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ミュージックビデオから「音楽ショートムービー」の時代

新たな音楽プロモーション・ツールか、コンテンツの創造か
「音楽ショートムービー」それぞれの目的と手法


 音楽プロモーションの一環として、楽曲の作品性に関連させた1つの完結した映像作品となるショートムービーを製作する手法が一般化しつつある。

 その背景には、配信や初回特典DVD付きCDの充実といったパッケージソフトの高付加価値化によって、レコード会社発の映像作品が人々の目に触れる機会が飛躍的に増加していることがあげられる。個々の事例を見ていくと、プロダクトごとの意図、手法は実に様々だ。以下、それぞれに異なる意図のもと、本格的なショートムービー製作を手掛ける3レーベルについてレポートする。

 
「リフレインが叫んでいる」


「恋、花火」
 映画やドラマの挿入歌の例をあげるまでもなく、情景を際立たせるために音楽は欠かせない要素のひとつだ。そして「逆もまたしかり」の発想で、このところ音楽プロモーションの一環としてショートムービーを製作する手法が目立っている。それもストーリー仕立てのPVといったものではなく、楽曲の世界観に関連させながらも、あくまで独立した映像作品として作られるものだ。昨年4月には、3月リリースのスピッツのベストアルバム『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』『CYCLE HIT 1997-2005〜』にインスパイアされて製作されたという宮崎あおい、西島秀俊主演の『海でのはなし。』がYahoo!動画で配信され、最近ではサイバーエージェント・グループのレーベル、CAM ENTERTAINMENTが新人、長瀬実夕主演のショートムービーを製作。11月21日に発売される長瀬の1stアルバム収録の全曲が流れるそのショートムービーが携帯電話を通じて配信されるが、一口に“音楽作品に関連させたショートムービー”といっても、その製作意図や公開方法は、プロダクトごと実に様々だ。

 EMIミュージック・ジャパンでは、10月24日にリリースされた松任谷由実のベスト盤『SEASONS COLOURS -秋冬撰曲集-』のプロモーションのメイン施策として、収録楽曲をモチーフとした映像作品をオムニバスで製作する“Yuming Films Project”を発足。新進気鋭の監督3名が15〜20分からなる作品を撮影し、現在、Yahoo!動画で無料配信中だ。

「ユーミンさんの楽曲に描かれる行動や情景は、とても映像的です。そこからフランス映画のような短編映画をイメージし、本プロジェクトが立ち上がりました」(TO社Capitol Music Co.宣伝部マーケティンググループ主任・上出修三氏)

 6月末、新進映像作家10数名に楽曲からインスピレーションを受けたスクリプトや企画を募集。40本ほど集まった中からコンペティションを行ない、最終的に選出されたのが、20〜30代前半の若い世代の作家3人だった。

「ベスト盤に収録されているのは70年代後期〜80年代の楽曲が中心ですから、恐らくリアルタイムで聴いている世代ではないと思います。しかし、彼らのような若い作家の解釈で映像化するほうが、むしろ楽曲の普遍性をアピールできるのでは、と考えました」(上出氏)

 本編の配信の前には、ケータイで20秒、Yahoo!動画で30秒の予告編を配信。また、東京・大阪の駅に貼り出されたポスターにはメインキャストである本仮屋ユイカ、多部未華子、塚本高史のキービジュアルが使われ、ベスト盤の告知はテキストでさらりと触れられているのみだ。

「曲は何となく知っているけど、CDは持っていないというグレーやホワイト層にも興味を持っていただくために、映画、それも無料配信というのは最適な機会だと思います。映画を観て、サントラを手に取るという行動を応用した仕掛けですね。また、評価の定まったタレントを使って話題性を呼ぶよりも、ドラマや映画で役者として認知されつつある若手キャストを起用することで、より映画としての作品性を立たせることを狙っています」(上出氏)

 現在のところはYahoo!動画での配信のみだが、地上波での放映も視野に入れているという。また、ベスト盤のリリースを機に発足したプロジェクトではあるが、この3本に終わらず、今後も不定期ではあるが映像作品を製作していく意向だ。

「今後はアルバムのリリースなどのタイミングに合わせて製作することが考えられます。作品が増えれば、DVD発売や劇場公開などにも展開できますから。黒澤明監督の作品群が“黒沢フィルムズ”と呼ばれるように、ゆくゆくは“ユーミンフィルムズ”という新しいカテゴリーとして確立したいですね」(上出氏)

ショートムービーの収録でパッケージを高付加価値化

 エイベックス・エンタテインメントでは、この9月にデビューした新人シンガー・ソングライター、奥村初音のデビュー曲「恋、花火」の世界をモチーフとした13分あまりのショートムービーを製作。本人はカメオ出演しているものの、ほとんど顔は出していない。

「デビューまで本人の露出は極力伏せていました。16歳という若さでクローズアップされるより、楽曲そのものの良さをお伝えしたいという狙いがありましたから。また、非常に物語性のある楽曲ですから、数分のPVよりもショートムービーという形のほうが、より作品の世界を理解していただけるだろうと」(AVT社第4制作部長代行兼芸能事業部担当部長・石森洋氏)また、9月にリリースされたAAAの3rdアルバム『AROUND』にはメンバー全員が出演するオリジナル・ショートムービー『鍵のある場所』が収録された。

「AAAのコンセプトは総合エンターテインメントであり、ライヴでミュージカルをやったり、個々に俳優活動もしています。今回のアルバムでは、彼らの役者の部分をよりアピールするためにショートムービーを収録しました」(石森氏)

 “アーティストの特徴を際立たせるためのショートムービー”という発想の映像作品は、鈴木亜美が数々のアーティストとコラボしたアルバム『コネッタ』(07年3月発売)や、夏木マリのアルバム『ジビエ・ド・マリ2』(07年7月発売)にも収録されている。夏木作品で特筆すべきは自身で監督・主演を務めている点だ。

「夏木さんのファンは、彼女の歌だけでなく、その生き方や存在感に憧れ、彼女が発するメッセージを求める人が多いんです。だから、あれだけライヴや舞台に人が集まるんですね。夏木マリの新たな提案として監督という挑戦を見せるのが、このショートムービーの狙いです」(石森氏) 

このように、アーティストや楽曲の特質によって狙いはさまざまながら、同社は映像作品の制作には非常に積極的だ。また、ショートムービーではないが、大塚愛のアルバム『LOVE PiECE』(07年9月発売)に、岩井俊二、堤幸彦の両監督によるミュージック・クリップが収録されたことも、同社が音楽と映像のシンクロに力を入れていることを示しているだろう。

 なお、これらのショートムービーはCDに特典DVDとしてパッケージされているのみ。『恋、花火』は“ショートショートフィルムフェスティバル2007 in OSAKA”でプレミア上映されたが、テレビ等で流れる楽曲のPVにはその短縮版が使われている。

「こうした発想への転機は、いわゆるDVD付き商品を出した頃です。世の中に流れているPVと、販売するDVDの中身は違ったほうがいいだろうと。つまり、パッケージの付加価値、購入者へのサービスです。そもそもCDって不思議な商品なんですよ。“売り物”をPVなどで、フルでお聴かせして、購入に誘導するわけですから。そうした中で、ショートムービーというのはプロモーションの新しい切り口になると思うんです。例えば奥村初音みたいなケースであれば、映画の公開時のように出演者がキャンペーンに回ったり、また予告編として機能するPVがあり、その集大成として映画がある、という商品提案も考えられます」(石森氏)

 近年、映像事業もますます盛んな同社だけに、今後もさらに音楽と映像が強く結びついた商品の開発に期待したい。

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