作品に携わるたびに演じる人物の内に秘める想いを、静かに、しかし強烈に表現してしまう不思議な俳優・松田龍平。役を人間くさく魅力的にする松田に、最新主演映画『モヒカン故郷に帰る』で演じた父と息子の関係を聞くと、故・松田優作さんと自身の父子の関係性についても思いを馳せながら静かに語ってくれた。
◆いい緊張感があった柄本明さんとの父子シーン
――今作はファーストシーンがライブのシーンとは、粋な演出ですね! 今回初めてタッグを組んだ、沖田監督の演出はいかがでしたか?
【松田】 あまり細かく芝居をつける感じではないのですが、かといって自由にやってくださいってことでもない。だからこそ、沖田さんがいいなって思っていることは何だろう? って、すごく感じようと思っていました。それが楽しかったですね。とにかく「もう1回いいっすか?」って何回か撮るんですけど、(現場の)居心地がよかったから、何回でもやりたいって思っていましたね。
――とくに印象に残っているシーンは?
【松田】 中学校の音楽室で指揮をするところは楽しかったですね。野呂くんと清水さん以外の吹奏楽部員はみんな役者ではなく、撮影した島の中学生たちだったんですけど、指揮の途中で永吉がリズムを変えるとか、そういうことを全く知らせずに、ぶっつけ本番で彼女たちのリアクションを撮りたいという監督の狙いがあったから、秘密裏に作戦を立てて。あのシーンの撮影までは、ほとんど彼女たちと会っていなかったので、モヒカンのツンツンした人がいきなり(音楽室に)来て、テキトーに指揮し始めたときの、素のリアクションはおもしろかったですね(笑)。
――柄本明さんふんする、父親とのシーンはいかがでしたか?
【松田】 (妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を連れて)7年ぶりに再会するシーンで、いきなり殴られるところは緊張しました。柄本さんとの撮影1日目だったので、いい緊張感もあって。でももう30(歳)も過ぎると“父親って、こんなに小さかったっけ?”って、そういうことに気づいて、関係性が父と息子じゃなく、少し男同士になっていくみたいな感じがありますよね。そんなちょっと拍子抜けした感じもありました。
――老いていく父とそれを見守る息子の間には、たしかに男同士の優しさや切なさを帯びていった印象を受けました。ところで拍子抜けといえば、永吉がお父さんに大芝居を打つ直前、暗がりのなかでひとり、何を飲んでいたんですか?
【松田】 お茶です。お茶を飲んで、ちょっとひと息ついてから“よし、いくか!”みたいな感じです(笑)。
――お酒ではなく、お茶というところにもまた、永吉の可愛げが漂いますね。改めて、あたたかみの感じるカットだなあと。
【松田】 実はあの(芝居を打った)あと、父親のまさかのリアクションに驚いて、外に逃げ出した永吉が寒さでガタガタ震えているっていうシーンも撮ったんです。そのシーンはカットされていたので、目では見えないけど(完成作を観ると)うまいこと編集されていて、その余韻みたいなものは残っているなと思いました。
◆その役によって自分がどんな気持ちになるかという欲が強い
――今作をはじめ、松田さんが作品の参加を考えるとき、世代を超えて誰もが楽しめる作品に惹かれるところはありますか?
【松田】 その役をやることによって、自分がどんな気持ちになるか? という欲の方が強いのかもしれない。例えば俺がいま前を向いて生きていきたいから、そういう役をやりたいということではなく、その役をやることでどんな影響を受けるのか、自分のなかでどんなことが起きるのか? という興味の方が強いというのか。
――そういう意味では、今作のどんなところに魅かれたのでしょう?
【松田】 パワフルな役だから、俺自身、永吉を演じて元気をもらいましたね。自信のある人じゃないですか(笑)。永吉っていいなあと純粋に思いました。
―― 一瞬いそう思うけど、本当は絶対にいない、松田さん独特のリアリズムの枠に捕らわれない、自由な人物像がいきいきと映し出されています。沖田映画らしい作品の世界観については、どんな印象を抱かれましたか?
