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又吉直樹、芥川賞の呪縛乗り越えて…「もしもさんまさんだったら」!?
大きな賞をもらったことで、勘違いしてしまった部分があった
もともと人気お笑い芸人として活躍していたが、芥川賞受賞後のメディアでの取り上げられ方は、自身も「浮足立った」というほど過熱していた。さらに「大きな賞をもらったことで、勘違いしてしまった部分があった」と心情を吐露する。
「僕はもともと人気者タイプの人間ではなく、みんなが嫌いといっても、一部の人に『ちょっとは好きやで』って言ってもらえて生きてこられたタイプの人間だったのですが、賞をもらって、みんなの期待に応えようとしている自分がいたんです。褒めてくれる意見も人それぞれ違うのですが、全部を作品に反映させようとして、変な方向に進んでいってしまったこともあったんです」と述懐する。
共感と面白いって、まったく違うもの
『劇場』は、売れない小劇団の脚本・演出家の永田が、偶然見かけた女性・沙希に声をかけることから交際が始まる恋愛ストーリー。自身の才能を信じ、極貧ながらも演劇に打ち込む永田と、彼の才能を信じ、笑顔で包み込む沙希。“変わらない”ことを望む沙希だったが、日々の日常はそんな二人に重くのしかかり、徐々に“変化”をみせ、ほころびが生じるようになってしまう……。
本作に登場する主人公・永田について「共感できる人なんて、ある一部の変わった人しかいないと思うんです。でも『こいつ何してんねん!』ってツッコミながら楽しんでもらえることはできるだろうし、恋人の沙希だけを応援するって楽しみ方もある。共感と面白いって同じように語られるけれど、まったく違うもの」とあくまで“面白い”にこだわったという。
ここからは自由にできるかなと思っている
少し無言の時間が経過したあと「比べるものおこがましいことなのですが」と口を開いた又吉。続けて「もし(明石家)さんまさんが芥川賞をとったら、(それをネタにして)むちゃくちゃ笑いをとっていると思うんです。要は僕に腕がないだけで……ここからどうやっていくかですよね」とつぶやく。
さらに「『あんな賞いらんわー』なんて言うのは簡単だと思うのですが、芥川賞って僕のものじゃないんですよね。歴史もあるし、次に獲る人もいるわけで、自分はたくさん恩恵を受けたのに、僕が芥川賞を笑いのボケにして汚してしまって、次に受賞する人のテンションを下げてはいけないという思いがどこかにあったんですよね」と、これまで芥川賞受賞を笑いのネタにしなかった理由を明かした。それでも「もう2年ぐらいたつし、ここからは自由にできるかなと思っているので……」と語ったように、今後は芥川賞をネタにした笑いも披露してくれるかもしれない。
お笑いと小説を混ぜてライブで表現したり、面白いことがしたい
それでも「単独ライブってテレビで出せるようなネタと、そうではないネタを織り交ぜているんですよね。1本目とラストはテレビで出せるけれど、それ以外は『なんやそれ?』みたいなネタもある。小説もシングルカット(単行本)できるものの間に、ちょっと変わった作品を出す場があればいいなって思うんです。お笑いと小説を混ぜてライブで表現したり……いろいろ面白いことがしたい」と、お笑いと小説をハイブリッドした、又吉ならではの表現方法を模索しているようだった。
(取材・文:磯部正和)
『劇場』
5月11日発売
新潮社