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伊藤智彦監督インタビュー『“SAO”ムーブメントを巻き起こした新鋭アニメ監督が語る制作裏側』

作家・川原礫氏の小説を原作にした人気テレビアニメの初の劇場アニメ『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-(SAO)』が公開から17日間で観客動員100万人を突破。大きな話題になっている。『SAO』ファンのみならず、幅広い層へ広がりをみせる本作のメガホンをとったのは、日本を代表する演出家・細田守監督にかつて師事していた伊藤智彦監督。映画監督デビュー作にして新たなアニメのムーブメントを巻き起こした伊藤監督に、その魅力とヒットの要因を語ってもらった。

コアなアニメファンと一般層の中間をターゲットにした

――映画が公開され1ヶ月がたちましたが、どんな心境でしょうか?
伊藤智彦とにかく今は無事に完成して公開できたことにホッとしています。

――『SAO』ファンの枠を超えるヒットになっている印象ですが、監督自身は広い層へのリーチは意識していたのでしょうか?
伊藤智彦『ソードアート・オンライン』は小説を原作にしていますが、テレビアニメシリーズを手がける際に「原作のユーザーは中高生です」と言われたんです。アニメを観る層や、パッケージを買う層はもう少し上の年齢になりますが、長くシリーズが続いているので、今ではけっこう幅広い年代のファンがいる作品になってきていると思っていました。そんな『SAO』ファン層に対しては、原作、アニメを観てきたすべての人に観てもらいたいという目論見はありました。さらに、もし可能ならば、ファンだけではなく、アニメが好きで『ソードアート・オンライン』というタイトルぐらいは聞いたことがあるという人たちくらいまでは、スッと入れる内容にしたつもりです。
――ふだんアニメを観ない人を意識した部分はなかったのでしょうか?
伊藤智彦さすがにそこは意識していませんでしたね。アニメというだけで観ない人は観ないですし、そういう層まで気にして作品を作ると、本来やるべきところから外れてしまいますから。「動員100万人突破」とのことですが、ひとりで何度も観ている人もいるでしょうし、純然たる数字という意識ではないですね。『君の名は。』みたいなプレーンな作品だったら別ですが(笑)。

――『君の名は。』よりはもっとアニメファン向けの作品ということでしょうか?
伊藤智彦もちろんです。例えば、『ガールズ&パンツァー』はけっこうコアなアニメファンをターゲットにしていると思うのですが、『君の名は。』と『ガールズ&パンツァー』の中間くらいを狙ったイメージですね。

劇場版オリジナルの共同脚本では原作者が“壊していく”こともあった

――本作はアクションシーンも含め、ダイナミックな作品になっている印象ですが、劇場版という部分で意識されたことはありましたか?
伊藤智彦テレビシリーズから劇場公開される場合、物語の中心をゲストキャラが担いがちなのですが、それはやめようと思いました。このシリーズは、キリトとアスナという主人公ふたりをめぐる話なので、劇場版でもそこを中核にすべき。そうなったときに問題になるのが、原作との齟齬なのですが、幸いなことに川原先生が劇場版用のオリジナルエピソードを書いているので、つじつまもしっかり合わせられました。
――川原先生との共同脚本というのは、こうした意図もあったのですね。
伊藤智彦どこまで原作者の世界に足を踏み入れるかというのは、どんな作品でも悩みどころだと思いますが、こうやって作品に関係していただくと、逆に原作者の方から作品を壊してくることもあるんですよね(笑)。そういうときは我々がストップ役にまわるのですが。また、テレビアニメの開始から5年という積み重ねもあるので、いい関係での座組ができたかな、とは思います。

――川原先生と伊藤監督の脚本上の役割分担はどんな感じだったのでしょうか?
伊藤智彦すべてではありませんが、主に川原先生にプロットを書いてもらって、俺はアニメシナリオ上に落とすという感じですね。

ラストに向けてビジョンがあり、VRではなくARアイドルを出したかった

――そうして出来上がった作品ですが、劇場版では設定がVR(仮想現実)ではなく、AR(拡張現実)になりましたが、そこにはどんな意図が?
伊藤智彦川原先生の希望でした。今回はARでやりたい、ARアイドルを出したいという想いがあったので、そのふたつを念頭に入れて作っていきました。

