• ホーム
  • 映画
  • 押井守監督がアニメを作らなくなった理由「一緒に作る職人がいない」

押井守監督がアニメを作らなくなった理由「一緒に作る職人がいない」

 独特の世界観と映像美で世界を魅了する押井守監督と、そんな鬼才に多大な影響を受けたと語る、日本伝統文化を再構築するクリエイティブディレクターの丸若裕俊氏。世界を股にかけて活動するアニメ界と伝統文化界のクリエイターの異色対談が実現。それぞれの業界に共通する職人との仕事とは?

◆『攻殻機動隊』は伝統工芸の世界に通じるものがある(丸若裕俊)

【丸若裕俊】 僕は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)に非常に大きな影響を受けていまして、今までに100回以上は観ていますが、伝統工芸の世界に通じるものがあると思っているんです。

【押井守】 ありがとうございます。それはおもしろいですね。僕は工芸品が好きなんですよ。美術作品だとなかなかとっつきにくいというか。やはりふだん使っているグラスやお茶碗、皿、ハサミだったり、そういったものの延長で表現をされると、分かりやすい。おもしろいなと感じるんです。

【丸若裕俊】 工芸品は道具ですからね。

【押井守】 道具の世界には独特の合理性がありますから。でも、オブジェになるとあまりにも自由で、何を基準にしようとしているのか分からない。それは映画の映像もそう。ある程度、自分たちの日常につながっている部分がなくてはいけない。あまりにもぶっとんだ表現だと、すごいなと思っても、あまり魅力を感じないんですよ。

【丸若裕俊】 押井さんの作品を観ていて感じるのはそういうリアリティなんですよね。

【押井守】 ところで伝統芸能に関わっている人たちって一般的に古い考えの人が多いじゃないですか。いわゆる職人に、パトロンや旦那衆がいるわけですが、新しいことをやろうとすることに対して、あつれきが生じたりはしませんか?

【丸若裕俊】 それはすごくあります。そういうとき、職人さんたちには「丸若に言われたからしょうがなく作ったんだ」と僕を悪者にしてくださいと言っています。そうすることで職人同士の摩擦を少なくしながら、日本の伝統工芸のために今の時代にやるべきことを僕なりに提案しています。
 伝統工芸とは、何百年も続いている世界なんですが、実際に伝統的なものを作っている現代の職人は、コンビニに行くし、携帯電話も持つし、インターネットだって使う。すごく不思議なタイムレスな感覚とそこに生まれる価値があって、そういったところに魅了されました。その世界に気付かせてもらったきっかけが、押井さんの作品だったんです。中学3年生くらいの頃に、テレビCMでたまたま目に入ってきた『攻殻機動隊』の映像に心を奪われました。その頃はまだネットがなかったので、今のは何だったんだろうと本屋で必死に調べた記憶があります。

◆今の若い世代は破滅的な仕事の仕方はしたがらない(押井守)

【押井守】 アニメ作りも職人の世界です。とにかく彼らは偏屈だし、言うことを聞かなくて気難しい(笑)。自分のパートを120%完璧にやりたいと思うものなんだけど、それをやらせると作品が破滅の道に向かってしまうので、90%でいいじゃないと。「そろそろ出してよ」って言いながら、なだめたり、すかしたり。最後には「出せよ、この野郎」と脅したりして(笑)。そういう世界ですよ。
 ただ、国内ではそういう精度が高い仕事ができるのは、おそらく業界全体の5%以下くらい。今の若い世代は個人主義になってきているし、画はうまくなって世の中の評価は受けたいけれども、上の世代のおやじたちみたいな破滅的な仕事の仕方はしたがらなくなりました。僕がアニメを作らなくなっている最大の理由は、一緒にやってくれる人間がいなくなってきているから。そういう職人は全体から見れば滅びつつあります。

【丸若裕俊】 そうなんですか。アニメ界って、まさに寝食を忘れて物作りに没頭する職人たちが集まった世界のような印象がありました。キツイ職業ではあるんだろうなと想像していましたが、それでもそこに打ち込む熱い気持ちがあって人生をぶつけているといいますか……。

【押井守】 僕がやってきたことは宮大工みたいなところがあって。職人が作ってきたパーツを集めて、それを組み立てて作品を作っていくということ。一方、テレビでやっているようなアニメは建売住宅みたいなもの。そういう意味では、やっていることが少し違うんですよ。ただ職人にとって、何か新しいことをやろうというのは過去の自分を否定することだから。例えば『攻殻機動隊』のときにやったのが、デジタルのCGを導入することでした。手描きアニメの時代はデジタルが敵だと思われていて、とにかく職人たちを説得しました。それに乗る人もいたし、新しいことをやりたがらない人もいました。だから一緒に組む職人がどういう仕事をするのか見極めることも大事。そのために一緒に酒を飲んだり、“事情通”に話を聞いたりもします。「あの作品のあのパートはすごかったけど誰が描いたの?」と聞くと、「実はあれを作った人はクレジットとは違っていて、作画監督がすべて直している」とか。そういう裏の裏まで調べないと、仕事を発注した後で痛い目に遭うんです。だからアニメ監督というのは、プロデューサーみたいなところはあると思います。
(文:壬生智裕)



オリコントピックス