこには何か気づきがあるかもしれません。
「物への視点が鋭敏に」日常から音を見つけることで得た感覚
西村直晃色々とあると思いますが、音を見つけていく経験を通して、物の形状への視点が変わってくるといいますか、鋭敏になってくるのは面白いと感じています。雑然と置かれたものの配置の感じ、角度、色、あるいは質感など、そういったものを目で追うだけでも今はある種のリズムを感じます。
――今、気になっているもので、音にしてみたいものは?
西村直晃これも色々ですが、さびれた高架下などでよく見かける落書きに、うっすらと魅力を感じています。
――今後どのような作品を考えていますか?
西村直晃どのような物から着想を得てどのような作品ができるかは、その時にならないとわからない部分もありますが、くだらないことや脱力するようなことは今後もなるべく大事にしていきたいと思っています。あとは、ライブやアルバムで面白いことができたらとは考えています。
――西村さんの投稿を通して、今後フォロワーの人たちにどのように音や音楽を楽しんでほしいと感じますか?
西村直晃偶然の音や音楽、つまり聴き手がむしろ主役になるようなタイプの音や音楽に耳を傾けてくださる方がいることは楽しいです。そこでは自分は媒介者に過ぎないかもしれないですが、投稿を通してそうした面白さに触れる人、新しい目線で日常を楽しめるようになる人が少しでもいるのだとすれば、それは何よりです。