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ものまね界のディズニーランド『キサラ』 名物店長が語る26年の歴史とものまね界の隆盛

 コージー冨田原口あきまさはなわホリキンタロー。オードリー…、挙げていけばキリがないほど、数多くの売れっ子芸人たちを生み出したきたショーレストランが、東京・新宿のビルの一角にある。その名は『そっくり館(やかた)キサラ』。食べ放題とショーが堪能できる第1部と、飲み放題とショーを提供する第2部という形態で、夜6時から11時まで笑いを提供している。エレベーターを上がって、店の中に入ると「はい、KinKi Kidsさん入りました」「ももいろクローバーZさん入店です」と客の顔をほころばせる声かけをするのは、名物店長の川倉正一氏だ。同店が産声を上げてから丸26年。これまでの『キサラ』とものまね界について、川倉氏に話を聞いた。

『そっくり館(やかた)キサラ』の名物店長・川倉正一氏 (C)ORICON NewS inc.

『そっくり館(やかた)キサラ』の名物店長・川倉正一氏 (C)ORICON NewS inc.

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■ものまねが持つ“ポテンシャル” 低迷期を打開したイメージ改革とは?

 『キサラ』が開業したのは、1992年10月のこと。「今のウチの代表である児島純一郎社長のお父様が、もともと社長だった時代に月島の方に遊びに行ったら、ものまねのお店があったようで。『ものまねって面白いな』ということで、キサラを作ったと聞いています」。店名は、その前に同所にあった店と同じ「キサラ」を採用した。「だから、オーナーも『キサラ』の由来を知らなくて、私が独自で調べました(笑)。ギリシャ語で『人が集まる場所』という意味が、濃厚なのではないかという結論に落ち着いています」。

 川倉氏が『キサラ』の店長になったのは約10年前。「私の前の店長の方はすごく真面目で、よくオードリーさんを指導していたそうです。春日(俊彰)くんに『もう、やめろ』とか、若林(正恭)くんには『こんなやつと一緒にやっていてもダメだぞ』と言ったりして、こうした愛のムチを経てオードリーさんが大きくなっていったという話を聞いています。そして、本当にものまねが大好きな人でした」。そんな前店長から川倉氏が『キサラ』を引き継いだころ、店ではものまね以外にお笑い芸人のネタも披露していたが、店の人気には陰りが見え始めていた。そんな状況で、川倉氏は改めてものまねが持つポテンシャルに注目した。

 「こういうことを言っていいのかわからないのですが、私はあまりものまねのことを知らない状態で入ってきたので、ものまねというものが非常にいいショービジネスのツールだなと感じたんです。実際にプロのものまねを見た時に『こんなに楽しく老若男女、幅広い世代の方に楽しんでもらえる芸事ってない。これはすごい』と思ったので、店長として『お客さんに準備なく、ものまねを楽しんでもらう方向でやりたい』と提案しました」。

 店長になった川倉氏がこだわったのは、店内のイメージ改革。「歌舞伎町の近くの雑居ビルというと、どうしても怪しいと身構えられてしまう部分もありますし、ショーパブって言われるのは仕方ないんですけど、『エンターテインメントレストランとして楽しんでもらいたい』という気持ちがありました。本当におこがましいんですけど、ものまね界のディズニーランドとして、中に一歩入ると違うものが見える、バーチャルな世界で楽しめるという店にしたかった。そこで、試しにお客さまに入っていただく時に、複数人の女性の場合は『はい、AKB48さんが入られました』と言ってみたら、それがドカンとウケて(笑)。これをやることで、非現実的な空間の入り口になるなと思いました」。

