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制作7年、ガンプラ使わずフルスクラッチの「ガランシェール」完成 圧倒的迫力の大作にSNS驚き「世界大会でもいけそう」

 ガンプラを含む個性豊かな模型作品が数多く出展され、多くのモデラー、模型ファンが足を運んだ展示会「粉展2」。なかでも、全長1.5メートルを超える圧倒的迫力と、稼働ギミックで来場者の目をくぎ付けにしていたのが、『機動戦士ガンダムUC』に登場する航宙貨物船「ガランシェール」。プロモデラーで原型師のみずき匠さん(@mizukitakumi)が、フルスクラッチ(キットなどを使わずゼロから作り上げた)したという大作は、大きな注目を集め、同展で「審査員特別賞」を受賞した。制作7年、今年1月にようやく完成したという本作制作の裏側を聞いた。

50歳の誕生日記念にスタート「当初は1年で作るつもりだった」

――「粉展2」に出展された「ガランシェール」は圧倒的な迫力で、来場者から大きな注目を集めました。この反応をどのように受け止めていますか?
みずき匠見に来てくれた大人も子どももみんな笑顔になっていました。涙を浮かべている人もいました。みんなを笑顔にできる作品が作れてうれしく思います。また、Xで制作の過程をつぶやいていたのですが、みんなが見守ってくれました。完成した喜びをその瞬間みんなが共有してくれました。ライブ会場のような一体感があったと思います。

――実物を拝見しましたが、写真で見る以上に迫力がすごいですね。キットを使わずにフルスクラッチとのことでしたが、制作のきっかけを教えてください。
みずき匠本作を制作する前に「HGUC 1/144 クシャトリヤ」を仮組したんですけど、その時に「これガランシェールくらいなら家で作れるんじゃないか?」と思ったんです。とりあえず「骨組み作ってみよう」と思って、シナ板をカッターで切り出してみたのがスタートでした。50歳の誕生日のことでした。当初は50歳記念に1年で作る予定だったんです。

――それが7年がかりの大作になっていったわけですね。ガンダムシリーズには、さまざまなモビルスーツ(MS)が登場するなかで、どちらかというと「ガランシェール」は地味な存在かと思いますが、ご自身にとってなにか特別な思い入れがあったのですか?
みずき匠『ガンダムUC』冒頭のクシャトリヤの発艦シーンに始まり、終盤まで見せ場をいっぱい作ってくれた「ガランシェール」を立体化したかったんです。曲面で構成された船体の美しさに魅了されました。『ガンダムUC』は、一年戦争に登場するMSがこれでもかというほど出てくる作品ですし、おじさん世代にはたまらない作品ですよね(笑)。

「作り込まれたガンプラを並べても見劣りしない」がモチベーションに

――説明書もないフルスクラッチでの制作ですが、素人にはその工程は想像もつきません。どういった手順で制作を進めていったのですか?
みずき匠工程としては、4ミリ厚のシナ板でフレーム制作→それに合わせてスタイロフォームで外装の原型を制作→FRPを貼り込めば外装の完成です。曲面はほぼこのやり方です。平らな面はプラ板工作です。

――言葉にすると簡単ですが、たくさんの苦労があったかと思います。どのようなことを意識して作業を進められたのですか? また、作業時にイメージしていたものがあれば教えてください。
みずき匠すべてにおいて1/144のスケール感を意識した工作をしました。作り込まれたHGUCのモデルを並べても見劣りしない、そんな模型を作りたかったんです。

 あとは、『ガンダムUC』のすべてのシーンを再現できるように作りました。艦首ブリッジの中ではジンネマンがバナージに蹴られてます。上部ハッチからはスキウレ砲を装備したギラズールが横ハッチからはフル武装のギラズールが出てきます。ジンネマンが乗るベースジャバーもドッキングできます。ユニコーンがつかむグラップルブームもアクチュエーターで可動します。

――完璧ですね。でもその間にはかなりの苦労があったのではないですか?
みずき匠そうですね。FRPで作った外装を組み込んでいったら本体の重量が10キロを超えてしまい、真ん中でぽっきり二つに折れてしまいました。フレームを角材で補強して台座も大きく強固に改修しました。

――苦労して作ったものが真っ二つに…それは心が折れますね。ほかにも苦労したポイント、こだわったポイントを教えてください。
みずき匠曲面で構成されているのでシンメトリーを取るのは大変でした。目検討手作業でよくやりましたね。塗装もこれだけの大きさをベタ塗りにはしたくなかったので、航空機モデルによく使われる手法の“塩マスキング”を何度も繰り返しました。近づいてみると幾層にも塗り重ねられているのがわかると思います。

――さすがのクオリティですね。実際7年がかりで制作したものが完成した時はどのような感想をお持ちになりましたか?
みずき匠よくやり切ったと自分を褒めてあげたくなりました。寝る時ベッドの横にガランシェールがあるんですよ。いい夢を見る予感しかないですよね(笑)。

ガンダムの芯はヒューマンドラマ「そこにかかわる人の姿を感じさせられる作品を作っていきたい」

――近年はSNSなどの発達で、技術・情報の共有によるモデラーのレベルアップも顕著に進んでいるかと思います。ご自身のプロモデラーという立場から見て、このガンプラ界の盛り上がり、モデラーのレベルについてどのようにご覧になっていますか?
みずき匠模型誌だけでなくSNSなどですごい作品を目にする機会が増えたのは喜ばしいことです。材料や道具もどんどん進化して容易にハイディテールな作品が作れるようになりました。モデラーのレベルも上がり、ネットの世界は素晴らしい作品にあふれています。それでもまだ自分の知らない凄腕モデラーはいっぱいいます。展示会などに足を運ぶと「こんなすごい作品を作る人がいたのか!」と思うこともしばしば。SNSだけでなく生の作品が見られる展示会にぜひ皆さんにも参加してほしいです。あなたの知らない世界がそこには広がっています。

――このように盛り上がる機運が高まっている中で、プロモデラーとしてご自身はどのような役割を果たしていきたいですか?
みずき匠いろいろな道具やマテリアルを使った作品を発表することでガンプラの可能性を広げることが、私の使命だと思っています。

――素晴らしいですね。ガンプラを含め、ご自身が制作する際、一番気を付けていることはどんなことですか?
みずき匠ガンダムの芯の部分はヒューマンドラマですよね。そこにかかわる人の姿を感じさせられる作品を作っていきたいです。どんな作品を作る時もそこに人がいる景色を思い浮かべて作っています。MS単体の作品でも、塗装の仕方ひとつでそこに人の息遣いが感じられる、そんな作品を目指していますし、なによりガンダムの世界観を大切にしていきたいです。

――大作を作られたばかりで大変恐縮なのですが、今後の目標、野望をお聞かせください。
みずき匠実は「ガランシェール」を完成させた後に、「スキウレ」をスクラッチしたんですが、すんなり完成させられたんです。なにか、ひとつ壁を超えた感じですね。今ならなんでも作れると思います。何でも来い!という感じです(笑)。

 個人的にはザブングルのランドシップシリーズを1/700で全艦制覇したいです。そしてモデルグラフィックス誌で『別冊ランドシップ』を出してもらうのが当面の野望です。そうなったら皆さん、買ってくださいね。

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