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“アフター東京五輪”にどう向き合う? 選手のメンタル、SNS批判…残された“傷跡”
「選手は黙って試合をしろ」に選手自身がNO! 五輪報道に問題点も
「大坂なおみ選手のときも、彼女の行動にいろいろと言う人はいましたが、アスリートたちはみんな『よく言った、声に出せたのは良かった』という論調でした。これまで、『選手は黙って試合をしていればいい』という風潮でしたが、選手自身が自分のメンタルヘルスにも意識を向けてほしいと言えるようになったのは、非常に大きな一歩だと思います。バイルス選手も大坂選手も、棄権することによって成績は残りません。その選択を受け入れてでも、自分を大切にし、発信するというのは、決して弱さではないと思うのです。大坂選手が投げかけた『負けた人間にメディアのインタビューが必要なのか?』という疑問も、その是非というより、より良くするためにはどうしたらいいのか、という議論の場を提供したという意味で、とても有意義なことだと思います」。
とかくメディアは五輪や世界大会に対して、「メダル〇個獲得」「連覇がかかる」というように、過度の期待をもって取り上げがちだ。こうした報道に対しても、選手のメンタルヘルスの観点から言えば、マイナスでしかないという。
「メンタルのサポートをする側から言えば、正直なところやめていただきたいです(笑)。我々がもっとも重視しているのは、本番で選手がいかに伸び伸びと自分らしく、いつも通りの力を発揮できるかということ。そうすることが、おのずと良い結果に結びつくと思っています。ただ、報道やSNS、周囲からのプレッシャーなど、それを阻む要素が一定数あるのも事実です」。
プレッシャー背負う“日本のお家芸”、「強靭なメンタルも一流アスリートの証」という報道姿勢は逆効果
「特に“日本のお家芸”と呼ばれる柔道、体操、水泳、レスリングなどの競技などでは、どうしても『国の威信をかけて』というプレッシャーがかかります。他の競技でも、金メダルを獲って当たり前のように周囲や関係者が思い込んでしまうと、無意識のうちに選手たちは追いこまれてしまいます。もちろん、そのなかで結果を出せることは本当に素晴らしいことです。だけど無意識のプレッシャーを受けたまま競技をすると、必要以上に力んでしまったり、思わぬところでミスが出たりします。『まさか!』と思うようなミスやアクシデントのほとんどが、選手本人も気が付かないメンタルの乱れや揺れです。選手たちは壮絶な緊張感の舞台で世界の強敵たちを闘うわけですから、少しでも負担となるものは外してあげたい。いま我々がやるべきは、そんなプレッシャーから選手を解放してあげること。伸び伸びといつも通りの実力を発揮させてあげることです」。
以前は、過度なプレッシャーをも乗り越える強靭なメンタルを備えることが、“一流アスリートの証”と言われた時代もあった。現在でもそういった考えは、とくにスポーツ界では根強いように感じられる。
「もちろん、世界を目指す選手はフィジカル的なトレーニングで限界まで自分を追い込んでいく必要があると思うし、技術の向上は練習量に比例します。それが自信にもつながってくる。ただ、そういった追い込みは試合のかなり前に行うこと。大会直前、競技直前には、余分なストレスを極力減らし、メンタルをしっかりと整え、これまで培ったフィジカルの力を最大限発揮できるように、リラックスさせることが大切です。競技を前にした選手に、『国の威信にかけて…』などとハッパをかけることは、決してプラスにはならない。変なプレッシャーに打ち勝つことが競技ではないし、メンタルに影響する問題を我慢させることは、正しいことではないのです」。