■オードリーが確立させた『キサラ』人気 ものまね界の聖地化にも冷静「ここは通過点」

 もともと、コージーや原口といったテレビでも活躍している芸人がそろっていたが、幅広く『キサラ』の名前が幅広く広まるきっかけとなったのが、2008年の『M-1グランプリ』で敗者復活から彗星のごとく現れ、ズレ漫才で強烈なインパクトを残したオードリーだった。「その前にも、コージーさんをはじめ、まねだ聖子さん、はなわさん、ホリさんといった方もいらっしゃったのですが、オードリーさんがいろんなところで『キサラ』と言ってくれたのが大きかった」と川倉氏は振り返る。04年には、フジテレビ系バラエティー番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』で「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」がスタート。この効果も大きかったようだ。

 「『細かすぎて〜』では、古賀シュウさんに活躍していただいて(笑)。出てくると『ほら、キサラ軍団が来たよ』みたいにおっしゃっていただきました(笑)。貴さん(石橋貴明)も、お忍びで『キサラ』に来ていただいたこともありましたね。藤原竜也さんも来てくれたことがあったのですが、ウチには藤原さんのものまね軍団がいるので、その後に本人が来ていることを紹介しても、お客さまが『わーめちゃくちゃ似ている』って気づかなくて(笑)。そこはバーチャルな空間だからこそのやりとりだなと思いました」。

 こうしたことが後押しとなって、『キサラ』人気は一気に確立されていく。「昔は『早くキサラを卒業したい』という芸人さんが多かったみたいです。要はショーパブで、水っぽくて、酔っぱらいの前でやるのは嫌だと。今は逆に名前が売れてきて『キサラに入るのが夢だった』という芸人さんが増えてきていますね。私は正直、それがあんまりいいことだと思わなくて、ここは通過点でいいんじゃないと、『ここをゴールにしたら小さくないか』ということはよく伝えています」。今では、キサラの舞台を夢見る志望者が多く訪れている。「毎月オーディションをやっているのですが、だいたい20人くらい来ています。その中から1人で受かるかどうかという感じなのですが、この前は5人くらいが来て3人に入っていただくことになりました。素人の方も本当にさまざまなタイプがいて、オーディションは面白いです」。志望者たちに共通している部分があるという。

 「ものまね自体がブームになっているので、“ものまねのものまね”になっている方が多いのと、青木隆治さんとか荒牧陽子さんが出るようになってから、歌まねで勝負する人が多くなりました。ただ、歌まねはよっぽどうまくないと難しいですね。お客さんは、まず見た目で入るので。誰かに似ていて、全く違う声になるんだったら面白いんですけど…。審査の基準は、私の場合は似ていることにプラスして面白いかどうか。『面白いけど、似てない』っていうのも笑いになりますから」。

■バランス意識したショータイムの構成 ものまね界の新星への期待「骨のある人が増えるとうれしい」

 こうした厳しいオーディションを勝ち抜いてきた新星からレジェンドまで、幅広いものまね芸人が顔をそろえる“ものまねの聖地”では、どういったラインナップでショーを行っているのだろうか。川倉氏がおもむろに“門外不出のキャスティング表”を取り出した。「実はこれ、ジャンルで分かれているんです。そっくりさんコーナー、ものまねさん、歌が中心の方、お笑い寄りのものまね。それぞれから1人ずつ入れていくと、その日のバランスが良くなっていくんです。最初にそっくりさんで、はいこういう人がいますよってにぎやかになった後に歌まねさんが入る。それで歌ばっかりだとってなると、お笑いっぽいものをやってもらって、トリという流れです。その中にスパイスとして、フラッシュものまね、出オチの方がいます。例えば、ガリガリ君のそっくりさん。暗転で立っていてもらって、パッと明かりがついて、一瞬で消えておしまい。それだけのために入ってもらうんです。だから、時給は一番高いです(笑)」。川倉氏の光る采配で、店内は毎回笑いの渦に包まれる。

