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「日本人の美徳」持った人気キャラたち、海外進出でも“曖昧さ”貫く真意とは? メーカーに聞く

 2023年に誕生20周年を迎えた人気キャラクターの「リラックマ」。昨年、アメリカで初の周遊ツアーに加え、韓国や台湾などアジア圏でのポップアップイベントも敢行し、海外ファンも拡大しているという。近年、日本のアニメやマンガが高く評価され、キャラクタービジネスにも追い風が吹いているが、世界進出にあたっては、日本ならではの世界観が理解されづらい点もあるという。「リラックマ」や「すみっコぐらし」など、国内では世代問わず親しまれているキャラクターを輩出しているサンエックスに、人気キャラの海外進出における課題を聞いた。

北米市場を皮切りにアジア圏でも続々進出、リラックマコスプレの熱狂的ファンも

 2003年にグッズの販売が開始され、昨年誕生20周年を迎えたリラックマ。ほんわかして癒される見た目とは裏腹に、背中にはファスナーがあり、着ぐるみのクマの中身は秘密というミステリアスさも。移り変わりの激しい市場でも、長年愛され続けている。

 昨年6月には、約1ヵ月かけてアメリカを周遊するツアーを敢行。全面にリラックマが描かれたラッピングトラックが、ニューアーク、ダラス、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、シカゴの6都市を周り、期間限定のポップアップショップを展開。ツアー用に開設されたインスタグラムの情報解禁では、動画が11万回以上再生され、大きな反響を呼んだ。
「初日のニューアークは、会場のオープン前に約300人の待機列ができて、リラックマのグッズや、自作の衣装を身につけた現地ファンの方たちがたくさん訪れてくださいました。カナダやメキシコなど遠方から来てくださった方もいて、熱気を感じるイベントになりましたね」(サンエックス海外事業部・担当者/以下同)

 WEBサイトやSNSを通じて知ったキャラクターのグッズが実際に手に取れると、各都市限定で販売されたシリアルナンバー入りのぬいぐるみは午前中で完売。他にもイベント用にデザインを描き起こした文具やマグカップ、衣類など計42アイテムを作成し、ツアーの地図がプリントされたTシャツやトートバッグ、Gジャンなども人気を集めたそうだ。

 デザインは、ぬいぐるみの左右の耳を星条旗の柄にしたり、目の色をブルーやレッドにしたりと、限定感を意識。一方で、「まだリラックマを知らない方も大勢いる」と、スタンダードなデザインも取り入れた。ラッピングトラックの外装や内装も、焦げ茶色の線でしっかりとキャラクターを縁取りし、全体像がしっかりと伝わるように工夫を凝らしたそうだ。

 アメリカでの成功を経て、昨年末には韓国と台湾でもポップアップショップを実施。コロナ禍が明けたことも後押しし、着々と海外での認知が広がっている状況だ。

支持されるデザインや色合いも国によってさまざま…でも、キャラの世界観は変えない「謙虚さや反省する様も好きになってほしい」

 同社は、リラックマ以外にも、こげぱんやアフロ犬、たれぱんだ、すみっコぐらしと、数々の人気キャラクターを生み出してきた。創業は1932年(昭和7年)まで遡り、海外展開は40年ほど前から手掛けている。台湾や香港などアジアの限られた地域での物販が先行して始まり、その10年後の約30年前から海外ライセンス展開もスタートさせた。

 リラックマも、早い段階からアジア圏を皮切りに展開。2014年にはニューヨークの有名なおもちゃ店『FAOシュワルツ』でポップアップショップを開催したことも。以降、徐々に北米での認知も高めていく。

 2019年にはNetflixでアニメ『リラックマとカオルさん』が配信され、世界190カ国で視聴可能になったことも認知拡大を後押し。当初、大人の視聴者を意識して作成したアニメ作品だったが、海外では子どもからも人気に。2022年に配信された『リラックマと遊園地』は、国際エミー賞キッズアワードにノミネートされている。

 世界展開が進むにつれ、国によって好まれる色やデザイン、キャラクターの違いも明らかになってきたと同社の担当者は言う。台湾はシンプルめなデザイン、韓国では白くてフワフワした“コリラックマ”が人気、海に囲まれているシンガポールでは、“じんべえさん”のような海に関係するキャラクターと、趣味嗜好が異なると感じるそうだ。

