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水道橋博士、新刊執筆で広がった作家としての幅 石原慎太郎への失望も吐露

水道橋博士インタビュー(上)
 
 お笑い芸人・水道橋博士(54)が、待望の新刊『はかせのはなし』(KADOKAWA)を17日に発売する。これまでに『お笑い男の星座』(著書は浅草キッド名義)や『藝人春秋』など、芸能界で強烈な個性を発揮する“星”たちの織りなす“星座”のような人物伝を上梓してきたが、新作はこれまでとは一線を画する「地方出身者が上京した後、取材で得た知識や感想でつむぐ東京見聞録」であり、「三児の父親の子育て奮闘記」だ。なぜ、このタイミングでこの本を書き上げたのか。その真意を聞いてみた。

新刊『はかせのはなし』を上梓した水道橋博士 (C)ORICON NewS inc.

新刊『はかせのはなし』を上梓した水道橋博士 (C)ORICON NewS inc.

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■作家としての幅を広げた、初めての女性と子供に向けた作品

 本書は、東京都が発行する広報紙『広報東京都』で2009年4月から14年2月まで連載されたエッセイを全面修正し、大幅加筆してまとめた書籍。連載のきっかけは、当時の都知事・石原慎太郎氏からのオファーだった。「テレビで共演していた石原さんからの直々の指名で始めた連載だから、もし本にするなら石原さんとの対談を最終章に入れるという構想があった。でもそれが流れてしまった。結果的に本人に拒否されてしまい……」。

 柱となる対談が流れたことで、全体の構成変更を決意。もともとこのエッセイは、幅広い人に読んでもらうことを想定し、文末の表現を「ですます」、一人称を「ぼく」にするなど“柔らかい”文体となっていた。これを端緒に、挿絵をふんだんに採用し、活字の負荷を低くして、普段あまり本を読まない人にも「一冊を読みきった」という体験を味わってもらうことを目指すことに。挿絵を担当したのは、消しゴム版画家兼イラストレーターのとみこはん。かつて、浅草キッドのマネージャーを務めた女性だ。

 「原文から漢字のひらきを増やしたり、文体を変えたり細かい修正をたくさん入れました。自分にとって新しい試みになったので時間はかかったけど、結果的にこういう形で生み出されて、良かったと思います。最初は東京案内のムック的な内容にするつもりで、情報の補足のため注釈も入れていったけど、途中からエッセイ要素を強くしたいという意向が出てきたので、逆に注釈を減らしたりしました。これを完成させたことで、おこがましい言い方だけど、自分の物書きとしての幅が確実に広がった気がします。これで次回作『藝人春秋2(仮)』に進めるぞ、と。こちらはガチガチの硬派な文体なので」。

 取材者が本書の感想として「東京で子育てをしていく夫婦のための教科書」と伝えると「ありがたいです。僕が望んでいる正しい読み方。まさにそのように読んでほしい」と笑顔を見せた。「東京で子育てしていくなかで、さまざまな困難や制度の問題に直面し、どう戸惑うのか、リアルに書いている。ま、カミさんに言わせれば『アナタは何もしていない。キレイごとばっかり書きやがって』って怒られるだろうけど(笑)」。

 長男の中学受験についてのエッセイでは、「小学生の頃は勉強よりも遊び」という父の“ゆとり”的な考え、小学5年生になって突然中学受験を目指した息子の奮闘する姿、それを支える家族のサポート体制、そしてその結果までをドラマティックに表現。さらに、中学受験についての賛否両論のジャーナリスティックな意見も取り入れ、「東京特有の競争社会の縮図」に親という立場で関わり、考えたことをまとめている。中学受験にまったく興味がない人でも、東京には縁のない人でも、一読してけっして損のない出色の出来栄えだ。

■ただの「家族団らん話」ではない 背景にあるのは巨大な星・石原慎太郎

 濃厚な男たちの熱い物語を記してきたこれまでの著書のファンの中には、“父親”としての博士の著書に物足りなさを覚える人もいるだろうし、「家族の団らんなんて書いて、ガッカリした」という声もあるだろう。しかし博士は「そういう反響があってもいい」とゆっくり語る。その自信は、本書の裏テーマにあるのが、日本で最大級の濃度を持つ男・石原慎太郎を巡る物語であるからだ。

 そもそも連載のきっかけは、作家で詩人そして格闘技イベント「PRIDE」のプロデューサーだった百瀬博教さんの文庫の解説文を博士が執筆し、百瀬氏と浅からぬ因縁のある石原氏がその文を読み、博士の文才を絶賛したことだった。当時はテレビ番組でも共演しており、まさに“蜜月”ともいえる関係だったが、連載から2年ほどたったある日、石原氏が都知事定例会見で博士の文章を「つまらない」と批判。その会見を偶然にも博士が見ていたこともあり、その頃を境に二人の心が離れていく過程が浮かび上がってくる。

 「石原慎太郎さんが僕に書いてほしかったエッセイがどんなものか、僕はわかっているんです。石原さんが産経新聞のコラムに書いていたような、日本や東京がいかに勇ましくて強いのかという国家論や都市論の話なんだろう。だけど僕は『ですます』調の文体で、身近な子育てエピソードや市井の人々に光を当てるようなことを書くから、それは『つまらない』っていう感想になる。でも僕は、あなたみたいに他人を威圧したり、弱者を切り捨てるような考え方はできないんです。結局、そこは考え方が違うとしか言いようがない。こうやって自分は、人を信頼して、そしてガッカリしていくんだという心境が出ていて、その点でも面白い本ですよ、そして石原慎太郎論はこれからも書いていくから、その第ゼロ章でもあるんです」

 博士はこれまで、男の星座を巡るサーガ(壮大な大河物語)を書に記して伝えていく“語り部”となることをライフワークとしてきた。『はかせのはなし』は女性や子供向けに書かれており、この本単独でも十分な面白さがあるが、サーガの中ではこれまでの著作や今後出版される予定の『百瀬博教評伝』などとリンクしていく物語である。文に秘められた背景を読み解くことで、さらなる奥深さと輝きを感じることができるのだ。

 「ここ数年は次回作が書けないスランプだったけど、今年は芸人だけでなくライターとしての自分を自覚的にとらえて、文字と真剣に向き合おうと決意した。まず、取り組んだのが春日太一氏の名著『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』の解説文。これ以上絞っても何も出ないというくらい心血を注いで、その著者のすべての著作が読みたくなる、次回作が絶対読みたくなる理想の文庫解説を書くと宣言して、春日太一のすべての著作や論文を読み、3ヶ月で合計70稿までいって書き上げた。これが書けたから『はかせのはなし』が書けたし、次につながる作品も書けるようになる」

 現在は、『週刊文春』で2013年から1年間連載された『週刊藝人春秋』を書籍化する『藝人春秋2(仮)』、この発売に合わせて『週刊文春』誌上で再始動する予定の連載50回分の原稿、『新潮45』で始めると約束している百瀬博教氏の評伝、ライターの茂田浩司氏と取り組む腰痛に関する共著、そして自身が編集長を務めるメルマガ『水道橋博士のメルマ旬報』で連載中の日記(月3回の発行で毎号平均3万文字)と、専業作家以上に文章と向き合っている。体調を気遣う言葉をかけると「もともとワーカホリックだし、充実しているから、体も脳みそもそんなに疲れは感じない。持病の腰が心配だけど、運動もしてるし、きょうもさっきまでサウナに行ってたし」と笑顔を見せた。

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