【松田】 映画はフィクションなので、どこかやっぱり夢を見たいなって俺も思うし。映画のなかで、心地のいい夢を体験したいなって思いは、漠然とあります。この映画も、父親の最期といい、病院のなかの結婚式もノスタルジックだし、外の雨も妙な雰囲気で……。みんなの記憶に残っている思い出と、実際に起こったことが違っていたりすることってあるじゃないですか? そういう感覚を映画にしていくって、すごく素敵だなって思います。どこかファンタジーというか……そういうのが好きですね。
(文:石村加奈)
◆いい緊張感があった柄本明さんとの父子シーン
――今作はファーストシーンがライブのシーンとは、粋な演出ですね! 今回初めてタッグを組んだ、沖田監督の演出はいかがでしたか?
【松田】 あまり細かく芝居をつける感じではないのですが、かといって自由にやってくださいってことでもない。だからこそ、沖田さんがいいなって思っていることは何だろう? って、すごく感じようと思っていました。それが楽しかったですね。とにかく「もう1回いいっすか?」って何回か撮るんですけど、(現場の)居心地がよかったから、何回でもやりたいって思っていましたね。
――とくに印象に残っているシーンは?
【松田】 中学校の音楽室で指揮をするところは楽しかったですね。野呂くんと清水さん以外の吹奏楽部員はみんな役者ではなく、撮影した島の中学生たちだったんですけど、指揮の途中で永吉がリズムを変えるとか、そういうことを全く知らせずに、ぶっつけ本番で彼女たちのリアクションを撮りたいという監督の狙いがあったから、秘密裏に作戦を立てて。あのシーンの撮影までは、ほとんど彼女たちと会っていなかったので、モヒカンのツンツンした人がいきなり(音楽室に)来て、テキトーに指揮し始めたときの、素のリアクションはおもしろかったですね(笑)。
――柄本明さんふんする、父親とのシーンはいかがでしたか?
【松田】 (妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を連れて)7年ぶりに再会するシーンで、いきなり殴られるところは緊張しました。柄本さんとの撮影1日目だったので、いい緊張感もあって。でももう30(歳)も過ぎると“父親って、こんなに小さかったっけ?”って、そういうことに気づいて、関係性が父と息子じゃなく、少し男同士になっていくみたいな感じがありますよね。そんなちょっと拍子抜けした感じもありました。
――老いていく父とそれを見守る息子の間には、たしかに男同士の優しさや切なさを帯びていった印象を受けました。ところで拍子抜けといえば、永吉がお父さんに大芝居を打つ直前、暗がりのなかでひとり、何を飲んでいたんですか?
【松田】 お茶です。お茶を飲んで、ちょっとひと息ついてから“よし、いくか!”みたいな感じです(笑)。
――お酒ではなく、お茶というところにもまた、永吉の可愛げが漂いますね。改めて、あたたかみの感じるカットだなあと。
【松田】 実はあの(芝居を打った)あと、父親のまさかのリアクションに驚いて、外に逃げ出した永吉が寒さでガタガタ震えているっていうシーンも撮ったんです。そのシーンはカットされていたので、目では見えないけど(完成作を観ると)うまいこと編集されていて、その余韻みたいなものは残っているなと思いました。
◆その役によって自分がどんな気持ちになるかという欲が強い
――今作をはじめ、松田さんが作品の参加を考えるとき、世代を超えて誰もが楽しめる作品に惹かれるところはありますか?
【松田】 その役をやることによって、自分がどんな気持ちになるか? という欲の方が強いのかもしれない。例えば俺がいま前を向いて生きていきたいから、そういう役をやりたいということではなく、その役をやることでどんな影響を受けるのか、自分のなかでどんなことが起きるのか? という興味の方が強いというのか。
――そういう意味では、今作のどんなところに魅かれたのでしょう?
【松田】 パワフルな役だから、俺自身、永吉を演じて元気をもらいましたね。自信のある人じゃないですか(笑)。永吉っていいなあと純粋に思いました。
―― 一瞬いそう思うけど、本当は絶対にいない、松田さん独特のリアリズムの枠に捕らわれない、自由な人物像がいきいきと映し出されています。沖田映画らしい作品の世界観については、どんな印象を抱かれましたか?
【松田】 映画はフィクションなので、どこかやっぱり夢を見たいなって俺も思うし。映画のなかで、心地のいい夢を体験したいなって思いは、漠然とあります。この映画も、父親の最期といい、病院のなかの結婚式もノスタルジックだし、外の雨も妙な雰囲気で……。みんなの記憶に残っている思い出と、実際に起こったことが違っていたりすることってあるじゃないですか? そういう感覚を映画にしていくって、すごく素敵だなって思います。どこかファンタジーというか……そういうのが好きですね。
(文:石村加奈)
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2016/04/14