 「ショータイムは、常には全体を通した構成として考えています。予約状況である程度の傾向は見えてきて、土曜日は全国からお客様がいらっしゃるので、そういった方でもわかりやすいような王道のネタをそろえる、金曜日は会社帰りの方が多いから、洗練されたものをそろえる、ということは意識してやっています。刺激はいつも欲しいので、なで肩にならないようにしながら、その芸人さんの特性を生かしたものでやっていきたいなと。それでも、政治、病気、宗教といった3大禁止用語みたいなものや、飲食店だから衛生は大切にしてもらってというのはありますが、そういう常識的なところを守ってもらったら、あとは自由にという感じです」。

 最近では、和田アキ子のものまねでブレイク中のMr.シャチホコも『キサラ』の舞台に上がっている。「シャチホコくんも、もともとミスチルものまねでウチに入ったのですが、そこから和田アキ子さんのしゃべりものまねという、意外と気付きそうで気づかなかった部分に、若くして注目したのはすごい。ただ、実はあのネタを『キサラ』でやっても、お客さんはポカンしちゃう。『で、君は何をする人なの?』というフレーズは、テレビでやると周りの方から「それ言うよね」というツッコミがあって、それによって笑いが起こるんです。かといって、舞台で箇条書きにして『和田アキ子さんが言いそうなこと』というフリでやってもウケないと思うので、テレビ向きのネタなのかなという気はします」。

 舞台裏には、文字通り「膝を突き合わせる」ほどの狭さの楽屋があり、そこに新人からベテランまでが控えている。「新人が入って来た時は、まねださんやコージーさんが出ている時にぶつけています。まねださんは『その人をどうそっくりにするのか』という観点で見ていらっしゃるので、新人さんに対しても『この人に顔が似ているから、このネタができるんじゃないの』ってアドバイスをしてくださっています。コージーさんも職人気質で、新人さんには『〇〇のものまねやります、と言うのではなくて、ものまねしながらわかってもらえるようなものを目指しなさい』とおっしゃっているようです。そこから新しいものまねが生まれたり、芸人さん同士のコラボネタができたりしています。ものまねが大好きな才能の塊が多いですから、次々と『じゃあ、これも』という感じの雰囲気があります」。この控室が、ものまね芸の伝承の場としても機能している。

 数々の売れっ子ものまね芸人を輩出している『キサラ』を束ねる川倉氏は、これまでの“ものまね界”の歴史をどう捉えているのだろう。「独自で勉強してみたのですが、最初にブームが始まったのは、やはりコロッケさん、栗田貫一さんといった“ものまね四天王”の時代ですね。あの時代はどちらかというと、いわゆるデフォルメものまねから始まって、その後にコージーさん、原口さんといった精巧なリアルものまねがやってくる。それから、青木隆治さんに代表される歌ものまね、『細かすぎて〜』のものまね、長州小力さんのような動きがあるものまね、ハリウッドザコシショウの誇張しすぎたものまねといったように、入り乱れるように次々と新しい潮流が生まれてきているなと感じます。『キサラ』としては、オーディションなどを通して新しい方に入っていただきながら、新たな流行を作っていく側としてやっていかなればという思いはあります」。

 最後に、これからのものまね界を担っていく新人に期待することを聞いた。「ウチをゴールと見る人が多いのですが、そうではなくて『オレがものまね業界を変えてやる』くらいの骨のある人が増えるとうれしいですね。ここには、ある程度のノウハウや秘密が詰まっていると思うので、そこに気付いて、誰もやったことのないようなものまねで新しい時代を作ってもらいたい。『キサラ』には、たまに古巣に帰ってきて、出てもらうくらいがちょうどいいいです(笑)」。ものまね界の最前線をひた走る『キサラ』のショータイムはどうなっているのか。16日朝配信の後半記事では、潜入取材からその魅力を探る。

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  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の名物店長・川倉正一氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の香盤表 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の店内 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の店内 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の店内 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の店内 (C)ORICON NewS inc.
  • 『そっくり館(やかた)キサラ』の名物店長・川倉正一氏 (C)ORICON NewS inc.

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