――監督自身は、最初にARでとお聞きしたとき、どんなことを思いましたか?
伊藤智彦一見すると、ARよりVRの方が進んでいる感じがするので、技術的に後退しているように見えないかという心配と、実際に身体を動かすことになるので、画作りが地味になるんじゃないかなという懸念がありました。でも実際はスタッフの努力で技術的な部分は何とかなりましたし、川原先生のなかには、ラストのオチに向けてしっかりしたビジョンがあったと思います。
――ARアイドルという意味では、ユナを演じた神田沙也加さんの役どころは重要ですね。
伊藤智彦シナリオ会議の最中から、ユナは誰がやるんだという話は頻繁に出ていて、できれば歌と芝居は一緒の人にやってもらいたいというのが希望でした。そんななか、自然と「神田沙也加さんがいい」という流れになって、スタッフ全員が同意したんです。その後いろいろあって、ギリギリまでユナ役を神田さんに決定できなかったのは、今となっては懐かしい思い出です。

――映画作品で監督をするのは初めてでしたが、いかがでしたか?
伊藤智彦作っている最中は、「映画とは何か?」という壮大なテーマにぶちあたっていたのですが、結局その結論は出ませんでした(笑)。細田守監督作品で助監督を2本(『時をかける少女』『サマーウォーズ』)やっていたので、「構造的に似せれば映画たるものが作れるのか」とか思いを馳せていたのですが、案の定わからずじまいです。そんなに簡単に答えが出るとも思ってはいませんでしたが(笑)。

エンタテインメントに必須の要素がすべてつまっている間口の広さ

――日本を代表する演出家であり、ヒットメイカーの細田監督ですが、助監督を務めた経緯を教えてください。
伊藤智彦現・スタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーから「細田監督の助監督をやらないか?」という話をいただいて、即決で「やります」って手をあげたのがきっかけですね。俺は、細田さんの『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』を観て衝撃を受けていた人間なので、そんな人と一緒に仕事をできる機会があるなら、一も二もなくやりたいと思いました。

――細田組の助監督をされてどんなことを得られましたか?
伊藤智彦細田監督はコンセプトをわかりやすく伝える方で、打ち合わせでは「この映画はこうです」という方向性を明確に示し、スタッフ全員の意識を統一してから始めます。そういう全体を指揮していくところは勉強になりました。制作過程の細かいところもいろいろありますが、挙げるとすると、反則すれすれの粘り方とか(笑)。映画に限らずアニメって、制作がここまできたら覆せませんという瞬間があるのですが、そこをまだ粘ってもいいんだということも学びましたね。

――本作はすごく映画らしい作品だなと感じましたが苦労された点はありますか?
伊藤智彦画的な部分は、物理的なものなので達成できた感覚はあるのですが、時間の流れとか、劇場そのものの空気感などはもっとやりようがあったのかなと今になって思う部分もあります。ただ、追求していくと際限がないものではあるので、次作に活かせればという気持ちです。

――先ほどはアニメファン以外にはリーチさせなくても……と話していましたが、興行が大きな広がりをみせているのも事実だと思います。「アニメはあまり観ないけど、ヒット作は気になる」という人たちが楽しめるポイントを教えてください。
伊藤智彦アクションあり、ラブあり、そして笑いも涙もちょっとずつあり、というエンタテインメントに必須の要素がすべてつまっているので、間口は広い作品かと思います。まあ、“主人公が強すぎる問題”に関して怪訝に思う方は、心やすらかに観ることができないと思いますが(笑)。気軽な気持ちでお店をのぞいてくださいという感じですかね。意外とどんな料理でもありますし、しかもそれほど不味くはない。なんでもある洋食屋というのが『ソードアート・オンライン』の作品イメージなのかな。
(文:磯部正和/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-

 2022年。天才プログラマー・茅場晶彦が開発した世界初のフルダイブ専用デバイス≪ナーヴギア≫――その革新的マシンはVR(仮想現実)世界に無限の可能性をもたらした。
 それから4年……。≪ナーヴギア≫の後継VRマシン≪アミュスフィア≫に対抗するように、ひとつの次世代ウェアラブル・マルチデバイスが発売された。
 ≪オーグマー≫。フルダイブ機能を排除した代わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた最先端マシン。≪オーグマー≫は覚醒状態で使用することができる安全性と利便性から瞬く間にユーザーへ広がっていった。
 その爆発的な広がりを牽引したのは、≪オーディナル・スケール(OS)≫と呼ばれる≪オーグマー≫専用ARMMO RPGだった。アスナたちもプレイするそのゲームに、キリトも参戦しようとするが……。

原作:川原 礫(電撃文庫刊)
監督:伊藤智彦
脚本:川原 礫 伊藤智彦
キャスト:松岡禎丞 戸松遥 伊藤かな恵 竹達彩奈 日高里菜 高垣彩陽 沢城みゆき 平田広明 安元洋貴 山寺宏一
神田沙也加 井上芳雄 鹿賀丈史
配給:アニプレックス
全国公開中
公式サイト:http://sao-movie.net/(外部サイト)
(C)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project
Sponsored by SAO MOVIE Project

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