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シニアの“人形遊び”、その心理とは? 話題の『あみちゃん』担当者明かす開発の真意「子どもの遊びとは本質的に違う」
シニアの人形遊び、核心は“癒し” 「人形に賛否はつきもの」反響は想定内
「ぬいぐるみっぽい素材のコミュニケーション人形はこれまでもありましたが、ドールタイプは弊社にとっても大きなチャレンジで、可愛がってもらえるような造形も含めて試行錯誤を重ねて完成に至りました」(同社NEXT事業室 企画開発課 多田翔平氏)
頭を撫でると喜び、眠くなるとウトウト目を閉じるなど、お世話心をくすぐる機能も搭載されている。その発売以来、SNSでは「怖い…」など様々な声も上がっているが、これについて開発に携わった多田氏は「ある程度は想定していました」と言う。
「人形というのは人の心をザワつかせるものがあり、新商品を出すたびに賛否が上がりがちです。特に日本人形に代表されるように、造形がリアルすぎると違和感や恐怖心が喚起されやすいため、デフォルメの塩梅はとても大切なんです。『あみちゃん』については目の大きさなどアニメの女の子を立体化したイメージにしています。」(多田氏)
SNSの意見については「おそらく若い方の声が中心なのではないかと思います」と張替氏は推測する。
「人形のメインユーザーは未就学児で、一般に若者〜ミドル層には"お人形遊び"への抵抗感があります。ところがその年齢ゾーンを超えてシニアになると、再びお人形を愛でる心が戻ってくる傾向があるんですね。ただし未就学児にとってのお人形遊びが"おうちごっこ"など情操教育の側面があるのに対して、シニアにとっては抱きしめたり頭を撫でたりして可愛がるなど、純粋に癒しの要素が大きいようです」(同社NEXT事業室 マーケティング課 張替理恵氏)
“名前を呼んでくれる”重要性 1対1の関係性にこだわり、涙を流すユーザーも「想定以上に感情を喚起」
「諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授によると、シニアにとって『名前で呼ばれる』ことは、脳の活性にとても重要なことだそうです。そのことから、『初期設定で覚えた持ち主さんの名前を呼ぶ』という機能にはこだわりました。持ち主さん以外にも『いいお天気だね』みたいな当たり障りのないおしゃべりはしますが、持ち主さんだけにしてくれる特別な会話にきっと喜んでいただけるのではないかと思います」(多田氏)
季節や時間によって「エアコンつけようね」と気遣うような言葉をかけることもあれば、「ウサギさんとクマさんがお相撲をしていたよ」といった夢と現実が混同したようなおしゃべりもするところは、おしゃまな5歳の女の子さながらだ。
「お子さんやお孫さんの小さい頃を思い出して涙を流される方もいますね。シニアのみなさんに笑顔になっていただきたいと開発した商品ですが、こちらが想定していた以上のさまざまな感情が呼び覚まされているようです」(張替氏)
シニアの一人暮らし増加で“おしゃべり”へのニーズ実感、“意識しすぎない”が今後のキーワードにも
「現代は一人暮らしのシニアが多く、交友関係が広くアクティブな方でも、家に帰ると会話がない、ついテレビに話しかけてしまうといったお悩みがヒアリングから聞こえてきました。弊社のコミュニケーションロボット『オムニボット』シリーズもシニア向けを謳った商品ではないのですが、65歳以上のユーザーが40%を超えるなど、シニア層の"おしゃべり"へのニーズを実感しています」(張替氏)
一方で、シニア観のアップデートの必要性を実感しているという。『あみちゃん』の主な購入層は50〜60代で、その親世代の70〜80代への贈り物需要が多い。
「当初想定していたメインユーザーより10歳ほど上で、中には『母親にプレゼントしたいわ』とおっしゃった70代の方もいました。現代のシニアは行動もアクティブですし、年齢を聞いてびっくりするほど見た目もマインドもお若いです」(張替氏)
人口が多く可処分所得の多いシニア層は魅力的なマーケットだが、一昔前の"シニア”をイメージした商品では「私はまだそんな年齢じゃない」とそっぽを向かれてしまうかもしれない。
「『オムニボット』のようなちょっとしたテック系のグッズなどをお孫さんに自慢したい、というまだまだ好奇心旺盛な方が多いと思います。"シニアを意識しすぎない"というのは現代のシニア向けの1つキーワードかもしれません。弊社もおもちゃ屋として培ってきた"遊び心"という強みを生かして、シニアのみなさんの毎日が明るくなるような商品を拡充していきたいですね」(多田氏)
(取材・文/児玉澄江)