 そのため、海外での商品展開では国内では立案されない色や衣装も。サイズ感も、日本ではバッグにつける小さいサイズが人気だが、海外では両手で抱えられるMサイズを多く展開するなど、好みに合わせて変化させている。ただ、色や衣装は変えても、キャラクターそのものの世界観やデザインは変えないのが同社のポリシー。

「リラックマもそうですが、日本人の美徳が反映されたキャラクターが“サンエックスらしさ”の一つ。そこを変えることは考えていません。謙虚だったり、反省してみたり、そんなキャラクターのメッセージや世界観そのものを海外の方にも好きになってほしいです」

キャラクターが謙虚や自虐だって!? 海外では理解されづらい“曖昧さ”という魅力

 昨今、日本のアニメやマンガ、サブカルの浸透により、日本の“KAWAII”文化を受け入れる土台は着々と作られている。そうした日本のキャラクターを好きになり商品を買ってくれる海外ファンも多いが、“真の世界観”を理解してもらうには、まだまだ課題も多い。

 アジア圏では、日本に近しい感覚を持っているのか、世界観ごと受け入れた上でキャラクターのファンになってくれている印象だという。一方で、欧米ではなかなかすべての世界観を理解していただいている、という段階までいけていないのが現状だ。

 例えば、2012年の発売以来、日本で着実に人気を伸ばしている“すみっコぐらし”も、海外への周知が難しいキャラクターのひとつ。

「例えば『電車ですみっコにいたい』『喫茶店でもすみっこにいたい』などのちょっとした内向的な思いや、キャラクターの特徴でもある『自分が何者か分からない』『食べ残された残り物』など。少しネガティブにも捉えられる曖昧な部分に関しては、ストレートに受け入れていただくのには時間がかかってしまうのかな、と感じる国もあります」

 世界観を丸ごと受け止める日本のファンと違って、海外、特に欧米ではどうしてもニュアンスが伝わりづらい部分がディスアドバンテージに。同社のキャラクターは、名前もそのままローマ字に置き換えており、すみっコぐらしでは「Neko」「Tokage」「Tonkatsu」など日本語のまま。社内でキャラクター名を変えるかどうかという議論も出たそうだが、“世界観をそのまま受け取ってもらいたい”という信念のもと、ローマ字表記での展開を継続中だ。

「癒しと言えばリラックマ」世界の共通認識にしていきたい

  • リラックマと一緒に写真を撮る現地ファン

    リラックマと一緒に写真を撮る現地ファン

 日本でリラックマが人気の理由を聞いてみると“共感性”と同社は言う。
「『元気はつらつ!いつもあなたを応援するよ!』という性格よりは、いつでもそっとその方自身に寄り添って、ホッとできる居場所のようなキャラクターであることが特徴で、そこが日本で多くの方に受け入れていただいていると思っています」

 海外でもリラックマに関しては「RELAX」というキーワードがわかりやすく、比較的浸透はしやすい。忙しすぎる毎日をリラックマに癒してもらうなど、コンセプトに共感して好まれる傾向も。そのため、どのキャラクターも、まだまだ伸びしろがあると期待を寄せる。

「日本人の内向的な考え方・日本人精神と思われている部分は、実は、国や地域は違くとも、誰しも少しは持っている部分なのかもしれない、と感じます。そんな自分に寄り添ってくれるキャラクターは、逆に日本以外の地域ではあまりないのではないでしょうか。『他にはないサンエックスキャラクターならではのもの』として、共感し喜んでいただいているのは共通する嗜好かもしれません」 

 これまでの世界各地での認知拡大を通して、BtoCイベント、SNS、現地ライセンス商品化・プロモーションの拡充など、今後も海外展開で力を入れていきたい分野はたくさんあるという。

「どれか一つだけを突出させるのではなく、これらの様々な要素の歯車をうまく回し、継続していくことで現地のファンを着実に増やしていき、最終的には長期的に海外で愛されるような、キャラクターブランドを確立したいと思っています。一過性に消費されるのではなく、着実に末永く海外市場を開拓していき、全世界にサンエックスキャラクターのファンを作りたい。そして最終的には、世界中で『誰もが知っているキャラクター』になるように育てていきたいと思っています」

(取材・文/辻内史佳)

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